京都を一人、あるいは二人で静かに過ごすラグジュアリーの解として、編集部がまず挙げたい一軒がアマン京都である。京都駅から車で北へ約20分、鷹峯三山の山裾に広がる西賀茂の森に、全24室・26棟のパビリオンが散在する。祇園や東山の町家ホテル群が街の記憶に寄り添うのに対し、この宿は森そのものを敷地とし、建築を風景の中に沈める。設計は、アマンダリやアマンプロを手がけた豪州の建築家ケリー・ヒル。2019年に開いた本作は、彼が2018年に世を去る直前の仕事のひとつで、遺作に近い一軒である。本稿では、その配置図と動線を手がかりに、森林浴と建築の関係を読み解く。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。


アマン京都 — 京都市北区西賀茂 · 鷹峯三山の山裾、苔と石庭に散在する26棟のパビリオン配置
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Media Picks Score: 88 / 100  全24室・26棟、森林リゾート。目安価格 ¥549,000–¥648,000 / 泊 (2名1室・通常期)

森を敷地にするという選択

西賀茂の森は、もともとある実業家が織物美術館を構想して集めた土地だという。石が運び込まれ、庭の骨格が半ばまで組まれたまま、長く手つかずで眠っていた。ケリー・ヒルはその既存の石組みと苔の層を消さず、むしろ与件として引き受けた。谷筋に沿って細い石畳の小径を通し、そこにパビリオンを点として置く。全体を一望させる主軸を意図的に避け、歩く者が角を折れるたびに次の棟が姿を現す。建築は森に対して主張せず、黒に近い外壁と切妻の低い屋根で、樹幹の間に沈み込む。京都の町家ホテルが通りに面して顔を持つのとは、まるで逆の設計思想である。

アマン京都 — 西賀茂の森 · 苔庭と石畳がパビリオンをつなぐ、ケリー・ヒル設計の外構
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26棟の配置と動線を読む

敷地には26棟が散在する。うち客室を収めるのは複数のパビリオンで、全体で24室。残りはリビングパビリオン、ダイニング「鷹庵」、スパ、そして湯屋といった共用棟が占める。注目すべきは、客室棟と共用棟を結ぶのが屋根のない外部の小径であることだ。食事に向かう、湯へ向かう、部屋へ戻る——その一つひとつの移動が、森の中を歩く時間として設計されている。雨の日には石が濡れて色を深め、盛夏には木洩れ日が石畳に落ちる。移動を「渡り」ではなく「体験」に変えたこの割り切りが、この宿の輪郭を決めている。滞在中、人は否応なく一日に何度も森を歩くことになる。

アマン京都 — リビングパビリオン · 障子と黒基調の内装が森の緑陰を切り取る共用棟
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客室——障子が切り取る緑陰

客室は間仕切りを減らし、床から天井までの開口で森の緑をそのまま室内に取り込む。基調は黒に近い濃色の木と、和紙の白。装飾は極端に抑えられ、素材のテクスチャと光の移ろいだけが空間を語る。多くの棟に内風呂が据えられ、湯に浸かりながら樹幹の垂直線を眺める構成になっている。京都の意匠を引用しつつ、床の間や欄間といった記号的な和の要素はほとんど用いない。ケリー・ヒルが得意とした、土地の空気を抽象化して残す手つきが、ここでも一貫している。数寄屋の直接の再現ではなく、その静けさの成分だけを抽出したような客室である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価は建築と静けさに集中する。森の中の動線、共用棟からの眺め、湯屋での時間に高い支持が集まる一方、価格感については割れが見られる。1泊で数十万円という水準に対し、都心の観光利便を求める層とは相性が分かれる。街の名所を効率よく巡る旅程には向かず、宿そのものに滞在時間を預けられるかどうかが、満足の分岐点になっている。食や接客への評価は総じて安定しているが、この宿の核心はやはり建築と森の関係にあると、集約された声は示している。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    建築・デザインを目的に旅する人、記念日に街の喧騒から離れたいカップル、宿に長く滞在時間を預けられる旅程
  • 向かない:
    金閣寺以外の名所も効率よく巡りたい旅程(都心から車で20分の距離がある)、価格を最優先で宿を選ぶ旅、幼児連れで段差の多い外部動線に不安がある家族

