建築家の名で宿を選ぶという旅がある。客室の意匠や眺望ではなく、誰が設計したかから入る滞在。Wabistay 編集部が国内から選んだのは、隈研吾と安藤忠雄の二人がそれぞれの思想で手がけた 5 軒である。SANAA は美術館や教育施設に重心を置く事務所のため、現時点で同列に並ぶ商業ホテルは少ないが、ふたりの巨匠の系譜だけでも、日本の建築観光は十分に深い。

# ホテル エリア 建築家 Score 客室 目安価格
1 ベネッセハウス 香川・直島 安藤忠雄 94 65 ¥73–¥92k
2 ふふ 奈良 奈良公園内 隈研吾 93 30 ¥134–¥239k
3 エースホテル京都 京都・烏丸 隈研吾(監修) 92 213 ¥62–¥107k
4 瀬戸内リトリート 青凪 愛媛・松山 安藤忠雄 91 7 ¥144–¥232k
5 ATAMI 海峯楼 静岡・熱海 隈研吾 90 4 ¥103–¥213k

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. ベネッセハウス — 香川・直島

瀬戸内の島に、美術館とホテルが一体化した 65 室。安藤忠雄の打ち放しコンクリートに、アートと海光が降りる。

Media Picks Score: 94 / 100  65室、ミュージアム・オーバル・パーク・ビーチの 4 棟構成。

目安価格 ¥73,000–¥92,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ベネッセハウス — 香川・直島 · 安藤忠雄設計、瀬戸内海に開かれた美術館一体型ホテル
PHOTO: ベネッセハウス — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

1992 年にミュージアムが竣工、以降オーバル(1995)、パーク・ビーチ(2006)と段階的に展開してきた、安藤忠雄による直島プロジェクトの中核施設である。打ち放しコンクリートの量塊と、瀬戸内海に向かって切り取られた光の取り入れ方が一貫している。客室から扉一枚で美術館に入れる構造は、世界を見ても類例が少ない。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建築とアートを目的に訪れた層からの評価が突出して高い。一方で、立地は離島のためアクセスに時間を要する旨の指摘も見られる。食事は瀬戸内の素材を用いた近代的な構成で、評価は安定している。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 建築・現代美術を目的にする旅、瀬戸内国際芸術祭の会期に滞在を組む旅、二泊以上で島内をゆっくり巡る旅
  • 向かない: 一泊で観光を済ませたい短期日程、小さな子どもを連れて館内で過ごしたい家族(美術館要素が強い)

具体情報

  • 最寄り港: 宮浦港から専用送迎バスでアクセス
  • 客室構成: ミュージアム / オーバル / パーク / ビーチの 4 棟 計 65 室
  • 美術館特典: 宿泊者は地中美術館などの夜間鑑賞・無料入館が可能
  • 食事: フレンチを基調にした瀬戸内素材のコース、朝食はビュッフェ形式
  • 開業: 1992年(ミュージアム棟)


2. ふふ 奈良 — 奈良公園内

奈良公園の只中に 30 室。隈研吾が「庭屋一如」の思想で組んだ、吉野杉の数寄屋とリゾートの折衷。

Media Picks Score: 93 / 100  30室、全室70㎡以上のオールスイート。

目安価格 ¥134,000–¥239,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ふふ 奈良 — 奈良公園内 · 隈研吾設計、吉野杉と大和張りの数寄屋風スモールラグジュアリー
PHOTO: ふふ 奈良 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

2020 年 6 月開業、奈良公園内では初のリゾート型ホテルとして話題を集めた。建築は隈研吾が手掛け、奈良の伝統建築の語彙である大和張り、奈良格子、連子格子を再構成。外観は奈良の墨を意識したシックな佇まいで、客室には吉野杉が惜しみなく使われている。古都の文化的文脈を、現代の宿として翻訳しきった一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、空間の静謐さと食事への評価が継続的に高い。サービス面でも丁寧との声が多く、観光地中心部に立地しながら宿そのものが目的地になり得る稀少な構成。価格帯は奈良市内の他施設より明確に上だが、それを納得させる作り込みだという感想が多い。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 記念日・節目の旅、建築家の名で宿を選びたい人、奈良の社寺巡りを中心に据えた数日旅程
  • 向かない: 価格優先の旅、賑やかな繁華街でのナイトライフを求める人、子連れの大人数旅行

