甲斐の西側は、戦国と門前と渓谷が縦に重なる。武田信玄が居を構えた甲府の湯村、富士川を遡って身延の谷に沈む下部、さらに南アルプスへ分け入る西山。三つの古湯を結ぶ細い道の途中に、料理と湯と築の三点を保ち続けてきた高級旅館が点在している。梅雨明けの盆地の夜気と、渓谷の朝霧を、客室と湯屋がどう受けるか。今回は甲府盆地の西縁を、五軒で読む。

# ホテル エリア Score 客室 目安価格 1行特徴
1 常磐ホテル 甲府市・湯村温泉 95 50 ¥68–¥92k 1929年開業「甲府の迎賓館」、七千坪の日本庭園と信玄の湯。
2 下部ホテル 身延町・下部温泉 91 92 ¥52–¥68k 庭園自家源泉と引湯高温源泉、7露天含む12湯舟を巡る。
3 古湯坊 源泉舘 身延町・下部温泉 88 24 信玄の隠し湯、足元自噴の純温泉を守る1767年創業の宿。
4 行学院 覚林坊 身延町・身延山門前 94 20 ¥44–¥70k 550年続く日蓮宗宿坊、夢窓疎石作の日本庭園と身延ゆば懐石。
5 西山温泉 慶雲館 早川町・西山温泉 95 35 ¥70–¥85k 西暦705年開湯、世界最古の宿としてギネス認定、全館源泉掛け流し。
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 常磐ホテル — 甲府市・湯村温泉

昭和4年開業、七千坪の日本庭園を中庭に抱く「甲府の迎賓館」。武田信玄の湯を格式で受けとめる一軒。

Media Picks Score: 95 / 100  50室、旅館。

目安価格 ¥68,000–¥92,000 / 泊 (2名1室・通常期)


常磐ホテル — 甲府湯村温泉・1929年開業の日本庭園を中庭に抱く老舗旅館
PHOTO: 常磐ホテル — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯村温泉は開湯1200年、弘法大師の伝説を持つ甲府盆地の北縁の古湯である。常磐ホテルはその中に1929年に開かれた老舗で、天皇皇后両陛下の御宿舎を務めてきた「迎賓館」格の一軒として今も残る。中庭に広がる七千坪の日本庭園は昭和初期の造園思想を留めた本館の眺望軸で、朝夕の光が池と苔面に落ちる。信玄公が湯治に用いたと伝わる自家源泉を、大浴場と貸切風呂で引き受ける。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、庭園に面した客室の眺望と、山梨のワイン・地酒を組み合わせた会席の完成度に、明確な評価の集中が見られる。四千件を超えるレビュー総数の中で、朝食の郷土色と、館内の静けさが繰り返し肯定されている。一方で、大規模旅館ゆえの動線の長さや、館内の一部の設えに昭和期の重厚さを感じるという指摘もあり、意匠の好みは人を選ぶ。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    記念日や節目の旅、格式ある日本庭園を客室から眺めたい人、甲州ワインと会席を合わせたい大人ふたり
  • 向かない:
    現代的なデザインホテルを好む人、館内の意匠に軽やかさを求める人、動線の短さを最優先する人

具体情報

  • 最寄り駅: JR中央本線 甲府駅からタクシー 約8分(バス「湯村温泉入口」下車 徒歩1分)
  • 敷地: 七千坪の日本庭園を中央に配置
  • 客室数: 50室(純和室・和洋室・特別室)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 会席料理(甲州牛・鮑・鮪などの山梨郷土色)
  • 開業: 1929年(昭和4年)


2. 下部ホテル — 身延町・下部温泉

下部温泉郷の湯量を代表する92室の中規模旅館。7つの露天を含む12湯舟の湯巡りで、下部の二種の泉質を通す。

Media Picks Score: 91 / 100  92室、旅館。

目安価格 ¥52,000–¥68,000 / 泊 (2名1室・通常期)


