山形・大蔵村の肘折温泉に泊まるなら、木造の湯宿が肩を寄せ合う銅山川沿いの一本道から選びたい。編集部が選んだのは、その小路に面して建つ五軒である。カルデラの底という特異な地形に、開湯千二百年余りの湯治文化がほぼ手つかずで残る。宿はそれぞれ独立した建物でありながら、朝市の立つ通りを共有し、共同浴場と源泉を分け合っている。個々の建築を見るのではなく、谷の一角そのものを一棟の宿として読む——初秋、川霧と湯気が路地に溜まる時刻を起点に、五軒を地図で継いだ。

# 宿 位置 Score 客室 目安価格 1行特徴
1 湯宿 元河原湯 大蔵村・肘折(橋のたもと) 93 12 ¥46–¥55k 4階の展望風呂と1階の信楽焼貸切風呂。二源泉を高さで使い分ける
2 肘折温泉 丸屋旅館 大蔵村・肘折(上の湯正面) 91 7 ¥57–¥65k 明治元年創業の建物を全7室に絞り、青森ヒバと国産檜で浴室を4室構える
3 松井旅館 大蔵村・肘折(朝市通り) 86 11 ¥19–¥30k 明治期の建物をそのまま使う準和風。江戸期の御殿医道具を館内に展示
4 ゑびす屋旅館 大蔵村・肘折(小路中ほど) 85 12 ¥14–¥18k 自炊室と扉のない湯治部屋を現役で維持。客室名は山菜、各室に絵を掛ける
5 肘折温泉 三春屋 大蔵村・肘折(本館・別館) 84 12 ¥15–¥24k 木造本館に源泉2本、別館に1本。鉄分が石を染めた浴槽が残る
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 湯宿 元河原湯 — 山形・大蔵村肘折

銅山川に架かる橋のたもと、四階に展望風呂、一階に信楽焼の貸切風呂。二つの源泉を高さで分けた一軒。

Media Picks Score: 93 / 100  12室、日本秘湯を守る会。

目安価格 ¥46,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)


湯宿 元河原湯 — 山形・大蔵村肘折 · 地元の銘木を用いた客室に職人手作りの和ベッドを据える
PHOTO: 湯宿 元河原湯 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

この宿の設計の核は、性質の異なる二つの湯を建物の上と下に振り分けた点にある。四階の「地蔵の湯」「観音の湯」に注がれるのは、自家源泉である元河原湯源泉と、旅館組合が集中管理する組合三号・四号混合泉(六十九度)をブレンドした湯。大きな窓の外に山並と川面が広がり、湯は微かに黄色を帯びる。対して一階の貸切風呂「かわら湯」には、三十四・九度の自家源泉のみを、加水も加温もせずそのまま満たす。浴槽は館主が信楽まで足を運んで選び焼かせたもので、家族三人が並んで入れる寸法。いずれも源泉百パーセントかけ流し、湯の入替は一日一回。客室は地元の銘木を用いた和室で、いぐさ畳の上に職人手作りの和ベッドを二台ずつ据える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、当該エリアの中でも湯そのものへの評価と、囲炉裏を用いた夕食への評価が並んで高い水準にある。全十二室という規模に対して総評価件数が突出して多く、繰り返し訪れる層の厚さが数字に表れている。一方で、バス便が限られる立地と、館内の階段・段差に関する指摘が一定量含まれる。四階の浴場までの動線は建物の性格上どうしても縦方向に長く、そこを許容できるかで印象が分かれる傾向が見て取れる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    源泉の性質差を一泊のうちに比較したい湯宿好き、囲炉裏を囲む食事の形式を体験したい旅、川音のある部屋で長く滞在したい二人旅
  • 向かない:
    階段の上下を避けたい旅程(浴場は四階、貸切風呂は一階)、公共交通の本数を気にせず動きたい旅、洋室・ベッドフロアを望む人

