城崎温泉で外湯めぐりを核に据え、木造多層の建築を今に継ぐ老舗湯宿として、編集部が選んだ5軒を紹介する。大谿川に柳と石橋を並べる城崎は、七つの外湯を共有財とし、宿は内湯を抑えて客を街へ送り出す——公共浴場が建築の主役であり、木造三層の宿がその周縁に軒を連ねる、という設計思想を貫いてきた温泉地である。まちそのものを一棟の湯屋として読むとき、どの宿を起点に置くか。登録有形文化財の客室、山の斜面に積む総木造三層、柳並木に面した三階建て——建築と立地から5軒を地図で継ぐ。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 西村屋本館 | 城崎・湯島 | 93 | 34 | ¥179–¥226k | 平田雅哉の数寄屋「平田館」を継ぐ最上格 |
| 2 | 三木屋 | 城崎・湯島 | 91 | 16 | ¥69–¥119k | 木造三階建て東館が登録有形文化財、志賀直哉ゆかり |
| 3 | 森津屋 | 城崎・湯島 | 87 | 12 | ¥47–¥70k | 山の斜面に総木造三層、岩窟風呂 |
| 4 | 山本屋 | 城崎・湯島 | 85 | 20 | ¥51–¥60k | 創業約350年、柳湯隣接の木造三階建て |
| 5 | 川口屋本館 | 城崎・湯島 | 84 | 13 | ¥21–¥47k | 太鼓橋そば中央、夜通し入れる内湯 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 西村屋本館 — 城崎・湯島
安政創業。名工・平田雅哉の数寄屋を宿の芯に据える、城崎で外湯めぐりの起点に置きたい一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 34室、木造老舗旅館。
目安価格 ¥179,000–¥226,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
城崎で最も長い歴史を持つ宿のひとつ。別棟「平田館」は名工・平田雅哉の手による数寄屋建築で、国の登録有形文化財に名を連ねる。約160年を重ねた木造の意匠、庭を望む書院、そして館の外へ客を送り出す構えは、外湯を共有財とする城崎の思想をそのまま体現している。34室と規模を備えながら、廊下や坪庭の抑制が全体の格を保つ点に、この宿の編集的な見どころがある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、建築と庭、そして料理長が仕立てる会席への評価が突出する。冬の松葉ガニ、通年の但馬牛を軸にした献立が印象に残るという傾向が読み取れる。一方で価格帯は城崎でも最上位に位置し、宿の格式を前提に滞在を組む姿勢が求められる。設えの静けさを重んじる層に、支持が集まっている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
記念日や節目の滞在、数寄屋建築と庭を目当てにする旅、格式ある会席を軸に城崎を読み解きたい人 -
向かない:
価格を抑えて外湯めぐりだけを楽しみたい旅程、カジュアルな滞在を望む人
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩約10分(タクシー約3分)
- 客室: 34室(木造。別棟「平田館」は国の登録有形文化財)
- 食事: 会席(但馬牛、冬は松葉ガニ)
- 創業 / 建築: 安政年間(19世紀半ば)創業/平田館は平田雅哉による数寄屋
- 外湯: 御所の湯・一の湯まで徒歩圏
2. 三木屋 — 城崎・湯島
昭和2年の木造三階建てが登録有形文化財。志賀直哉が『城の崎にて』を綴った26号室を残す宿。
Media Picks Score: 91 / 100 16室、木造老舗旅館。
目安価格 ¥69,000–¥119,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大谿川にほど近い、昭和2年(1927年)築の木造建築。玄関のある東館は、現在では希少な木造三階建てで、国の登録有形文化財に登録されている。文豪・志賀直哉が逗留し、名作『城の崎にて』を書いた宿として知られ、その26号室は今も客室として残る。2013年にロビーや浴場を大きく改めつつ、300坪の日本庭園と木造の骨格はそのまま継いだ。歴史とモダンの接合点に立つ一軒である。
集約レビューの傾向
