東京都港区赤坂、外堀通りから入った旧氷川神社の至近に、2026年3月5日、米国SHグループの「1 Hotels」が日本初進出した。「東京ワールドゲート赤坂」の超高層棟「赤坂トラストタワー」38–43階に入る211室のサステナブルラグジュアリーホテルである。本稿はレストランやスパといった宿泊機能の紹介を目的としない。ファサードのエントランスに張られた緑の壁、共用部に組み込まれた苔と回収木材、客室テラスから屋上庭園へと地続きに伸びる植栽計画を、ひとつの建築論として読み直す。設計はニューヨークに拠点を置くCRÈME(Studio CRÈME)。開発はSHグループと森トラストの合弁体制で、CASBEE Sランクを取得している。


1 Hotel Tokyo — 東京・赤坂 · 赤坂トラストタワー38–43階、CRÈME設計のバイオフィリック・ラグジュアリー
PHOTO: 1 Hotel Tokyo — 公式サイトを見る →

Media Picks Score: 94 / 100  211室、サステナブルラグジュアリー(バイオフィリック)。
東京都港区赤坂2-17-22 赤坂トラストタワー38–43階 — 東京メトロ赤坂駅徒歩約3分、溜池山王駅徒歩約5分。

目安価格 ¥126,000〜¥185,000 / 泊 (2名1室・通常期)

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)。

SHグループ「1 Hotels」が日本に持ち込んだもの

「1 Hotels」は2015年、ニューヨークのSHグループ(Starwood Capitalグループ系列、Barry Sternlicht創業)が「自然と都市の共生」を掲げて立ち上げたブランドだ。サウスビーチ、セントラルパーク、ブルックリンブリッジ、ウェストハリウッド、サンフランシスコ、トロント、メルボルン、コペンハーゲン、ナッシュビル、ロンドン、ハナレイベイ、メイフェアなど、現在世界14拠点で展開されている。共通する設計言語は、第一に「再生材料の可視化」、第二に「共用部・客室双方への植栽の物理的組み込み」、第三に「ブランド意匠の最小化(ロゴサイズの抑制と素材の前景化)」の三点に整理できる。

日本市場では先行する赤坂・港区案件として、ジャン・ヌーヴェル設計のアマン東京(2014年大手町オープン)、虎ノ門エディション(2020年虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー内)、フォーシーズンズ大手町、ザ・キャピトルホテル東急(隈研吾設計)などがある。これらと1 Hotel Tokyoが分かたれるのは、ラグジュアリー文法の選択そのものだ。アマン・フォーシーズンズが「素材の高級化と空間のミニマル化」を軸に据えるのに対し、1 Hotelsは「素材の出自を語ること」と「植物の物量での圧倒」を軸に据える。前者がモダニズムの完成形を志向するなら、後者は2010年代以降に成立した「サステナブルラグジュアリー」というジャンルの最新形と読める。

立地条件 — 超高層オフィス棟の上層へ挿入される葉

赤坂トラストタワーは森トラストが2024年に竣工させたミクストユース複合「東京ワールドゲート赤坂」の中核棟である。地上43階、地下4階、高さ約230m。下層から中層にかけてはオフィスが入り、ホテルは38階から43階の上層6フロアを占有する。客室は北西側に皇居外苑、東側に東京タワーと六本木方面のスカイラインを望む。

ここで設計上の最大の挑戦は、「超高層オフィスタワーの最上層に、地面と切り離された状態でバイオフィリック・ホテルをどう成立させるか」という問いに対する解答にある。地続きの庭を持てない垂直積層構造の上に、いかにして「自然との連続性」という1 Hotelsの中核体験を翻訳するか。CRÈMEの解答は、地上から運び上げる植栽の物量を最大化し、共用部・客室テラス・屋上庭園を「垂直方向の庭の段」として積層配置することだった。低層階のロビーから始まる緑の壁は、客室階の廊下、客室テラスの植栽、そして屋上庭園へと、フロアを跨いで連続するシークエンスを描いている。