具体情報

  • 最寄り: 大蔵村営バス「肘折ゆけむりライン」でJR新庄駅から約55分、肘折温泉第一停留所から徒歩2分。JR新庄駅から車で約40分
  • 客室: 全12室。山側16帖/川側12〜14帖/10帖の3タイプ、いぐさ畳に和ベッド2台
  • 温泉: 4階 展望風呂「地蔵の湯」「観音の湯」(24時間)/1階 貸切風呂「かわら湯」(14:30から40分区切りの時間予約制、22:00〜翌8:00はフリー)
  • 泉質: ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉(自家源泉34.9度)+組合3号・4号混合泉(69.0度)、いずれも源泉100%かけ流し
  • 食事: 夕食は炭火の囲炉裏会席かお膳スタイルを選択、朝食は山形米つや姫
  • 立寄り湯: 4階展望風呂のみ 13:00〜16:00、600円

2. 肘折温泉 丸屋旅館 — 山形・大蔵村肘折

明治元年創業。共同浴場「上の湯」の正面に建ち、客室を七室に絞って浴室を四室構える。

Media Picks Score: 91 / 100  7室、日本秘湯を守る会。

目安価格 ¥57,000–¥65,000 / 泊 (2名1室・通常期)


肘折温泉 丸屋旅館 — 山形・大蔵村肘折 · 明治元年創業、共同浴場「上の湯」正面に建つ宿の玄関
PHOTO: 肘折温泉 丸屋旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

この谷で最も明確に「減らす」判断をした宿である。明治元年創業、百五十年の建物を活かしながら、客室は七室のみ。うち六室が二階、三階の「葉山」は金山杉造りで、広さは二十八・三二平方メートルから五十一・五八平方メートルまで幅がある。対して浴室は四室——国産檜を用いた「ひのきの湯」(二〇一八年改装)、青森ヒバの「檜葉の湯」(座り湯付き)、檜葉の湯に併設した露天、そして玄関脇の貸切「幸鶴の湯」。加えて箱檜葉の足湯。客室数より浴室の密度が高いという構成は、湯治場の建築としてはむしろ古典的で、それを七室という規模で成立させている点が特異である。二源泉を混合したナトリウム塩化物炭酸水素塩泉を、暖房やシャワーにも回すことでなるべく加水を避けている。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、浴室の木材と手入れの状態、および食事の質に対する評価が突出して高い。総評価件数は七室という規模を考えれば多く、稼働の高さがうかがえる。同時に、価格帯が当該温泉地の中では明確に上位にあることを踏まえた言及も見られ、湯治場としての肘折を想定して訪れた層とは評価の軸がずれる傾向がある。十二歳以下の宿泊を受けていないため、家族連れの評価はそもそも母数に含まれない。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    木の浴槽を素材ごとに比べたい人、記念日の二人旅、静けさと室数の少なさを優先する滞在
  • 向かない:
    子ども連れの家族(12歳以下の宿泊を受け付けていない)、湯治場らしい価格帯を想定する旅、送迎を1名で利用したい人(2名から)

具体情報

  • 最寄り: 大蔵村営バス「肘折ゆけむりライン」終点・肘折待合所から徒歩1分。JR新庄駅から約55分(片道600円/往復1,100円)
  • 客室: 全7室。28.32〜51.58㎡。6室が2階、3階の「葉山」は金山杉造り
  • 浴室: ひのきの湯(国産檜・2018年改装)/檜葉の湯(青森ヒバ・座り湯)/露天風呂/貸切混浴「幸鶴の湯」/玄関脇の箱檜葉足湯。客室「月山」には檜葉の専用箱湯
  • 泉質: ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉、2源泉の混合
  • 創業: 明治元年(1868年)
  • 送迎: 予約制、新庄駅14:00発/宿10:00発、2名から受付(9席)
  • 年齢制限: 12歳以下の宿泊は受け付けていない

3. 松井旅館 — 山形・大蔵村肘折

先祖は江戸期、肘折の御殿医。明治の建物をそのまま使い、目の前が朝市の会場になる。

Media Picks Score: 86 / 100  11室、湯治部屋を残す旅館。

目安価格 ¥19,000–¥30,000 / 泊 (2名1室・通常期)


