瀬戸内の醤油蔵とオリーブ畑をたどる旅に合う小さな宿として、編集部が小豆島と豊島に選んだ室数10以下の5軒を紹介する。備讃瀬戸に浮かぶこのふたつの島は、隠岐や石垣、屋久島を扱ってきた本連載にとって長く空白だった一帯である。寒霞渓の花崗岩、醤の郷に残る木桶仕込みの蔵、豊島の白い曲面。港の集落と段丘に潜む宿を、秋のオリーブ収穫期を軸に東の醤の郷から西の豊島へと地図でつないでいく。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 島宿 真里 | 小豆島・苗羽 | 93 | 7 | ¥80–¥107k | 醤の郷の醤油蔵に囲まれた自家源泉の料理旅館 |
| 2 | 海音真里 | 小豆島・堀越 | 90 | 6 | ¥111–¥138k | 堀越岬の海際に建つ真里の別邸、瀬戸内を望む全6室 |
| 3 | 小豆島 三都の郷 | 小豆島・三都半島 | 88 | 6 | ¥37–¥57k | 1日2組限定、三都半島の古民家で暮らすように過ごす |
| 4 | 古宿 たかまつ屋 | 豊島・家浦 | 87 | 7 | — | 家浦港近く、木造2階建てを改めた全7室の古宿 |
| 5 | 檸檬ホテル | 豊島・唐櫃 | 82 | 1棟 | — | 築90年の古民家を再構築した、泊まれるアート作品 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。素泊まり中心の宿は参考値の母数が十分でないため価格の表示を控えた。
1. 島宿 真里 — 小豆島・苗羽
醤油蔵が連なる醤の郷に、全7室。自家源泉と醤油会席をひとつの敷地で結ぶ、島の料理旅館。
Media Picks Score: 93 / 100 7室、料理旅館。
目安価格 ¥80,000–¥107,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
苗羽の醤の郷は、木桶仕込みの醤油蔵ともろみの香りが今も生活に残る一帯である。真里はその集落の只中に立つ。理由は三つ。第一に、文化財の古民家を移築した食事処「母屋」を軸に、醤油会席という土地の主題を献立の中心へ据えていること。第二に、全7室のいずれもが趣を違え、各室の風呂に自家源泉の湯を引くこと。第三に、蔵の景観と宿の設えが連続し、島の産業と滞在が地続きになっている点である。派手さではなく、土地の文脈で押し切る一軒として編集部が真っ先に推す。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、この宿では料理と温泉、そしてもてなしの一体感への評価が突出して安定している。醤油を主題に据えた夕食の構成と、貸切で使える露天の湯を挙げる声が多い一方、館の規模ゆえに繁忙期の予約枠が限られる点や、島の中心部からは車移動が前提になる点が滞在計画の分かれ目として読み取れる。総じて、目的地としてこの宿そのものを据える層に支持が集まる傾向がある。
向く人 / 向かない人
-
向く:
記念日や節目の二人旅、土地の食文化を主題に旅を組む人、静かな集落で連泊を前提にする旅程 -
向かない:
観光地を数多く巡り宿に戻る時間が短い旅程、幼児連れで広い動線を求める家族、価格帯を最優先する滞在
具体情報
- 立地: 小豆島町苗羽・醤の郷(草壁港からタクシー約5分)
- 客室: 全7室、各室に自家源泉の内風呂
- 温泉: 露天付きの貸切温泉(美肌の湯として知られる自家源泉)
- 食事: 夕食は瀬戸内の食材を醤で味わう「醤油会席」、食事処は文化財の古民家「母屋」
- 沿革: 1967年開業、醤の郷の景観と一体に整えられた敷地
2. 海音真里 — 小豆島・堀越
堀越岬の海際に建つ、真里の別邸。全6室、瀬戸内の水平線を室内に取り込んだ一軒。
Media Picks Score: 90 / 100 6室、料理旅館(別邸)。
目安価格 ¥111,000–¥138,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