1 Hotel Tokyo — フロントデスク、共用部の植栽壁と回収木材を組んだ天井
PHOTO: 1 Hotel Tokyo フロントエリア — 公式サイトを見る →

素材選定 — 大谷石・再生木材・京都産竹・回収パレット

1 Hotel Tokyoの素材リストは、CRÈMEとSHグループが共有してきた「土地由来の素材を可能な限り近距離で調達する」という原則を、日本に翻訳した実装表だ。主要素材は四つに整理できる。

第一に大谷石(おおやいし)。栃木県宇都宮市大谷町で採掘される凝灰岩で、ロビーから続く壁面の主役を担う。皇居の堀の石垣(江戸城の石垣の一部に大谷石が用いられた史実がある)への参照として選ばれた、と公式資料には記されている。多孔質で水分を吸う性質を持つこの石は、表面の凹凸が植物の根や苔の定着を助ける。バイオフィリックデザインの実装素材として、素材そのものが「植物との親和性」を備えている点で、選定の必然性が高い。

第二に再生木材。床、天井、家具のフレームに用いられている。出自の説明書きが内装の一部として配置される、というのが1 Hotelsの一貫した手法だ。第三に京都産の竹。スパ「Bamford Wellness Spa」のトリートメント用品や室内装飾の一部に組み込まれている。Bamford自体が英国Daylesfordのオーガニック農場由来のウェルネスブランドで、京都竹との組み合わせは「英国オーガニックと日本工芸の翻訳」という編集行為そのものを空間に物質化している。第四に回収パレット。客室および共用部の「バイオフィリックアート」と公式に呼ばれるオブジェの基材として使われている。preserved moss(保存処理された苔)と組み合わせ、産業廃棄物の出自を意匠の前景に押し出す手法だ。


1 Hotel Tokyo — ラウンジ、回収木材と保存苔を組み合わせたバイオフィリックアート
PHOTO: 1 Hotel Tokyo ラウンジ — 公式サイトを見る →

地続きの植栽計画 — 共用部から客室テラスへの連続性

本稿が「地続きの植栽計画」と呼ぶのは、フロアを跨いで植物が連続して配置されることで、来訪者の身体が建物の中で常に植物のスケールを感知し続ける、という設計上の試みである。具体的には次のシークエンスとして読める。

38階のエントランスフロアに到着すると、最初に視界に入るのは大谷石の壁面とその上を覆う蔓性植物のグリーンウォールだ。これがロビー全体に巡り、フロントデスクの背景となる。レセプションエリアからエレベータホールに進む動線では、天井に再生木材で組まれた格子があり、その隙間からも植栽が下垂する。客室階に上がると、廊下の各セクションに苔と保存植物による「バイオフィリックアート」が配置され、客室扉の前で再び大谷石と植物の組み合わせに遭遇する。客室内に入ると、ベッドサイドの一部に陶器に植えられたグリーンが置かれ、客室テラスへと続く窓の外には、テラスの壁面に沿った縦型プランターが視界の延長として配置されている。そして43階の屋上庭園では、上記のシークエンスのすべてが集約された「庭」としての到達点を迎える。

この連続性は、建物の各階で独立してデザインされた個別の「グリーン演出」ではなく、垂直方向に積層された一つの庭の断面、として設計されている点に意味がある。日本の伝統建築における「中庭の借景」や「縁側を介した室内外の連続」という手法は水平方向のグラデーションだが、1 Hotel Tokyoが提示するのは、超高層の垂直方向にそれを翻訳した連続性だ。これは赤坂・港区の既存高級ホテル群が達成していない、新しい建築タイポロジーの提案として読める。

赤坂・港区の先行事例との対比

本稿冒頭で触れた赤坂・港区の既存ラグジュアリーは、それぞれ異なる設計哲学を実装している。アマン東京(大手町、43階建ての複合ビル「大手町タワー」33–38階)は、ジャン・ヌーヴェル設計のシンプルな垂直線と障子のメタファによる「日本的ミニマリズムのモダニズム翻訳」を志向した。虎ノ門エディションは、イアン・シュレーガーとマリオット・グループによる「ブティックホテル文法の高級化」を都心高層ビルに導入した。ザ・キャピトルホテル東急(永田町)は、隈研吾による「水平方向への素材の流れ」を空間言語として組み立てている。

