武田信玄の府中であった甲府の湯村から、富士川を遡って下部、そして西山へ。甲斐の西側には、戦国の伝承と富士川舟運の谷、身延山の門前という三層の上に、料理長の歴を持ち客室や貸切に湯を引いた旅館が残る。富士五湖側の高原リゾートには載らない、もう一つの山梨を5軒。盆地の夜気が温泉街にどう降りるか、渓谷の朝霧がどの宿の障子を白く照らすか、地図的に読み直す。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 一行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 西山温泉 慶雲館 | 早川町 | 95 | 35 | ¥71–¥86k | 705年開湯、ギネス認定の世界最古旅館。全館源泉掛け流し。 |
| 2 | 常磐ホテル | 甲府・湯村 | 94 | 50 | ¥68–¥92k | 1929年開業、3000坪の日本庭園を抱える甲府の迎賓館。 |
| 3 | 元湯橋本屋 | 下部温泉 | 91 | 11 | ¥16–¥25k | 32度の冷泉と50度の温泉、2源泉を持つ信玄隠し湯の小宿。 |
| 4 | 湯宿 梅ぞ乃 | 下部温泉 | 90 | 12 | ¥31–¥44k | 自家の梅・柚子・栗を仕込む山あいの12室。 |
| 5 | 湯志摩の郷 楽水園 | 甲府・湯村 | 88 | 20 | ¥28–¥35k | 湯村の生蕎麦処を併せ持つ20室の湯宿。 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 西山温泉 慶雲館 — 早川町
705年慶雲二年開湯、世界最古の宿としてギネスに認定された渓谷の一軒。富士川支流の早川を遡った湯島に建つ。
Media Picks Score: 95 / 100 35室、渓谷沿いの本館・別館構成。
目安価格 ¥71,000–¥86,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
掘削温泉として日本随一の湯量を誇り、大浴場・野天風呂・貸切露天・客室露天・客室風呂、そして給湯までの全てが源泉掛け流し。湯島の地に湧く高温泉を、加水も加温もせず谷の宿全体に流し続ける。建物は南アルプスの懐に抱かれ、湯と渓谷音以外の音がほとんどない。「世界最古」の称号は史的記録の重みでもあり、湯に対する固有の姿勢の現れでもある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯の濃さと湯量、そして渓谷の静けさへの評価が高い。料理は山の食材と川魚を中心に据えた品書きで、土地の素材と長年の構成への評価が安定している。アクセスは身延線下部温泉駅から送迎で約1時間と遠いが、その遠さ自体が宿の価値を支えるという受け止め方が多い。
向く人 / 向かない人
-
向く:
湯そのものを目当てに移動を厭わない人、記念日に「世界最古」という体験記号を据えたい人、渓谷の静寂で読書したい一人旅 -
向かない:
観光地巡りで宿を中継点として使いたい旅程、夜の街歩きを伴う滞在、車を運転しない単独で短期の旅
具体情報
- 最寄り駅: JR身延線 下部温泉駅から送迎バスでアクセス(要事前予約)
- 客室数: 35室(本館・別館)
- チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 山菜と川魚を中心とした会席
- 開湯: 705年(慶雲二年)— 2011年に世界最古の宿としてギネス認定
- 温泉: 全館源泉掛け流し(大浴場・野天・貸切・客室露天・客室風呂)
2. 常磐ホテル — 甲府・湯村温泉
1929年開業、3000坪の日本庭園を抱える甲府の迎賓館。湯村温泉を代表する50室の老舗。
Media Picks Score: 94 / 100 50室、本館・東館・西館・別館「離れ」の四棟構成。
目安価格 ¥68,000–¥92,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯村温泉は弘法大師による開湯伝承を持ち、武田信玄をはじめとする戦国大名にも愛された「信玄の湯」として知られる。常磐ホテルはその湯村にあって、約3000坪の日本庭園を中心に本館・東館・西館・離れの構成を取る純和風旅館。1929年の開業以来、皇室・各国要人の宿泊を受け入れてきた「迎賓館」としての履歴が、料理・庭・接客の標準を高い位置に固定し続けている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、庭の規模感と手入れの行き届きへの評価が突出している。料理は山梨の地のものを中心に据えた懐石で、夕食の構成と器の選びへの評価が安定して高い。建物は新しさを売りにしないが、本館の和の意匠と離れの落ち着きを使い分ける宿泊体験への評価が、長期にわたって維持されている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