具体情報

  • 立地: 京都市北区西賀茂・鷹峯三山の山裾(京都駅から車で約20分)
  • 客室・棟数: 全24室 / 敷地内26棟(客室棟+共用棟)
  • 共用施設: ダイニング「鷹庵」、リビングパビリオン、スパ、湯屋
  • 設計: ケリー・ヒル(Kerry Hill Architects)
  • 開業: 2019年11月
  • 目安価格: 1泊2名 ¥549,000〜¥648,000(通常期・参考値)

立地と周辺——鷹峯・西賀茂という土地

西賀茂は、京都市北区の北端、鷹峯三山の裾に広がる一帯である。かつて本阿弥光悦が芸術家の集落を営んだ鷹峯に近く、光悦寺や源光庵など、紅葉期にも比較的静かな古刹が点在する。市街の碁盤目からは外れ、車でしか届きにくい距離が、結果としてこの宿の静けさを担保している。金閣寺までは車で数分、京都駅までは約20分。名所巡りの拠点というより、都心の観光から一歩退いて森に籠るための場所と考えるのが、この立地の正しい読み方だろう。

Media Picks Score

88 / 100 — 評価の内訳は、立地の独自性(森林リゾートとしての希少性)、建築(ケリー・ヒルの遺作性と配置の完成度)、体験(動線そのものを滞在に変える設計)が高く、価格感は水準相応、編集適合度はデザイン軸で最上位。公開レビューデータを集計した傾向と、建築的価値への編集部の評価を合わせた総合値である。

よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 苔と石畳が潤う盛夏の緑陰、そして鷹峯の紅葉期が、この宿の外部動線を最も美しく見せる。編集部が推す時期は、湿度が石の色を深める梅雨明けの盛夏と、周辺の古刹が色づく晩秋である。冬は雪をまとった森の静けさもまた別の魅力になる。

Q. アクセスは?

A. 京都駅から車で約20分、金閣寺からは車で数分。公共交通の便は限られるため、送迎やタクシーの利用が前提になる。市街の観光を効率で組むより、宿を目的地として滞在する旅程に向く立地である。

Q. 建築を目的に訪れる価値はありますか?

A. ある。ケリー・ヒルの晩年の仕事のひとつで、26棟のパビリオンを森に散在させる配置は、彼の一貫した設計思想が京都の地形で結実した例である。客室内装から共用棟、外部動線まで、抽象化された和の空間を通して読み解ける。

Q. 子連れでも滞在できますか?

A. 滞在自体は可能だが、屋外の石畳や段差の多い動線があり、静けさを核心とする宿でもあるため、幼児連れには環境として選ぶ人を選ぶ。落ち着いた滞在を望む大人の旅程に最も合う一軒である。

Q. 食事はどのような内容ですか?

A. ダイニング「鷹庵」で日本料理を中心に供される。素材と季節を軸にした構成で、装飾を抑えた空間で味わう点も含めて、この宿の設計思想と一貫している。

本記事の参考情報

京都観光オフィシャルサイト(京都市観光協会) — エリアの観光情報
Wikipedia: 鷹ヶ峰 — 鷹峯・西賀茂の歴史と地理の背景
Wikipedia: Kerry Hill Architects — 設計者の経歴と主要作

編集部から

アマン京都を一軒として読むと、ラグジュアリーの定義がひとつではないことがよくわかる。都心の利便を極めた町家ホテルとも、名料理を掲げる高級旅館とも異なり、この宿は「森を歩く時間」そのものを商品にしている。ケリー・ヒルが遺した配置図は、建築が風景に何を足し、何を引くべきかという問いへの、静かな回答でもある。次にこの土地を訪ねるとき、私たちは客室の広さより、雨に濡れた石畳の一本の小径を思い出すのかもしれない。あなたが京都に求める静けさは、街の側にあるだろうか、それとも森の側にあるだろうか。

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