具体情報

  • 最寄り駅: 近鉄奈良駅から徒歩約 10 分(タクシー約 5 分)
  • 客室サイズ: 全 30 室、70 ㎡ 以上のオールスイート
  • 食事: 朝・夕とも個室会席、大和野菜と地物を中心に据える
  • 建築: 隈研吾建築都市設計事務所、吉野杉・奈良格子使用
  • 開業: 2020年6月5日


3. エースホテル京都 — 京都・烏丸

京都の旧電電公社ビル跡を再生した、隈研吾建築監修の都市型ホテル。木組みと格子が現代の烏丸通に重ねられる。

Media Picks Score: 92 / 100  213室、商業施設「新風館」と一体の都市型ホテル。

目安価格 ¥62,000–¥107,000 / 泊 (2名1室・通常期)


エースホテル京都 — 京都・烏丸 · 隈研吾建築監修、新風館跡地に木組みとルーバーで再構築されたデザインホテル
PHOTO: エースホテル京都 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

2020 年、京都・烏丸御池の「新風館」リニューアルと同時に開業。商業施設としての新風館はもともと武田五一による旧京都中央電話局の意匠を継いだもので、その敷地を隈研吾が再構成、ホテル部分の建築監修も担当している。アメリカ西海岸発のエースホテルが日本初進出したこと、その器を日本の建築家が手掛けたことの両義性が、このホテルの個性をつくっている。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、デザイン・滞在感・周辺商業施設との一体感への評価が高い。客室は同価格帯の京都市内ホテルと比して広めで、家具・テキスタイル類への満足度も安定する。一方で、京都の伝統的な「和」を求める層には新鮮さが強すぎる、との指摘もある。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 都市プレミアム志向、ロビーで仕事する旅、京都中心部を起点に動く旅、デザイン家具に関心がある人
  • 向かない: 純和風の数寄屋・町家を体験したい旅、静謐さを最優先したい滞在

具体情報

  • 最寄り駅: 京都市営地下鉄 烏丸御池駅から直結
  • 客室数: 213室、9 タイプ(27 ㎡〜の広さ)
  • 食事: 館内に Stumptown コーヒー、Mr.MAURICE’S ITALIAN、PIOPIKO 等の独立飲食店
  • 建築: 隈研吾建築都市設計事務所(監修)、内装は Commune Design
  • 開業: 2020年6月


4. 瀬戸内リトリート 青凪 — 愛媛・松山

松山の山中、安藤忠雄の打ち放しコンクリートを 7 室の宿に転用した、巨大な茶室のような滞在空間。

Media Picks Score: 91 / 100  7室、オールスイートのミニマルラグジュアリー。

目安価格 ¥144,000–¥232,000 / 泊 (2名1室・通常期)


瀬戸内リトリート 青凪 — 愛媛・松山 · 安藤忠雄設計、5階建ての打ち放しコンクリートに 7 室のみ
PHOTO: 瀬戸内リトリート 青凪 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

もともとは大王製紙が 1998 年に建てた招待客向けの宿泊施設で、館内の一部は「エリエール美術館」として公開されていた。2015 年 12 月、温故知新がホテルとして再生、現在はオールスイート 7 室というスケールに絞り込んでいる。本館は地上 5 階、別館 4 階、いずれも安藤忠雄による打ち放しコンクリートの量塊。瀬戸内の山中に建つ巨大な茶室、と言ってよい。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建築・静けさ・スパへの評価がいずれも高い。ミシュランガイド広島・愛媛 2018 特別版で 5 レッドパビリオン、ワールドラグジュアリーホテルアワード 2019 受賞など、海外評価も継続的に積み上げている。アクセスは松山市街から車で約 25 分、不便さは滞在の質と表裏一体である。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 1泊2日ですべての時間を宿で過ごす旅、安藤忠雄建築を巡る人、二人だけの記念日、貸切スパ需要
  • 向かない: 観光地を多く回りたい旅程、子連れ家族、自然光より装飾を求めるインテリア志向

具体情報

  • 最寄り: 松山空港・JR松山駅から車でアクセス
  • 客室数: 全 7 室(オールスイート)、屋外プール・ジャグジー・スパ併設
  • 食事: 瀬戸内の素材を用いたコース料理、館内ダイニング
  • 受賞: ミシュランガイド広島・愛媛 2018 特別版 5 レッドパビリオン
  • ホテル開業: 2015年12月20日(建物竣工は1998年)


