那須連山の東麓を、標高で気温を選びながら二泊三日で渡る旅の宿として、編集部が三軒を選んだ。湯治客が長逗留した板室温泉のぬる湯を起点に、翌日は那須高原へ上がり、現代美術を敷地に据える小さな宿と、林間のオーベルジュを継ぐ。賑わう那須本通りの喧騒からは意図して外れ、移動はすべて車。避暑と保養、そして「アートを継ぐ」という主題で、山あいの上質な三軒をつなぐ道筋である。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 板室温泉 大黒屋 | 那須塩原・板室 | 93 | 31 | ¥57–¥70k | もの派・菅木志雄を常設する「保養とアート」の宿 |
| 2 | 那須 無垢の音 | 那須町・高久 | 88 | 十数室 | — | 石上純也「水庭」に寄り添う滞在型リゾート |
| 3 | オーベルジュ ラ・カンパーニュ | 那須高原東 | 84 | 6 | ¥34–¥48k | 1988年開業、オーナーシェフの林間フレンチ |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。〈那須 無垢の音〉は集計に足る販売データが揃わないため、価格は掲載していません。
Day 1 — 東北道を降り、板室のぬる湯へ
東北自動車道・黒磯板室ICを降り、那珂川の源流域に沿って車で約20分。那須の主脈が近づくにつれ、観光地の賑わいは背後に退く。板室温泉は古くから湯治の湯として知られ、ぬるめの湯に長く体を沈める「保養」の作法が土地に根づいてきた。一日目は、その板室で最も名を知られた一軒に入る。
1. 板室温泉 大黒屋 — 那須塩原市・板室
創業1551年。もの派・菅木志雄を常設する「倉庫美術館」を敷地に持つ、保養とアートの宿。
Media Picks Score: 93 / 100 31室、保養温泉旅館。
目安価格 ¥57,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大黒屋を性格づけているのは、湯とアートを同じ重さで扱う姿勢である。1980年代後半から「保養とアートの宿」を掲げ、館内のサロンでは毎月、現代美術や工芸の展覧会を替える。核にあるのは、もの派を代表する作家・菅木志雄の作品のみを常時展示する「倉庫美術館」。作家一人の作品を恒常展示する美術館としては世界でも例がない。源泉掛け流しのぬる湯と、身体に負担の少ない料理。この三点が、賑わいから距離を置いた保養の輪郭をつくる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、静けさと湯の質、そして館内に置かれた美術・工芸への評価が繰り返し確認される。滞在の目的が「観光」ではなく「逗留」に寄っているという傾向も読み取れる。一方で、賑やかな設備や娯楽を求める滞在には向かないという声も相応にあり、宿の主題がはっきり分かれる一軒だと言える。
向く人 / 向かない人
-
向く:
ぬる湯に長く浸かる保養が目的の旅、現代美術・工芸に関心のある大人、静けさを最優先する二人旅 -
向かない:
幼児連れで館内の静穏が保ちにくい家族、観光施設を数多く巡る慌ただしい旅程、熱めの湯を好む人
具体情報
- アクセス: 東北自動車道・黒磯板室ICから車で約20分(板室温泉郷内)
- 客室: 全31室
- 湯: 源泉掛け流しのぬる湯(板室温泉)
- アート: 菅木志雄を常設する「倉庫美術館」、庭に彫刻「天の点景」
- 創業: 1551年(天文20年)
Day 2 — 板室から那須高原へ上がる
翌朝、板室を発ち、県道を東へ。標高を上げながら那須高原へ向かうと、車で約30分で林の密度が変わる。二日目に継ぐのは、かつて水田だった土地に作られた「水庭」を敷地の核に据える宿である。
2. 那須 無垢の音 — 那須町・高久
建築家・石上純也の「水庭」に寄り添って泊まる、5,000坪の滞在型リゾート。
Media Picks Score: 88 / 100 十数室規模、滞在型リゾート(旧アートビオトープ那須/2024年に無垢の音として再開)。

なぜ選ばれるか
この宿の主題は、明確に「水庭」である。2018年に完成したこのランドスケープは、世界的に活躍する建築家・石上純也の設計によるもの。かつての水田に、318本のコナラやブナと160の小さな池、自然石をパズルのように配し、土地の記憶を庭として再構成した。約5,000坪の敷地に宿泊棟・レストラン・吹きガラスなどのスタジオが点在し、宿泊者は開館前後の静かな時間に庭を歩ける。現代美術を「敷地そのもの」に据えるという、この旅の二軒目にふさわしい一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、水庭の景観と敷地全体の静けさ、時間帯によって表情を変える光と水への評価が突出して確認される。滞在の価値が客室単体よりも敷地の体験に置かれているという傾向も見て取れる。名称変更を経て日が浅く、運営の細部については評価が定まりきっていない面もあり、その点は含んで訪ねたい。
向く人 / 向かない人
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向く:
建築・ランドスケープに関心のある旅、庭を静かに歩きたい二人旅、朝夕の光を目当てに連泊したい人 -
向かない:
温泉旅館らしい湯を第一に求める旅、雨天で庭を歩けないと満足度が下がる旅程、細かな接客の様式を重んじる人
具体情報
- アクセス: 東北自動車道・那須ICから車で約15分(板室〈大黒屋〉からは車で約30分)
- 敷地: 約5,000坪。宿泊棟(レジデンス/スイートヴィラ)とレストラン、ガラススタジオ
- 水庭: 建築家・石上純也 設計、2018年完成。樹木318本・池160・自然石で構成
- 沿革: 旧アートビオトープ那須。2024年に「那須 無垢の音」として再開
Day 3 — 林間のオーベルジュで締めくくる
三日目は、那須高原の東側へ車で約15分。皿の上に土地の実りを移す、林間のフレンチ・オーベルジュを継ぐ。連泊せず一日目に湯、二日目に庭、三日目に食と主題を替えたい旅程なら、二泊目をこのオーベルジュに置く選択もある。
3. オーベルジュ ラ・カンパーニュ — 那須町・高久(那須高原東)
1988年開業、オーナーシェフが厨房に立つ全6室の林間フレンチ・オーベルジュ。
Media Picks Score: 84 / 100 6室、オーベルジュ。
目安価格 ¥34,000–¥48,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
ラ・カンパーニュは、オーナーシェフ・橋本眞一郎が1988年に開いた小さなオーベルジュである。フレンチとイタリアンで腕を磨いた料理人が、那須高原の澄んだ空気と緑に囲まれた環境で、皿を組み立てる。客室はわずか6室。宿というより「厨房のある森の家」に近い規模で、料理を目的に訪ねる旅に向く。派手さではなく、料理と静けさの密度でこの旅を締めくくる一軒だと言える。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理そのものへの評価と、少室数ゆえの落ち着いた滞在感が繰り返し確認される。オーナーシェフの手が全体に行き届く規模であることが、満足の核になっているという傾向も読み取れる。一方で、大型宿のような設備や多彩なプランを期待する滞在には向かないという声もあり、目的が料理に定まった旅にこそ合う。
向く人 / 向かない人
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向く:
料理を旅の主題に据える二人旅、少室数の静かな滞在を望む人、フレンチ・オーベルジュの文化を楽しみたい人 -
向かない:
大浴場や多彩な館内施設を求める旅、幼児連れで長時間のディナーが難しい家族、和食中心の献立を望む人
具体情報
- アクセス: 東北自動車道・那須ICから車で約15分(那須高原東/無垢の音からは車で約15分)
- 客室: 全6室
- 料理: オーナーシェフによるフレンチ主体のコース(ディナーは要予約)
- 定休: 火曜・水曜(レストラン営業)
- 開業: 1988年
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 標高の恩恵を最も受けるのは初夏から初秋にかけての避暑期です。那須高原は夏でも朝晩は涼しく、水庭の緑も濃い。編集部が推す時期は、混雑が一段落しつつ緑と光が残る初秋。紅葉期は美しい反面、道路が混みやすい点を見込んでおきたいところです。
Q. 車がないと巡れませんか?
A. この三軒は板室温泉郷、那須高原、那須高原東と分かれて位置し、区間はいずれも車で15〜30分です。公共交通での横移動は現実的でないため、レンタカー等の車移動を前提に組み立てるのが無理のない旅程になります。
Q. 二泊三日で三軒すべてに泊まれますか?
A. 二泊であれば、宿泊は〈大黒屋〉と〈無垢の音〉の二軒、三日目に〈ラ・カンパーニュ〉で昼のコースを継ぐ流れが素直です。料理を主題に置きたい場合は、二泊目を〈ラ・カンパーニュ〉にして〈無垢の音〉を水庭見学のみとする組み替えもできます。
Q. 星野リゾート系の施設は含まれますか?
A. 本記事は運営規模の大きいリゾートブランドではなく、板室〜那須高原の小規模な宿を主題にしています。掲載三軒はいずれも独立系の小さな宿で、大型ブランド施設は選定に含めていません。
Q. アートに詳しくなくても楽しめますか?
A. 楽しめます。〈大黒屋〉の菅木志雄も〈無垢の音〉の水庭も、解説を追わずとも、湯や庭を歩く体験そのものが入口になります。予備知識よりも、速度を落として滞在する時間の取り方が、この旅の鍵になります。
本記事の参考情報
・那須高原観光協会 — 那須高原エリアの観光情報
・Wikipedia: 板室温泉大黒屋 — 宿とアートの歴史的背景
・Wikipedia: 石上純也 — 「水庭」を手がけた建築家
編集部から
三軒に通底するのは、「速度を落とす」という一点である。板室のぬる湯で体を沈め、那須高原の水庭を歩く速さで受け取り、林間の厨房で一皿ずつ時間をかける。湯・庭・食と主題は替わるが、いずれも急いでは味わえない。避暑の標高を選びながら、観光地の本通りをあえて外れて渡る二泊三日。次はどの主題を起点に、この山あいを歩き直してみたいだろうか。