松井旅館 — 山形・大蔵村肘折 · 明治期の建物をそのまま使う館内と江戸期の御殿医道具の展示
PHOTO: 松井旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

宿の来歴が建築の使い方をそのまま決めている稀な例である。この家の先祖は江戸時代に肘折の御殿医を務めており、当時の道具、藩主自らが描いたという掛軸、譲り受けた人形、享保雛、屏風が館内に保管されている。桃の節句の時期には享保雛が公開される。客室は明治期の建物をそのまま利用しているため大きさが揃わず、宿はそれを「情緒あふれる準和風」と説明する。全十一室のうち湯治用の客室は昔ながらの襖で仕切られた造りで、個室化される以前の宿の平面がそのまま残る。浴室は男女別の内湯が各一、混浴の露天岩風呂「天寿泉」、そして自家源泉を注ぐ貸切風呂が一。時間帯によって三か所を貸切で使える運用をとっている。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、貸切で湯を使える運用と、館内の展示物に対する評価が中心を占める。総評価件数は当該エリアの上位群ほど多くはないが、朝市会場が宿の目の前にあるという立地条件への言及が繰り返し現れる。一方、明治期の建物をそのまま用いていることに起因する設備面——遮音や段差、部屋ごとの仕様差——について触れる声も一定量あり、建物の年齢を織り込んだ上で選ぶかどうかで評価が分かれる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    朝市を最短距離で歩きたい旅程、古建築と什器の実物を見たい人、貸切で湯を使いたい二人旅
  • 向かない:
    均質な客室仕様を求める旅、遮音性を重視する人、深夜に静けさを最優先したい滞在(最終チェックインが24:00)

具体情報

  • 最寄り: 大蔵村営バス「肘折ゆけむりライン」でJR新庄駅から約55分、肘折待合所下車。宿の前が朝市会場
  • 客室: 11室。明治期の建物をそのまま利用し部屋の大きさは一定でない。湯治用客室は襖仕切り
  • 浴室: 男女別内湯 各1/露天岩風呂「天寿泉」(混浴)1/自家源泉の貸切風呂1(24時間)。時間帯により3か所を貸切利用可
  • チェックイン: 14:00〜(最終24:00)/アウト 〜10:00
  • 展示: 江戸期の御殿医道具、藩主筆の掛軸、享保雛、屏風。桃の節句の時期に享保雛を公開
  • 駐車場: 15台

4. ゑびす屋旅館 — 山形・大蔵村肘折

自炊室を現役で維持する一軒。客室名は山菜の名で、各室にその山菜を描いた絵が掛かる。

Media Picks Score: 85 / 100  12室、自炊室を残す湯治宿。

目安価格 ¥14,000–¥18,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ゑびす屋旅館 — 山形・大蔵村肘折 · 朝市の立つ小路に面した木戸と屋号行灯
PHOTO: ゑびす屋旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

肘折の湯治文化のうち、最も失われやすい部分——自炊——を建築として保持している。宿は自館を「息をする屋敷」と呼び、館内に自炊室を残す。長期滞在者や湯治目的の客が使い、食材は朝市で買う想定である。客室は和室八畳、和室十畳、二間続きの和室、十六畳の和洋室の四型。このうち二間続きの和室は「昔ながらの湯治部屋」で、扉がなく施錠もできない。宿はその事実を明示した上で貴重品の管理を求めており、部屋を閉じるという近代的な前提を採らない構成をそのまま残している。客室名にはすべて山菜の名が与えられ、各室にその山菜を描いた絵が掛かる。館内には洋画家・真下慶治の作品を含む絵画が並び、ジャズが流れるパブリックスペースがある。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、価格に対する滞在の充実度と、館内の音楽・美術を含む雰囲気への評価が中心となる。当該エリアの中では総評価件数が中位にあり、湯治滞在と観光滞在の両方の層が混在していることが評価の分散に表れている。手作りの山菜料理への言及が季節的に集中する一方、設備の新しさを軸にした指摘も含まれ、何を目的に泊まるかで受け取り方が明確に分かれる宿と言える。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    自炊を含む湯治滞在、一人旅(湯治部屋は1名から)、絵画と音楽のある館内で長く過ごす旅
  • 向かない:
    施錠できる個室が必須の人(二間続きの和室は扉なし)、近隣で買い物を済ませたい旅程(周辺に商店が少なく事前調達が必要)、新しい設備を求める滞在