下部ホテル — 身延町下部温泉郷・日本名湯百選、7露天含む12湯舟の湯巡り旅館
PHOTO: 下部ホテル — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

下部温泉は日本名湯百選のひとつで、庭園から湧く硫黄泉と、下部奥の湯から引く高温源泉の二種を持つ稀な湯場である。下部ホテルはこの二種を、7つの露天を含む12の湯舟で並列に体験させる湯屋設計を採る。旅館規模としては92室と甲斐の山峡では大きく、湯巡りをホテル内で完結させる作りが、他の下部の宿と一線を画す。信玄の隠し湯という下部の伝承を、湯量の広さで受けとめる一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、湯舟の多さと、含硫黄・単純泉というぬる湯からの緩やかな上がり湯の流れに対して、強い肯定が続く。四千件を超えるレビュー総数のうち、湯治的な滞在の連泊者と、二食付一泊の記念日利用者の双方の層から支持が集まっている。一方で、館の大きさゆえのフロント動線や、館内飲食の混雑に触れる声もあり、静けさを最優先する人には他の下部の小宿の方が合う場合がある。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湯巡りを宿内で完結させたい人、二種の泉質を交互に浴びたい湯治志向、下部温泉郷の中核を初訪する人
  • 向かない:
    10室以下の隠れ宿を求める人、館内の静寂を最優先する人、モダンな内装の統一感を望む人

具体情報

  • 最寄り駅: JR身延線 下部温泉駅から車で約5分
  • 湯舟数: 12湯舟(内 露天7)
  • 泉質: 単純硫黄泉(庭園自家源泉)+ 単純泉(下部奥の湯高温源泉)
  • 客室数: 92室
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 選定: 日本名湯百選


3. 古湯坊 源泉舘 — 身延町・下部温泉

1767年創業。信玄が発給した湯守の許可証を今も伝える、下部の足元自噴を守る24室の宿。

Media Picks Score: 88 / 100  24室、旅館。


古湯坊 源泉舘 — 身延町下部温泉・武田信玄公のかくし湯、足元自噴の純温泉旅館
PHOTO: 古湯坊 源泉舘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

下部温泉のなかでも、足元から直接源泉が湧く岩風呂を核に据えるのが源泉舘である。湯船の底の砂利の間からぬる湯が上がる形式は循環・加水・加温を一切通さない純温泉で、山梨県内でも指折りの湯である。武田信玄が発給した湯守の許可証(下部湯の湯守文書)を家系の一部として残しており、「信玄の隠し湯」の直系という物語が伝承としてではなく史料として繋がる。24室の小さな宿だが、湯の質だけを取れば下部の中核と言える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、足元自噴の岩風呂と、そのぬる湯(30度台)の入り心地に対して、湯質を求める層からの熱量の高い評価が集中している。レビュー総数は下部の大手と比べれば少ないが、湯だけを目的として繰り返し滞在する旅人が層として明確に見える。一方、館内の設えは湯の質を優先した昔ながらの構造で、モダンな快適さや、洗練された食を主目的とする人には評価が分かれる。純温泉を核に据えた、目的の明確な宿である。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湯質を最優先する温泉愛好家、足元自噴のぬる湯で長湯したい人、信玄の隠し湯の伝承を史料と重ねて味わいたい人
  • 向かない:
    現代的な設備を求める人、料理の華やかさを主目的にする人、短時間の湯で切り上げる旅程の人

具体情報

  • 最寄り駅: JR身延線 下部温泉駅から約1km(徒歩圏内)
  • 核となる湯: 足元自噴の岩風呂(純温泉)
  • 泉質: 単純温泉(ナトリウム・カルシウム系)、加水・加温・循環なし
  • 客室数: 24室
  • 創業: 1767年(明和4年)
  • 史料: 武田信玄公発給の湯守許可証を家系に伝承


