都市の高層ホテルが、客室帯のどこかに四畳半を挿す。書架、ターンテーブル、シガーバー、クラブラウンジと続く「もう一室」の系譜の、最新の一形態として、館内に本格茶室を設える都市プレミアムを5軒読む。躙口を設けるか、広間か。露地を垂直動線でどう翻案するか。炉と水屋をどこに置くか。梅雨明けのステイケーションに、現代タワーの機能空間の只中で、数寄屋の静寂に触れる。編集部が選んだ、いずれも館内に茶事対応の空間を持つ都市プレミアム5軒である。

# ホテル エリア Score 客室 目安価格 1行特徴
1 The Okura Tokyo 東京・虎ノ門 95 508 ¥112–¥152k 虎ノ門のタワー再建で「聴松庵」——裏千家「又隠」写し、中村外二作の四畳半
2 HOTEL THE MITSUI KYOTO 京都・二条城前 95 161 ¥188–¥311k 梶井宮門の内側、三井家旧邸を数寄屋で再解釈した「SHIKI-NO-MA」
3 フォーシーズンズホテル大阪 大阪・堂島 92 175 ¥116–¥226k 28階の「GENSUI」フロア21室すべて畳敷き、宿泊者専用茶ラウンジ「SABO」
4 ザ・リッツ・カールトン京都 京都・鴨川沿い 91 134 ¥226–¥317k 鴨川沿い低層4階建て、館内茶室での茶事プログラムを常設
5 ホテルニューオータニ(東京) 東京・紀尾井町 91 1479 ¥67–¥96k 約1万坪の日本庭園と、その中に沈む数寄屋建築「山茶花荘」

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

都市プレミアムに、四畳半を挿すという判断

都市の高層ホテルが「もう一室」を設ける、という考え方は新しくない。書架を備えたレジデンス的ロビーラウンジ、ターンテーブルのある音楽サロン、シガーバー、専用チェックインを備えたクラブラウンジ——共用部の意匠と体験を積み上げていく手法は、この20年で定型化した。ここに近年、都市プレミアム特有の系譜として茶室が加わっている。ただの茶菓提供の設えではない。躙口、水屋、炉、そして四畳半——茶事が成立する空間としての、本格的な茶室である。

タワー型ホテルの中に茶室を挿し込む、という設計判断はいくつかの矛盾を抱え込む。第一に、露地。本来、茶室は数寄屋の外部空間である露地を経由してたどり着く。垂直動線を持つホテルにおいて、この「歩いて茶室に至る」体験をどう翻案するか。エレベーターホールから客室階を経由するのか、専用フロアを立てるのか、あるいは低層ホテルとして水平配置に戻すのか。第二に、静寂。空調ダクトと機械音の集中する高層構造の中で、五感を静める空間の質をどう確保するか。第三に、認証。茶室は、建てれば茶室ではない。数寄屋の作事に長けた棟梁の手を借り、茶事が実際に営まれる場として運用されて初めて茶室として存立する。以下の5軒は、これらの矛盾に対して、それぞれ異なる回答を用意している。

1. The Okura Tokyo — 東京・虎ノ門

虎ノ門の高層タワーに、裏千家「又隠」写しの四畳半が生きている。都市プレミアムに数寄屋を挿すという系譜の、原点にして現在形。

Media Picks Score: 95 / 100  508室、都市プレミアムの高層ホテル。

目安価格 ¥112,000–¥152,000 / 泊 (2名1室・通常期)


The Okura Tokyo — 東京・虎ノ門 · ヘリテージロビー、旧本館の意匠を高層再建で継いだ空間
PHOTO: The Okura Tokyo — 公式サイトを見る →

館内の茶室——聴松庵

1962年に建てられた旧本館の意匠を、2019年の再建でどこまで写すか——The Okura Tokyoの答えは、ロビーの列柱、六角形の照明「オークラランタン」、そして庭に面した「聴松庵」の移築再構成であった。裏千家の由緒ある茶室「又隠」を写し、宮大工・中村外二の手で建てられた四畳半は、旧本館解体時に部材を保全され、新しい本館の日本料理「山里」の内に組み直された。躙口、水屋、待合、床の間、そして中庭——茶室として求められる要素はすべてある。茶事の予約が受けられる、都心では極めて限られた場である。

虎ノ門の再開発タワー41階建て、508室の中に、この四畳半を残したこと自体が編集的である。都市プレミアムの起点は帝国ホテル・ライト館だという史観があるが、それを1962年の側から更新し、そして2019年に再更新したのがオークラだ。数寄屋を「継承する」ことと、それを日々更新される客室商品と両立させることを、この宿は建物のスケールごと引き受けている。