5. ATAMI 海峯楼 — 静岡・熱海

相模湾を望む高台に、水とガラスで構成された 4 室のみ。隈研吾の初期代表作が、そのまま宿として現れる。

Media Picks Score: 90 / 100  4室、水とガラスをテーマにした隈研吾建築。

目安価格 ¥103,000–¥213,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ATAMI 海峯楼 — 静岡・熱海 · 隈研吾「水とガラス」をテーマとした 4 室のみのスモールラグジュアリー
PHOTO: ATAMI 海峯楼 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

1995 年、隈研吾が「水とガラス」をテーマに設計した企業のゲストハウスが原型である。2010 年から宿泊施設として公開され、2022 年 12 月にリニューアルオープン。客室は 4 室のみ、すべてのスイートが相模湾と初島・大島の眺望を持ち、いずれかに水盤が組み込まれている。建築単体での美術的価値が高く、宿としての規模は事実上、極小に近い。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建築・眺望・静けさへの評価が際立って高い。一方で、建物は 30 年近い経年を経ており、設備の古さを指摘する声も一部にある。それを織り込んだうえで「建築を泊まる」という目的が明確な客層が中心という構成。2023 年からは新設の日本料理「楽精庵」が滞在価値を強化している。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 隈研吾の初期建築を見たい人、二人だけの記念日、東京から週末に動ける範囲を求める旅
  • 向かない: 大規模温泉宿の設備感を求める人、家族 4 人以上の同行、最新設備の完全さを最優先する旅

具体情報

  • 最寄り: JR熱海駅から車で約 5 分(送迎あり)
  • 客室数: 全 4 室、全室オーシャンビュー・水盤付き
  • 食事: 館内日本料理「楽精庵」(2023年1月開業)
  • 建築: 隈研吾、テーマは「水とガラス」
  • 竣工: 1995年(リニューアルは2022年12月)


よくある質問

Q. 建築家の名で宿を選ぶ場合、設計と監修の違いはどう見ればよいですか?

A. 厳密には「設計」は実施設計まで建築家事務所が担当した案件、「監修」は意匠の方針決定までを担当し、実施設計は別事務所が引き取る案件を指す。本稿ではベネッセハウス・瀬戸内リトリート青凪・ふふ奈良・ATAMI 海峯楼が設計、エースホテル京都が監修にあたる。体験価値としては監修案件でも建築家の意図は強く出る。

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 直島・松山は梅雨入り前の 5–6 月と、空気の澄む 10–11 月が安定する。奈良は早春と紅葉期、熱海は冬の海光と桜時期。京都は四季それぞれだが、価格と混雑の両立を取るなら晩秋を編集部は推す。

Q. 予約のタイミングは?

A. ベネッセハウス・瀬戸内リトリート青凪・ATAMI 海峯楼の 3 軒は客室数が 65 室・7 室・4 室と少なく、週末は 2〜3 か月先まで埋まることが多い。ふふ 奈良、エースホテル京都は連休期を除けば 1 か月程度の余裕がある。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 規約上は受け入れる施設が多いが、本稿に挙げた 5 軒はいずれも静けさと美的体験を主眼に据えた構成のため、未就学児を伴う旅には不向きである。家族旅は別テーマで取り上げる。

Q. SANAA 設計のホテルはなぜ含まれないのですか?

A. SANAA(妹島和世+西沢立衛)は美術館、学校、集合住宅を中心に活動しており、現時点で日本国内に同等のプレミアム商業ホテルがほぼ存在しない。一棟貸しや個人邸の例はあるが、本稿の比較対象とはスケールが異なる。今後の動向は別途追う。

本記事の参考情報

ベネッセアートサイト直島 — 直島・豊島・犬島のアート・建築プロジェクト全体の情報源
隈研吾建築都市設計事務所 — 各プロジェクトの設計意図
安藤忠雄建築研究所 — 直島・青凪を含む作品リスト

編集部から

建築家で宿を選ぶ旅は、観光地を巡る旅とは違う体感を残す。建物そのものを目的にした旅程は、季節を選ばず、滞在時間が長くなる。今回挙げた 5 軒は、いずれも一泊では惜しい構成で、特に直島・松山は二泊以上で組むのが妥当である。次は「建築家で選ぶ美術館・教育施設併設の宿」「妹島和世+西沢立衛が将来手掛ける可能性のある宿泊施設」へと、視点を広げていきたい。