具体情報

  • 最寄り: 大蔵村営バス「肘折ゆけむりライン」でJR新庄駅から約55分。朝市の立つ小路に面する
  • 客室: 和室8畳/和室10畳/二間続きの和室(湯治部屋・扉なし・1名から)/和洋室16畳(畳ベッド)。客室名は山菜、各室に同名の山菜の絵
  • 館内: 自炊室(長期滞在・湯治向け)、マッサージ機、ジャズの流れるパブリックスペース
  • チェックイン: 14:00〜18:00 / アウト 〜10:00
  • 美術: 洋画家・真下慶治(1914年 最上郡戸沢村生まれ)ゆかり。館内に絵画多数
  • アメニティ: 湯治利用は有料(フェイスタオル165円、歯ブラシ55円、バスタオル220円)

5. 肘折温泉 三春屋 — 山形・大蔵村肘折

木造の本館に源泉二本、銅山川を望む別館に一本。鉄分が石を染めた浴槽が、湯屋の年齢を示す。

Media Picks Score: 84 / 100  12室、木造本館+別館。

目安価格 ¥15,000–¥24,000 / 泊 (2名1室・通常期)


肘折温泉 三春屋 — 本館1階の自家源泉浴槽 · 鉄分を含む茶褐色の湯が石を染めた湯船
PHOTO: 肘折温泉 三春屋 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

宿は自らの本館を「木造の古い旅館」と表現し、湯治客を中心に営んできたと記す。現在の主人で十五代目、地域の治療の一つとして長く湯屋を営んできたという来歴が、そのまま建物の構成に残っている。引かれている源泉は三本。本館一階に自家源泉である「三春屋源泉(肘折源泉)」、本館三階に「組合五号源泉」の滝の湯、そして別館に「組合二号源泉」。一階の浴槽は茶褐色の湯が長年かけて石を染め、洗い場まで色が移っている。三階の滝の湯はやや白濁し、熱いときは湧き水を足して調整する。男女の別は固定されておらず、立て看板で示して入る。近代的な設備の均質さではなく、湯そのものの性質差を三か所で示す構成である。別館は銅山川を望み、本館のある温泉街とは景色がまったく異なる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、湯の質と価格帯への評価が中心を占め、当該エリアでは総評価件数が中位以上にある。同時に、設備の新しさや均質さを期待した層からの厳しめの言及も相応に含まれ、評価の分布は他の四軒より広い。本館と別館で滞在の性格が大きく異なるため、どちらに泊まったかによって印象が分かれる構造がデータからも読み取れる。宿自身が、便利で機能的な施設を望む向きには不便をかけると先に断っている点は、この分散と整合する。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    源泉の性質差を三か所で比べたい人、湯治として連泊する滞在、一人旅・長期滞在で費用を抑えたい旅程
  • 向かない:
    設備の新しさと均質さを求める滞在、男女別が固定された浴場を望む人、本館・別館の性格差を確認せずに予約したい旅

具体情報

  • 最寄り: 大蔵村営バス「肘折ゆけむりライン」でJR新庄駅から約55分。本館は温泉街の小路沿い、別館は銅山川を望む
  • 源泉: 3本。本館1階「三春屋源泉(肘折源泉)」=自家源泉・茶褐色/本館3階「組合5号源泉」=滝の湯・やや白濁/別館「組合2号源泉」=部屋ごとの貸切利用
  • 泉質: ナトリウム塩化物・炭酸水素塩温泉
  • 入浴: 本館2か所・別館1か所。男女の固定はなく、立て看板を出して入浴する方式
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 歴史: 肘折の開湯は807年(大同二年)。三春屋は現在の主人で15代目