本館「真里」から車で約5分、堀越岬の海岸に2019年に開いた別邸である。醤の郷という集落の文脈を持つ本館に対し、こちらの主題は海そのもの。全6室はいずれも瀬戸内の水平線へ開き、モダンな内装と大きな開口で、光と潮位の変化を室内に引き込む設計になっている。小豆島産オリーブを取り入れた夕食「オリーブ会席」を供し、食と滞在を海際の静けさの中で完結させる。本館の食文化の重心に対して、こちらは景観と滞在の質で立つ。二軒を性格の違いで選び分けられることが、真里という運営の懐の深さでもある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、客室からの眺望と静けさ、そして少室数ゆえの行き届いた運営への評価が中心を占める。海に正対する立地と新しい設えを挙げる声が多い一方、価格帯は本記事の5軒で最も高く、その水準を前提に滞在を組む層に支持が寄る。海況や季節で表情が大きく変わるため、水平線を主目的に据えるなら日程と天候の見極めが体験を左右する、という傾向が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
海景と静けさに価値を置く二人旅、施術を含む滞在を望む人、本館・別邸を連泊で組む旅程 -
向かない:
集落や町歩きを主目的にする旅、価格を抑えたい滞在、天候の影響を受けたくない短期日程
具体情報
- 立地: 小豆島町堀越岬の海岸(本館「島宿 真里」から車で約5分)
- 客室: 全6室、いずれも瀬戸内海に面した眺望
- 施設: レストラン、物販工房「三風舎」
- 食事: 瀬戸内の食材を用いた会席(夕・朝)
- 沿革: 2019年4月、真里の別邸として開業
3. 小豆島 三都の郷 — 小豆島・三都半島
三都半島の古民家に1日2組。暮らすように過ごす、島の南の静かな一軒。
Media Picks Score: 88 / 100 6室、古民家の宿。
目安価格 ¥37,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
島の南へ突き出す三都半島は、瀬戸内国際芸術祭の作品が点在するアートの一帯でもある。三都の郷は、その半島の神浦に立つ古民家を改めた宿で、1日2組までに滞在を絞る。木のぬくもりを残した空間に内風呂と露天を備え、澄んだ夜空の下で湯に浸かれる。併設の「カフェはまひるがお」では、地の海鮮と旬の野菜を用いた夕朝食が供される。農業体験や地引網、無料の貸自転車といった土地とのふれあいを組み込める点も、この宿の輪郭を作る。過度な演出を避け、半島の時間そのものを滞在の主題に据えた一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、貸切に近い静けさと古民家の居心地、そして併設カフェの食事への評価が中心にある。1日2組という規模設計が、他の宿泊客を気にせず過ごせる感覚につながっているとみられる。一方、半島の先という立地ゆえに移動には車が前提となり、島内周遊との時間配分が計画の要になる。数値の母数はまだ厚くないものの、滞在の質そのものへの支持が明確に読み取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
静けさと貸切感を優先する旅、三都半島のアートを併せて巡る旅程、暮らすような連泊 -
向かない:
公共交通のみで動く旅程、館内の多彩な設備を望む滞在、繁華な港周辺の便利さを求める人
具体情報
- 立地: 小豆島町神浦・三都半島(香川県小豆郡小豆島町神浦甲671)
- 客室: 全6室・1日2組限定
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 併設「カフェはまひるがお」で地の海鮮・野菜の夕朝食
- 沿革・設備: 2020年9月開業、内風呂+露天、無料レンタサイクル
4. 古宿 たかまつ屋 — 豊島・家浦
豊島・家浦港の近く、旧旅館を改めた木造2階建て。全7室の素朴な古宿。