集計した公開レビューでは、建築そのものと庭を歩く時間、静けさへの評価が高い。文学ゆかりの空気を目当てに訪れる層が多く、改修後の快適さと歴史的意匠の両立に納得する傾向が読み取れる。中心部の賑わいからやや距離を置くため、街歩きの起点としては一歩の移動を要すると感じられる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
近代建築や文学の背景を味わいたい旅、庭のある静けさを優先する滞在、木造三層の意匠を体験したい人 -
向かない:
にぎやかな街の中心に泊まりたい旅程、最新設備の均一な快適さを最優先する人
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩圏内
- 客室: 16室(東館は木造三階建て・国の登録有形文化財、300坪の日本庭園)
- 食事: 但馬の食材による会席
- 建築: 昭和2年(1927年)築/2013年に大規模リニューアル
- ゆかり: 志賀直哉『城の崎にて』の舞台、26号室が現存
3. 森津屋 — 城崎・湯島
山の斜面に総木造三層を積み、岩盤をくり抜いた岩窟風呂を持つ。城崎の地形をそのまま宿にした一軒。
Media Picks Score: 87 / 100 12室、木造旅館。
目安価格 ¥47,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
温泉街の中心に立ちながら、裏山の傾斜を利用して総木造三階建て、奥別館は一部四・五階へと積み上げる。岩盤をくり抜いた名物の岩窟風呂と、斜面を生かした露天が、城崎という土地の地形を宿の内側へ引き込む。到着時には女将が茶を点てて迎える所作が残り、木造多層の館全体が純和風で統一されている。建築と地形の関係を体で読む滞在に向く。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約では、貸切で使える二つの風呂と岩窟風呂、そして海外からの客にも通じるもてなしへの評価が読み取れる。木造建築ゆえの階段や段差を挙げる声も一定数見られ、館の造りそのものを楽しむ姿勢が滞在の前提になると感じられる。規模を抑えた宿ならではの距離の近さが、支持につながっている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
建築と地形の関係を楽しみたい旅、貸切風呂や岩窟風呂を目当てにする滞在、木造多層の館を体験したい人 -
向かない:
階段や段差を避けたい旅程、バリアフリーの均質な客室を求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩約10分
- 客室: 12室(総木造三階建て、奥別館は一部四・五階)
- 風呂: 岩窟風呂/裏山の斜面を生かした露天/貸切風呂2か所
- もてなし: 到着時に女将が茶を点てるウェルカムティー
- 食事: 但馬牛・カニを軸にした会席
4. 山本屋 — 城崎・湯島
創業約350年、柳湯の隣に建つ木造三階建て。大谿川の柳並木を客室から見下ろす老舗。
Media Picks Score: 85 / 100 20室、木造老舗旅館。
目安価格 ¥51,000–¥60,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
城崎でも指折りの古い歴史を持つ宿。柳並木と大谿川に面した木造三階建てで、客室からは下駄の音と行き交う人の姿が見下ろせる。外湯「柳湯」がすぐ隣、300メートル圏に四つの外湯が集まる立地は、まちを一棟の宿として歩く城崎の楽しみ方に忠実である。直営工房の地ビールなど、老舗ながら手を動かし続ける姿勢も見える。
集約レビューの傾向
集計した公開レビューでは、外湯めぐりの起点としての立地と、川沿いの眺め、下駄で歩く風情への評価が集まる。歴史ある木造建築ゆえの設備の年輪を指摘する声もあり、新しさより土地の空気を求める滞在に向くと読み取れる。中心に居ながら喧噪に沈まない位置取りが、支持を支えている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
外湯めぐりを主目的にする旅、柳並木や川沿いの風情を楽しみたい滞在、老舗の空気を味わいたい人 -
向かない:
新築同様の設備を求める旅程、静けさを最優先し街の音を避けたい人
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩約7分
- 客室: 20室(木造三階建て、柳並木・大谿川沿い)