1 Hotel Tokyoは、これら先行事例のいずれとも異なる方向に賭けている。素材のミニマル化ではなく素材の出自の物語化、垂直線の純粋化ではなく植物の物量での圧倒、ブランド意匠の主張ではなくロゴサイズの抑制と素材の前景化。これらは「ラグジュアリーは何によって担保されるか」という根本的な問いへの、2026年時点での一つの解答である。この解答が東京市場に受容されるかどうか、より具体的には他の上位ラグジュアリーとの価格差をどう正当化していくかは、開業数か月後、ロビーの植物が定着し、客室テラスの植栽が梅雨の湿度を経て根付いた後の景色を見て判断する必要がある。


1 Hotel Tokyo — パノラミック・ガーデン・ジュニアスイート、テラスの植栽と皇居方面の眺望
PHOTO: 1 Hotel Tokyo パノラミック・ガーデン・ジュニアスイート — 公式サイトを見る →

客室タイプの構成 — 211室、24スイート、3ペントハウス

211室の内訳は、スタンダード・キング/ダブルからスイート24室、最上部の3つのペントハウスまで層を成す。スイートの広さはおよそ42〜140㎡のレンジで構成されると公式資料は記している。最も注目されるのは「パノラミック・ガーデン・ジュニアスイート」と銘打たれたタイプで、客室テラスに沿った植栽帯が一定の幅で確保され、室内とテラスの境界が植物のレイヤーを挟んで成立している点だ。これは前項で述べた「植栽の連続性」が客室スケールで実装される現場である。

客室内装は、家具・建具に再生木材を多用し、テキスタイルにはオーガニックコットンと麻が用いられている。ベッドはオーガニックリネン、洗面台周りの陶磁器は地元の窯による手仕事品で構成されている、と公式資料は説明する。アメニティはBamfordとのコラボレーションによる京都竹由来のオーガニック・スキンケア。執筆時点で確認可能な範囲で、客室のスケールはアマン東京の客室スケール(71㎡〜)には及ばないが、スイート以上のレンジでは比肩する。価格帯(参考値)はラグジュアリー上位帯に位置し、アマン東京・虎ノ門エディション・ザ・キャピトルホテル東急と同等のレンジで競合する。

飲食・ウェルネス施設の建築的位置

飲食施設は3つ。38階の「NiNi」は仏日融合のシグネチャー・レストランで、料理長はNikko Policarpio。同じ38階の「Spotted Stone」はジャパニーズ・クラフト・ジン約100種を揃えたバー。低層の「Neighbors Café」は街区との接続を担うグラブ&ゴー型のカフェだ。三施設の配置から読めるのは、ホテル内のフード機能を建築の階層に応じて差別化し、それぞれが独立した動線を持つ構成への意思だ。

ウェルネス側は、Bamford Wellness Spa、室内プール(外気に開かれたデッキ付き)、24時間営業のフィットネス施設「The Field House」(Technogym機材)で構成される。スパは英国Daylesfordのオーガニック農場発のBamfordブランドとの提携で、京都竹を用いたトリートメントを軸にする。「素材の出自を語る」というブランド哲学が、スパのトリートメント・プロトコルにまで貫徹している点が観察される。


1 Hotel Tokyo — Bamford Wellness Spa、京都産竹を用いたトリートメント空間
PHOTO: Bamford Wellness Spa — 公式サイトを見る →

訪れるべき時期 — 梅雨入り前の初夏

本稿は2026年6月初旬の執筆時点で書かれている。3月の開業から3か月が経過し、ロビーや共用部の植栽は搬入直後の硬さが解け、葉が空間に馴染み始めた頃合いだ。屋上庭園の植栽は最初の春を超え、季節の循環に建物が一度応答した状態にある。本稿が訪問に推す季節は、ここから梅雨入り直前までの初夏である。日本の高湿度環境に植物が定着するための最初の試練を、客室テラスの植栽が経た直後の景色は、開業初期にしか見られない一回性を持つ。逆に、本格的に環境に根付いた状態を見るのは、開業から1年を経た2027年春以降を待つ必要があるだろう。

Media Picks Score — 94 / 100

Media Picks Score: 94 / 100。評価の内訳は、立地(赤坂中枢、複合再開発の中核棟)、設計(CRÈMEによる垂直バイオフィリック構成)、素材(出自の物語化を貫徹)、価格感(都内ラグジュアリー上位帯として相応)、編集適合度(バイオフィリックデザインを建築論として読むための稀少な対象)の五軸で算出した。減点要因として、開業直後のため運営側の運用が成熟するまで時間が必要なこと、超高層構造に挿入された性質上、地続きの庭園を持つアマン京都や星のや東京(大手町)のような「水平方向の自然との接続」は構造的に不可能であることを挙げる。これらを差し引いてもなお、2026年時点で東京における「サステナブルラグジュアリー」のジャンル定義を更新する一軒として、本稿の建築論的観察に値する。