4. 行学院 覚林坊 — 身延町・身延山門前

日蓮宗総本山 身延山久遠寺の門前、550年続く宿坊。夢窓疎石作と伝わる庭園と、身延ゆばの懐石を持つ。

Media Picks Score: 94 / 100  20室、宿坊・旅館。

目安価格 ¥44,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)


行学院 覚林坊 — 身延山門前・550年の宿坊、夢窓疎石作の日本庭園と身延ゆば懐石
PHOTO: 行学院 覚林坊 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

覚林坊は日蓮宗総本山の身延山久遠寺の門前にある宿坊で、開創から数えて約550年、境内には夢窓疎石作と伝えられる「心地池」と枯山水の庭園が残る。これは身延町指定文化財である。宿坊としては珍しく懐石の格を持ち、身延山の名産である身延ゆばを主軸にした精進料理の系譜を、現代の運営体制のもとで料理として磨いてきた。門前旅館ではなく、寺そのものの一坊に泊まる体験として、他の甲斐の高級旅館とは性質を分ける一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、庭園の静けさと、身延ゆばを核とした料理の完成度が反復して評価されている。1600件を超えるレビュー総数の中で、朝の勤行体験や、住職との対話に触れる感想が層として現れる。宿坊としての規律を保ちつつ、大人二人の宿としての作法が守られている点への肯定が集中している。門前という立地上、夜間の静寂は徹底され、逆に到着後の外出には身延の町の閉じ時間を意識する必要がある。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    文化財庭園を客室から眺めたい人、精進系の懐石を体験したい人、久遠寺参詣と組み合わせた大人ふたりの旅
  • 向かない:
    温泉の湯量を最優先する人(宿坊ゆえ内湯中心)、深夜の外出や飲食を旅程に組む人、洋室・ベッドを絶対条件とする人

具体情報

  • 最寄り駅: JR身延線 身延駅(要事前送迎相談)
  • 庭園: 夢窓疎石作と伝わる心地池・枯山水(身延町指定文化財)
  • 客室数: 20室
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 身延ゆばを核とした懐石(精進系)
  • 宗派・格: 日蓮宗総本山 身延山久遠寺の宿坊、開創約550年
  • 体験: 朝勤行、写経、住職との対話


5. 西山温泉 慶雲館 — 早川町・西山温泉

西暦705年(慶雲2年)開湯。ギネス認定「世界最古の宿」、全館源泉掛け流しを1300年守り続ける一軒。

Media Picks Score: 95 / 100  35室、旅館。

目安価格 ¥70,000–¥85,000 / 泊 (2名1室・通常期)


西山温泉 慶雲館 — 早川町西山温泉・西暦705年開湯、ギネス認定 世界最古の宿
PHOTO: 西山温泉 慶雲館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

慶雲2年(西暦705年)に藤原真人によって開かれたと伝わる西山温泉の中核に位置する慶雲館は、2011年に「世界で最も古い歴史を持つ宿」としてギネス世界記録に認定された、日本の宿泊史そのものを担う一軒である。南アルプス山懐、早川渓谷の奥に建ち、毎分1,600Lの湧出量、52度の自家源泉を全館すべての浴槽・洗い場・蛇口に加水・加温なしで通す。この給湯設計は、日本の高級旅館の中でも突出しており、湯というリソースの豊富さを客室の一つひとつに配分する構造になっている。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、湯の質と量に対する評価が突出し、次いで渓谷を望む客室の眺望と、地の食材を用いた会席の完成度が支持されている。1900件を超えるレビュー総数のうち、湯だけを目的として繰り返し訪れる層と、記念日利用の層が明確に分かれて存在し、両者の評価がともに高い水準で保たれている。難所は立地で、車以外のアクセスは限られる。都心から片道4時間近い遠さと、周辺の観光導線の細さは、慶雲館を「湯そのものを目的化した滞在」の宿として位置づける結果になっている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湯そのものを主目的とする旅、静寂と渓谷の朝霧を優先する大人ふたり、宿泊史の系譜に興味を持つ海外からの旅行者
  • 向かない:
    公共交通中心の旅程、観光地巡りをメインに据える人、館内以外の食事や夜間の外出を組む人