- 立地: 外湯「柳湯」に隣接、300m圏に外湯4か所
- 設備: 露天付き大浴場・貸切露天/直営工房の地ビール
- 創業: 江戸期(約350年)
5. 川口屋本館 — 城崎・湯島
太鼓橋と柳並木に面した中央の木造湯宿。夜通し入れる内湯と貸切露天で、外湯の合間を埋める。
Media Picks Score: 84 / 100 13室、木造旅館。
目安価格 ¥21,000–¥47,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大谿川に架かる王橋(太鼓橋)のたもと、柳並木通りに面した城崎のほぼ中央に立つ。木造三階建ての宿が軒を連ねる街並みの一員として、外湯めぐりの拠点に据えやすい。16時から翌9時まで入れる内湯と貸切露天が、外湯が閉まる時間帯の湯浴みを支える。掘りこたつ式の個室食事処「弁天」で但馬の食材を味わえる、扱いやすい木造湯宿である。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約では、外湯めぐりに便利な中央の立地と、夜通し使える内湯、個室での食事への評価が読み取れる。城崎の標準的な木造湯宿として、価格と過ごしやすさの均衡を評価する傾向が見える。初めての城崎で街の全体像をつかむ拠点として選ばれることが多いと感じられる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
初めての城崎で街の中央に泊まりたい旅、外湯の合間に内湯を使いたい滞在、個室での食事を望む人 -
向かない:
静かな環境を最優先する旅程、格式ある大規模旅館の設えを求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩約8分
- 客室: 13室(大谿川・王橋そば、柳並木通りに面する)
- 湯: 内湯(16:00〜翌9:00)/貸切露天
- 食事: 掘りこたつ式の個室食事処「弁天」
- 立地: 城崎温泉街のほぼ中央、太鼓橋のたもと
よくある質問
Q. 城崎の外湯めぐりはどう楽しむのが良いですか?
A. 城崎温泉では宿泊者に外湯共通利用の仕組み(通称ゆめぱ)が用意され、一の湯・御所の湯・まんだら湯・地蔵湯・柳湯・鴻の湯・さとの湯の七つの外湯を、浴衣と下駄で巡ることができる。宿は内湯を抑え、街全体を一つの湯屋として使う設計思想が根づく。編集部が推す過ごし方は、夕食前と朝の二度、性格の異なる外湯を訪ねることである。
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 冬(11〜3月)は松葉ガニ、通年で但馬牛が食の軸になり、盛夏は浴衣で夜の外湯を巡る風情が際立つ。カニ期は価格が上がり予約も早く動くため、建築と外湯そのものを目当てにするなら、初夏や秋の平日が動きやすい時期として編集部が推す。
Q. 予約のタイミングは?
A. カニ解禁期(11月上旬〜)と連休は数か月前に埋まりやすい。登録有形文化財の客室や特定の間取りを狙う場合は、さらに早い動きが要る。一方で夏や平日の宿は比較的取りやすく、日程に幅を持たせると選択肢が広がる。
Q. アクセスは?
A. JR城崎温泉駅から今回の5軒はいずれも徒歩7〜10分圏。大阪から特急で約2時間40分、京都から約2時間半で結ばれる。駅から温泉街は平坦で、到着後は徒歩と下駄で滞在が完結する。
Q. 木造三階建ての宿はなぜ貴重なのですか?
A. 防火規制の強化で木造の多層建築は新築が難しく、城崎に残る木造三層の宿は、改修を重ねて継がれてきた既存不適格の建築が多い。三木屋の東館のように国の登録有形文化財となる例もあり、川沿いに軒を連ねる木造三層の街並みは、外湯とともに城崎の景観そのものを形づくっている。
本記事の参考情報
・城崎温泉観光協会 — 外湯めぐりと温泉街の公式情報
・Wikipedia: 城崎温泉 — 温泉地の歴史・地理の背景
編集部から
城崎の面白さは、宿が内湯を誇示せず、七つの外湯を街の共有財として差し出す構えにある。だからこそ、どの木造三層に軒を借りるかで滞在の輪郭が変わる。登録有形文化財の格式から入るか、地形に積み上げた総木造から入るか、あるいは柳並木の真ん中に身を置くか。5軒はいずれも、建築と外湯を対で読むための起点である。浴衣と下駄で歩き、湯屋の天井を見上げるとき、まちが一棟の宿として立ち上がる。次は、雪の城崎か、カニの城崎か——季節を変えて、同じ街をもう一度読み解いてみたい。