具体情報

  • 所在地: 東京都港区赤坂2-17-22 赤坂トラストタワー38–43階
  • 最寄り駅: 東京メトロ千代田線 赤坂駅 徒歩約3分、銀座線・南北線 溜池山王駅 徒歩約5分
  • 客室数: 211室(スタンダード〜スイート24室、ペントハウス3室を含む)
  • 客室サイズ: 約45㎡〜(スタンダード)、約75㎡〜(ジュニアスイート)、約240㎡(ペントハウス)
  • 開業日: 2026年3月5日
  • 設計: CRÈME(Studio CRÈME, New York)
  • 開発: 森トラスト株式会社・SHグループ
  • レストラン: NiNi(仏日融合)、Spotted Stone(ジャパニーズ・クラフト・ジンバー)、Neighbors Café
  • ウェルネス: Bamford Wellness Spa、室内プール、The Field House(24時間フィットネス)
  • 環境認証: CASBEE Sランク

よくある質問

Q. アマン東京・虎ノ門エディションとの違いは何ですか?

A. アマン東京は「素材のミニマル化と空間の純粋化」、虎ノ門エディションは「ブティックホテル文法の都心高層への翻訳」を軸とする。1 Hotel Tokyoはこれらと異なり「素材の出自の物語化」と「植物の物量での圧倒」を中心に据える。同じラグジュアリー帯でも、設計言語の方向が根本的に異なる。

Q. 設計を担当したCRÈMEとはどのようなスタジオですか?

A. ニューヨークを拠点にする建築・インテリア・ランドスケープの統合スタジオで、1 Hotelsブランドの主要拠点(セントラルパーク、ハナレイベイ、メイフェアなど)を継続的に手がけている。ホスピタリティ分野におけるバイオフィリックデザインの実装で国際的に知られる。

Q. 1 Hotelsブランドが「サステナブル」を掲げる根拠は何ですか?

A. 再生材料の使用、地域素材の優先調達、運営面でのカーボン削減プログラム、客室のアメニティのプラスチック削減、有機食材の優先などが体系として運用されている。各拠点でLEED・WELL・CASBEEなどの第三者認証を取得しており、東京拠点はCASBEE Sランクを取得済み。

Q. 建築・植栽計画を観察するには、どこから巡るべきですか?

A. 38階のロビー(大谷石とグリーンウォールの組み合わせ)から始め、客室階の廊下(保存苔のバイオフィリックアート)、客室テラスの植栽帯、43階の屋上庭園、というシークエンスで巡ると、垂直方向に積層された「庭の連続性」が読みやすい。

Q. 価格帯はどの程度ですか?

A. 公開販売価格の集計に基づく参考値で、1泊2名利用時に¥126,000〜¥185,000程度(通常期)。スイート・ペントハウスはこれを大きく超える。都内ラグジュアリー上位帯に位置し、アマン東京・虎ノ門エディションと同等のレンジで競合する。

本記事の参考情報

1 Hotel Tokyo 公式サイト — ホテル全体情報、客室タイプ、レストラン、スパ
SH Hotels & Resorts プレスリリース「Now Open: 1 Hotel Tokyo」 — 開業発表、設計者CRÈME・素材選定の公式記述
Wikipedia: 大谷石 — 凝灰岩の特性、産地、歴史的用途
建築環境・省エネルギー機構 CASBEE — 建築環境総合性能評価システムの枠組み

編集部から

2026年の東京におけるラグジュアリーホテルの新規開業として、1 Hotel Tokyoはジャンルの境界を一つ更新した。「サステナブル」と「ラグジュアリー」を並べる試みは2010年代から続いてきたが、それが超高層ビルの上層という都市建築の最も人工的な場所に持ち込まれ、植栽の連続性と素材の物語化という二本柱で成立しているという事実は、設計史的に観察に値する。次に取り上げたいのは、同じ赤坂・港区の競合群が今後どう応答していくか、特に新規開発予定の麻布台ヒルズ周辺における類似カテゴリの新規参入動向である。