よくある質問

Q. 朝市は何時から立ちますか。初秋に行く場合の起床時刻は。

A. 肘折の朝市は例年4月下旬から11月まで温泉街の小路に立ち、4月下旬〜9月は5:30〜7:30、10月〜11月は6:00〜7:30が目安です。初秋なら5時台に起きて浴衣のまま歩き出すのが現実的な組み立てになります。宿の軒先そのものが売り場になるため、朝市に面した宿を選ぶかどうかで朝の動線が変わります。開催日程は年により変動するため、大蔵村観光協会の告知で確認してください。

Q. 新庄駅からのアクセスは。

A. 大蔵村営バス「肘折ゆけむりライン」がJR新庄駅と肘折温泉を結び、所要は約55分、運賃は片道600円・往復1,100円です(元旦運休)。終点の肘折待合所から各宿までは徒歩1〜5分の範囲に収まります。車の場合はJR新庄駅から約40分。国道458号の一部区間が通行止めとなっているため、舟形インターチェンジ方面から入る経路が案内されています。

Q. 五軒はどのくらい離れていますか。湯めぐりはできますか。

A. 五軒はいずれも銅山川沿いの約300メートルの範囲に建ち、端から端まで歩いて5分ほどです。加えて共同浴場「上の湯」(丸屋旅館の正面)、肘折いでゆ館、カルデラ温泉館という外湯があり、宿の湯と泉質の異なる湯に入れます。宿の内湯だけで完結させず、谷全体を一つの湯屋として使うのがこの温泉地の本来の作法です。

Q. 湯治として連泊する場合、自炊はできますか。

A. 本記事の五軒のうち、ゑびす屋旅館が自炊室を現役で維持しています。長期滞在者や湯治目的の滞在を想定した設備で、食材は朝市で調達する前提です。周辺に大型の商店がないため、朝市の立たない時期・時間帯に合わせるなら事前の買い出しが必要になります。松井旅館も襖で仕切る湯治用客室を残しており、滞在の形式としての湯治は選べます。

Q. 子ども連れでも泊まれますか。

A. 宿によって条件が異なります。丸屋旅館は12歳以下の宿泊を受け付けていません。ゑびす屋旅館の二間続きの和室は扉がなく施錠できない造りのため、乳幼児連れには向きません。松井旅館・三春屋・湯宿 元河原湯は家族での利用に対応しますが、いずれも明治から昭和にかけての建物を含み、段差や階段が多い点は前提として織り込む必要があります。

Q. 初秋の肘折はどんな時期ですか。

A. 9月中旬から11月下旬はきのこの季節で、山で原木栽培したものや天然物が食卓に上がります。朝は川霧が谷に溜まり、湯気と混ざって路地の見通しが利かなくなる時間帯があり、湯治場の景色としてはこの時期が最も濃い。一方で肘折は全国屈指の豪雪地帯でもあり、冬季は道路事情が大きく変わります。谷の建築を歩いて見るなら、雪が来る前の初秋が最も条件が揃います。

本記事の参考情報

湯の里 肘折温泉(大蔵村観光協会) — 朝市・イベントカレンダー・ガイドマップ
大蔵村 — 村営バス「肘折ゆけむりライン」の時刻・運賃
Wikipedia: 肘折温泉 — 開湯伝承と地形の背景

編集部から

五軒に共通するのは、建物が単独で完結していないことである。共同源泉を分け合い、共同浴場を正面に置き、軒先を朝市に貸す。湯治という滞在形式は、宿の内側にすべてを抱え込まない代わりに、谷という単位で機能を分担してきた。全七室に絞った宿と、扉のない湯治部屋を残す宿が、三百メートルの同じ通りに並んで成立しているのはそのためだ。カルデラの底という地形が外との行き来を制約し、結果として内側の密度が上がった——建築としての肘折は、この一点に尽きる。では、雪が三メートルを超える季節、この密度はどう変わるのか。冬の肘折は、また別に読む価値がある。

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