記念日・両親への招待・家族の節目、甲府駅周辺の観光と組み合わせたい滞在、和の意匠を整った形で体験したい海外からの旅行者 -
向かない:
モダンな設計や新築の清潔感を最優先する人、夕食を食べに外へ出るスタイルの滞在、12畳以下の小部屋で十分とする一人旅
具体情報
- 最寄り駅: JR甲府駅から車で約10分(送迎あり)
- 客室数: 50室(本館・東館・西館・離れ)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 山梨の地の素材を据えた会席
- 開業: 1929年(昭和4年)
- 庭園: 約3,000坪の日本庭園を本館前に据える
3. 元湯橋本屋 — 下部温泉
32度の冷泉と50度の温泉、2源泉を持つ下部の小宿。「信玄隠し湯」の湯治の系譜を残す11室の旅館。
Media Picks Score: 91 / 100 11室、谷あいに沿う木造の小規模旅館。
目安価格 ¥16,000–¥25,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
下部温泉は約1200年の歴史を持ち、武田信玄が川中島の合戦の刀傷を癒したという「信玄の隠し湯」の伝承で知られる湯治の里。橋本屋はその下部温泉の中心に位置し、源泉温度32度の古湯と、新たに掘削した50度の高温泉の二つを自家で持つ。冷泉と温泉を交互に入る「あつ湯ぬる湯」の湯治法を、現代に残す数少ない一軒。料金帯としては5万円級ではないが、湯治の文化と二源泉という稀少性で選ぶ価値がある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯の柔らかさと長湯耐性への評価が突出している。建物は古く、最新設備を備えるタイプではないが、清掃の行き届きと女将を中心とした接客への評価が安定して高い。料理は素朴な山の食を中心とした構成で、過剰さを排した品書きとして受け止められている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
湯治目的の長めの滞在、温泉の文化的背景を体験したい一人旅、派手さよりも素の良さを求める旅 -
向かない:
モダンなインテリアや新築の客室を求める人、夕食に華やかな会席を期待する旅程、客室露天を必須とする滞在
具体情報
- 最寄り駅: JR身延線 下部温泉駅から徒歩圏(中央道甲府南ICから車で約50分)
- 客室数: 11室
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 山の素材を据えた素朴な和食
- 温泉: 自家2源泉(古湯=32度・新湯=50度)の使い分け
- 歴史: 下部温泉開湯約1200年、「信玄の隠し湯」の系譜を残す宿の一軒
4. 湯宿 梅ぞ乃 — 下部温泉
自家の梅・柚子・栗を仕込む、下部の山あいに建つ12室の小宿。下部川を見下ろす大浴場が核。
Media Picks Score: 90 / 100 12室、下部川を望む小規模旅館。
目安価格 ¥31,000–¥44,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
梅ぞ乃は下部の本通りから少し外れた山あいに建ち、季節とともに生きてきた50年余の小規模旅館。庭の桜、小川の蛍、紅葉、雪と、四季の景色がそのまま窓に入る立地。料理に使う梅・柚子・栗は自家の木から採れたものを仕込み、季節の素材を据えた和食で構成する。下部温泉の「ぬる湯」と「あつ湯」を併せ持つ大浴場は、山と富士川を望む大窓を備え、湯と景色の連続を作る。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、自家素材を使った料理の安心感と、女将を中心とした接客への評価が突出している。客室は7.5畳と10畳の純和室が主軸で、6畳+8畳に広縁と檜風呂を備えた特別室もある。庭には鯉と山女魚が泳ぐ池があり、室内から眺める静けさへの評価が安定している。
向く人 / 向かない人
-
向く:
自家栽培の素材と季節の構成を重視する人、小規模旅館で女将の采配を体験したい滞在、下部の街歩きと組み合わせたい旅 -
向かない:
客室露天が必須の旅、洋食中心の食を望む滞在、団体での宿泊や大浴場の混雑を厭う旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR身延線 下部温泉駅から送迎あり(要事前予約)