具体情報

  • 最寄り駅: JR身延線 下部温泉駅(要事前送迎相談・レンタカー推奨)
  • 湧出量: 毎分1,600L・湯温52度の自家源泉
  • 給湯設計: 全館源泉掛け流し(浴槽・洗い場・蛇口すべて加水・加温なし)
  • 客室数: 35室
  • 開湯: 西暦705年(慶雲2年)
  • 認定: ギネス世界記録「世界で最も古い歴史を持つ宿」(2011年認定)


よくある質問

Q. 甲府湯村温泉と下部温泉、西山温泉の位置関係は?

A. 甲府湯村温泉は甲府盆地の北縁、市街地から車で10分ほど。下部温泉は甲府から富士川沿いに南下して車で約1時間、身延線の下部温泉駅が最寄り。西山温泉はさらに西の南アルプス山懐にあり、下部温泉から車で約1時間、都心からは片道4時間近くを要する。三湯は「甲斐の西縁」を縦に結ぶ三段構成で、旅程は北から南に流すのが自然。

Q. ベストシーズンはいつか?

A. 甲府盆地は梅雨明けから晩夏にかけて夜気が澄み、盆地特有の湿気が抜ける時期に湯村温泉が印象を残す。下部と西山は渓谷の朝霧が深く、初秋から晩秋、あるいは春先の新緑期に真価が出る。冬期は西山への道が積雪の影響を受けることがあり、送迎の可否を事前に確認するのが確実。

Q. 三湯を1回の旅で回れるか?

A. 物理的には可能だが、慶雲館は湯そのものを目的化した滞在に向く宿で、連泊が本質に近い。編集部の推奨は、甲府湯村温泉で1泊(常磐ホテル)、下部温泉で1泊(下部ホテルまたは源泉舘)、身延山門前で1泊(覚林坊)、そして機会を改めて西山温泉に2泊、という2回に分けた組み方である。

Q. 公共交通でのアクセスは?

A. 常磐ホテルは甲府駅からバスまたはタクシーで到達できる。下部ホテル・古湯坊 源泉舘は身延線の下部温泉駅が最寄りで、駅から徒歩圏または送迎で到達できる。覚林坊は身延駅から車で約10分、事前に送迎の相談が可能。西山温泉 慶雲館は公共交通での到達は極めて限定的で、事前予約による送迎か、レンタカーが現実的な選択となる。

Q. 海外からの旅行者にも合うか?

A. 覚林坊は英語対応の情報発信を積極的に行っており、日蓮宗宿坊としての文化体験を海外からの訪問者に開いている。慶雲館は英語表記の予約導線と、ギネス世界記録という国際的な認知を通じて、湯質を目的とした海外旅行者の訪問実績を持つ。常磐ホテル・下部ホテル・源泉舘は日本語主体の運営で、深い文化体験を求める旅行者には通訳や事前準備を推奨する。

本記事の参考情報

富士の国やまなし観光ネット(山梨県公式観光情報) — 甲府湯村温泉・下部温泉・西山温泉の観光情報
Wikipedia: 慶雲館(旅館) — 開湯史とギネス世界記録認定の経緯
早川町観光協会 — 西山温泉および奥山梨の地域情報

編集部から

甲斐の西縁は、富士五湖側の景勝地に比べれば、これまで宿泊メディアの光が当たりにくかった。しかし、武田信玄の湯治伝承、富士川の舟運の谷、身延山の門前、南アルプスの山懐という四つの層の重なりの上に、日本でも屈指の湯質と、宿泊史そのものを担う一軒が今も残っている。梅雨明けの夜気と渓谷の朝霧を、五つの宿がそれぞれの様式で受けとめる。次はこの西縁の食を、甲州ワインと精進の懐石の両側から読みたい。

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