2. HOTEL THE MITSUI KYOTO — 京都・二条城前

二条城前、梶井宮門をくぐった先にある新築ホテルの中に、三井家旧邸から再建された数寄屋の一室が置かれている。

Media Picks Score: 95 / 100  161室、都市プレミアムの高層ホテル。

目安価格 ¥188,000–¥311,000 / 泊 (2名1室・通常期)


HOTEL THE MITSUI KYOTO — 京都・二条城前 · 三百年の歴史を持つ梶井宮門をくぐるアプローチ
PHOTO: HOTEL THE MITSUI KYOTO — 公式サイトを見る →

館内の茶室——SHIKI-NO-MA(四季の間)

二条城の正面、旧・三井家北家の邸宅跡地に2020年に開業。250年以上にわたって三井家が守った土地の南面に、三百年前から立つ「梶井宮門」を通って入るアプローチが最大の設計判断である。門をくぐった先に低層のパブリック棟、その奥に客室棟が立つ、京都の町家構造を水平に読み替えた配置だ。161室、うちスイートは30室以上。設計は南條裕之、ランドスケープはPWP、内装はアンドレ・フー——国際的なブランドラグジュアリーの布陣に対して、京都側の意匠を担うのが「四季の間(SHIKI-NO-MA)」である。

「四季の間」は三井家旧邸の一部を数寄屋の作事で再構築した空間。プライベートダイニング、茶会、書院と、複数の用途に応じる。茶室として厳密に閉じずに、しかし数寄屋の精度で組み上げているところが、この宿の翻案の巧みさである。梶井宮門から始まり、庭に湯が湧く温泉スパで終わる動線の中で、SHIKI-NO-MAは編集部が最も推したい「もう一室」だ。


3. フォーシーズンズホテル大阪 — 大阪・堂島

2024年開業、堂島の高層タワー28階に「GENSUI」——21室すべて畳敷きの「モダン旅館」フロアと、宿泊者専用の茶ラウンジ「SABO」。

Media Picks Score: 92 / 100  175室、都市プレミアムの高層ホテル。

目安価格 ¥116,000–¥226,000 / 泊 (2名1室・通常期)


フォーシーズンズホテル大阪 — 大阪・堂島 · GENSUI玄水フロア、畳と黒基調の待合空間
PHOTO: フォーシーズンズホテル大阪 — 公式サイトを見る →

館内の茶室——GENSUI(玄水)フロア/SABO茶ラウンジ

2024年8月開業の新しい都市ラグジュアリー。地上37階のタワー28階全体に、21室すべて畳敷きの「GENSUI(玄水)」フロアを立てた。名は「玄」(墨を思わせる深い黒)と「水」(大阪の川)の合成。ここが決定的なのは、茶室を「一室」として置くのではなく、フロアの成立要件そのものに、水屋・茶ラウンジ・畳のシーケンスを組み込んだところである。宿泊者専用の茶ラウンジ「SABO」で朝食と一日の茶が提供され、客室ではフラットな畳の上にフォーシーズンズの寝具が置かれる。畳のバスルームには黒タイルと銭湯的な意匠。旅館の意匠を、都市プレミアムの客室商品として翻案した。

GENSUIは、露地を垂直に翻訳するのではなく、フロア全体を露地の内側と定義し直した設計だと言える。エレベーターで28階に上がった時点で、露地に入っている。この「フロア=結界」という発想が、都市プレミアム × 数寄屋のもう一つの解になっている。


4. ザ・リッツ・カールトン京都 — 京都・鴨川沿い

鴨川と東山を望む立地に、地上4階の低層ホテル。館内茶室での茶事プログラムを常設する、静けさの水平配置。

Media Picks Score: 91 / 100  134室、都市プレミアムの高層ホテル。

目安価格 ¥226,000–¥317,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ザ・リッツ・カールトン京都 — 京都・二条大橋畔 · 鴨川沿いの低層外観、東山を借景に取り込む配置
PHOTO: ザ・リッツ・カールトン京都 — 公式サイトを見る →

館内の茶室——館内茶室(茶事対応)

2014年、鴨川と二条大橋のたもとに開業。京都市の景観条例が定める31mの高さ制限の中で、地上4階の低層水平配置を選んだ134室の宿である。東山を借景に、鴨川の水音が届く距離。デザインはピーター・マリノ、日本の意匠監修はスパイス。館内の茶室は、料亭「水暉」の空間と併せて、茶事プログラムを提供する運用がなされている。躙口と炉を備えた設え、外国語対応の亭主による茶事——という都市プレミアム京都の茶室運用の一つの標準例が、ここで形成された。