- 客室数: 12室(7.5畳・10畳・特別室)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 自家の梅・柚子・栗を使う季節の和食
- 温泉: 下部の「ぬる湯」「あつ湯」を備えた大浴場、富士川を望む大窓
- 歴史: 下部温泉郷で50年余、自家庭園と素材の自給を維持
5. 湯志摩の郷 楽水園 — 甲府・湯村温泉
湯村温泉の小規模湯宿に、生蕎麦処を併せ持つ20室の宿。湯と地のものを一つの敷地で受ける構成。
Media Picks Score: 88 / 100 20室、湯村温泉郷の中心部に建つ。
目安価格 ¥28,000–¥35,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
楽水園は湯村温泉の中で、源泉掛け流しの大浴場と露天風呂を持ち、敷地内に併設する「生そば処 楽水」で甲州の地のものと蕎麦を提供する複合構成の宿。湯村は弘法大師による開湯伝承を持ち1200年余の歴史を誇るが、楽水園は中規模の現代的な滞在体験を求める層に向く一軒として位置を取る。価格帯は同地の常磐より一段下で、湯村を初めて訪れる旅程の入口にも合う。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、生蕎麦への評価が突出しており、温泉と食事の組み合わせとして湯村の中で固有の位置を持つ。客室は和室が中心で、新築の清潔感を売りにする宿ではないが、清掃と接客への評価は安定している。甲府駅から車で約10分、中央道甲府昭和ICから約20分という立地は、東京方面からの一泊滞在の起点に向く。
向く人 / 向かない人
-
向く:
湯と蕎麦を一つの敷地で受けたい旅、湯村温泉の入口として中規模の宿を選びたい人、東京方面からの一泊 -
向かない:
客室露天を必須とする滞在、新築の意匠を最優先する人、夕食に正統な懐石を求める旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR甲府駅から車で約10分(中央道甲府昭和ICから約20分)
- 客室数: 20室
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 生蕎麦と甲州の地のものを据えた和食
- 温泉: 湯村温泉の源泉掛け流し大浴場・露天
- 駐車場: 無料15台
よくある質問
Q. 甲府・湯村と下部・西山は1泊で同時に回れますか?
A. 距離としては車で約60〜90分で繋がるが、それぞれが宿としての密度を持つため、編集部は最低2泊を推す。湯村1泊+下部または西山1泊が、移動の負担と滞在の深度の両方を成立させる組み合わせ。
Q. 梅雨明けの甲府盆地はどのような気候ですか?
A. 7月下旬から8月上旬の梅雨明け直後は、盆地特有の高温が出る一方、夜は山から下りる風で冷える。湯村は街中だが、下部・西山の谷では朝霧が出る日が多く、客室の障子が白く照らされる時間帯が滞在の核になる。
Q. アクセスは公共交通でも可能ですか?
A. 湯村温泉はJR甲府駅から車で10分。下部温泉はJR身延線下部温泉駅から徒歩または送迎で5〜15分。西山温泉は最寄り駅から送迎バスで約60分と遠く、車での移動が現実的。
Q. 「信玄の隠し湯」とは何ですか?
A. 戦国時代、武田信玄が川中島の合戦などで負った刀傷や疲労を癒すために用いたとされる秘湯群の総称。山梨・長野・群馬・新潟にまたがって複数あるが、下部温泉は最も代表的な「信玄の隠し湯」の一つで、湯村温泉も「信玄の湯」として知られる。
Q. 海外からの訪日客にも合う宿はありますか?
A. 慶雲館と常磐ホテルは、世界最古の宿としての固有性と、3000坪の日本庭園を持つ純和風の構成という点で、和の様式を求める訪日客に合う。下部の小規模旅館3軒は英語対応が限定的のため、移動と食事の段取りに慣れた旅行者向き。
本記事の参考情報
・富士の国やまなし観光ネット — 山梨県公式観光情報
・甲府観光ナビ(甲府市観光協会) — 湯村温泉のエリア情報
・早川町役場 — 西山温泉と早川町の自治体情報
編集部から
甲府盆地の湯村は街に近く、湯と料理と庭の整った宿が並ぶ。富士川を遡って下部に入ると、湯治の系譜と小規模旅館の文化が今も残る。さらに早川を奥へ進めば、西山に世界最古の宿が立つ。この三層は「武田の府中」「信玄の隠し湯」「身延の門前」という別個の歴史軸が、地形の上で並んで連続している土地でもある。富士五湖側の華やかさとは異なる、もう一つの山梨を5軒、地図上で再度眺めると、湯と地形と歴史の重なりが見えてくる。次に書きたいテーマは、富士川舟運の谷に残る寺町と、湯と精進料理の宿の組み合わせ。