他の4軒が高層タワーの中に茶室を「挿す」設計判断だとすれば、リッツ・カールトン京都は低層のホテル全体を数寄屋のスケールに合わせる、という逆方向の解である。都市プレミアムの中でも、京都という土地の制約を建築側に引き受けたことで、茶室が館全体と齟齬なく置ける。この宿は、垂直動線を放棄する、という判断そのものが編集的に興味深い。


5. ホテルニューオータニ(東京) — 東京・紀尾井町

約1万坪の日本庭園を挟んで、ザ・メイン・タワーとガーデンタワーが並ぶ。紀尾井町の高層帯の中に、村尾東吾設計の数寄屋建築が沈む。

Media Picks Score: 91 / 100  1479室、都市プレミアムの高層ホテル。

目安価格 ¥67,000–¥96,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ホテルニューオータニ(東京)— 東京・紀尾井町 · 400年の歴史を持つ約1万坪の日本庭園と、それを囲む二棟の高層タワー
PHOTO: ホテルニューオータニ(東京) — 公式サイトを見る →

館内の茶室——山茶花荘(数寄屋建築・茶室)

1964年、東京オリンピックに合わせて開業した1479室の大宿。加藤清正の下屋敷から井伊家、伏見宮家と続いた紀尾井町の土地に、約1万坪の日本庭園と、それを挟むザ・メインとガーデンタワーが立つ。庭の中に沈む数寄屋建築が、本文で扱う対象——料亭「なだ万」が営む「山茶花荘」である。ここは村尾東吾の設計になる数寄屋建築で、大谷米太郎邸の一部を戦後に転用した歴史を持つ。庭園の茶室としては、都心では最も古い部類に属す。

この宿の設計判断は、上の4軒とは向きが違う。オークラや三井のように、館の中に茶室を「入れて」いるのではない。ホテル全体を、庭の周囲に配置して、庭の中に元々あった数寄屋を残した、という考え方である。だから山茶花荘は、宿泊部門から見ると独立した茶室として、庭の側の空間になっている。1479室のスケールの中に、この距離感で数寄屋が残り続けていること自体が、都市プレミアムの一つの原点を示している。


数寄屋の翻案手法——3つの類型

5軒を並べて見えてくるのは、都市プレミアム × 茶室という設計課題に対して、大きく三つの回答があるということである。第一に「移築再現」型——The Okura Tokyoの聴松庵、HOTEL THE MITSUI KYOTOのSHIKI-NO-MA、ホテルニューオータニの山茶花荘。旧邸や旧本館の数寄屋を、部材ごと保全して現代建築の中に再構築する。この手法の強みは、時間の蓄積を空間に持ち込めることで、真作性の担保としても機能する。難しさは、宮大工の技術と部材確保が要ること、そして再構築の場所選び。

第二に「フロア化」型——フォーシーズンズホテル大阪のGENSUI。露地を垂直動線に翻訳するのではなく、一つのフロアそのものを数寄屋の内側と定義してしまう。エレベーターホールが結界となり、茶ラウンジと畳の客室が連続した経験として設計される。新築ホテルにおいて、既存の茶室建築の再現ではなく、旅館の意匠原理を都市プレミアムに翻案するアプローチとして、汎用性の高い解である。

第三に「借景と低層化」型——ザ・リッツ・カールトン京都。都市プレミアムの垂直志向そのものを、都市の景観条例に従って放棄し、水平配置に戻す。数寄屋のスケールに、建物全体を合わせる。この選択は京都という限られた土地でのみ成立する解だが、茶室と館全体の関係性が最も無理なく組めるという意味では、原理的な回答でもある。

編集部から

茶室が館内にある、ということは、決して観光アトラクションを増やすことではない。数寄屋の作事を残す、亭主が常勤する、茶事が営まれる——これらは日々の運用として継続されて初めて意味を持つ。5軒のいずれも、それを商業的に楽な選択として選んではいない。都市プレミアムの中に、この負担を引き受けるだけの編集的判断が働いている。梅雨明けから盛夏、都市が一時的に静けさを求める季節に、これらの茶室のどれかに座って一服の茶を待つことは、都市プレミアム宿の最新の到達点を確かめる行為でもある。

本記事の参考情報

Wikipedia: ホテルオークラ東京 — 沿革と建築意匠
Wikipedia: ホテルニューオータニ — 紀尾井町日本庭園の歴史
京都市観光協会 — 京都市内景観条例とホテル立地

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