Media Picks Score: 87 / 100 7室、古宿(旧旅館)。

なぜ選ばれるか
豊島美術館や横尾忠則の豊島横尾館を擁するこの島で、拠点となる小さな宿は限られる。たかまつ屋は家浦港の近くに建つ木造2階建てを改め、2012年に古宿として開き直した全7室の一軒である。設えは簡素で、素泊まりを基本にレンタサイクルや前日予約の朝食を組み合わせる構成。派手な演出はないが、港と集落の生活圏に身を置き、島の作品群を自転車で回る拠点としての実用に長ける。豊島という土地を主役に据え、宿は控えめに背景へ退く——その距離感が、かえってこの島の滞在にはふさわしい。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、港からの近さと拠点としての使い勝手、そして家庭的な運営への評価が中心を占める。芸術祭やアート巡りの起点として選ばれる傾向が明確で、簡素であることを承知の上で島時間を楽しむ層に支持が寄る。一方、設備や食事の充実を宿に求める滞在とは相性が分かれる。価格の参考値は母数が十分でないため本記事では表示を控えたが、素泊まりを軸とした構成である点は押さえておきたい。
向く人 / 向かない人
-
向く:
豊島のアートを自転車で巡る旅、港近くの拠点を求める人、簡素な設えを厭わない滞在 -
向かない:
館内の食事や温浴を主目的にする滞在、高い客室設備を求める旅、静養だけを目的にした連泊
具体情報
- 立地: 土庄町豊島家浦・家浦港近く(豊島横尾館まで徒歩圏)
- 客室: 全7室(和室)、木造2階建て
- 食事: 素泊まりが基本、朝食は前日予約で提供(大人1,000円・子供800円/中学生以上は大人料金・税込)
- 設備: レンタサイクル、バーベキューセットの貸出
- 沿革: 旧旅館を改装し2012年に古宿として再開業
5. 檸檬ホテル — 豊島・唐櫃
築90年の古民家を再構築した、1日1組だけの滞在型アート作品。400坪のレモン畑を占有する。
Media Picks Score: 82 / 100 1棟貸し(1日1組)、滞在型アート作品。

なぜ選ばれるか
豊島唐櫃の段丘に、築90年の古民家を再構築した一棟がある。瀬戸内国際芸術祭にスマイルズが出品した作品で、視覚設計はTakramが手がけた。日中は館全体が鑑賞可能なアート作品として開かれ、夜はただ一組だけがそこに泊まる。400坪のレモン畑を占有し、併設の「檸檬小屋」に設えられた露天では、レモンの木の下で湯に浸かる。作品としての強度と宿泊体験を同一の建築で両立させる構造は、島内でも唯一である。数値上のスコアは控えめだが、その理由は評価の母数が薄いことにあり、体験の独自性はこの5軒で最も突出している。連載の最後に置くべき一軒として選んだ。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、泊まれるアート作品という体験の希少性と、レモン畑と露天の情景への言及が中心を占める。1日1組・完全予約制ゆえに枠が極端に限られ、予約の取りにくさそのものが語られる傾向がある。宿としての快適性を最優先する滞在よりも、作品の中で一夜を過ごす行為に価値を見出す層に強く支持される。参考価格は母数が十分でないため表示を控えたが、公式が示す1棟あたりの料金と食事料金を計画の起点とするのが確実である。
向く人 / 向かない人
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向く:
現代アートに関心の深い旅、1棟を貸切る二人〜少人数の滞在、体験の独自性を最優先する人 -
向かない:
直前の予約で動く旅程、旅館的な設備や配膳を求める滞在、大人数での宿泊
具体情報
- 立地: 土庄町豊島唐櫃984・400坪のレモン畑を占有
- 客室: 1棟貸し(1日1組、定員2〜6名)
- 料金: 宿泊 1棟40,000円(税別)+食事1名6,000円(税別)※公式表示
- 鑑賞: 日中は作品として公開 10:30〜16:30(鑑賞料500円)
- 沿革: 築90年の古民家を再構築、2016年より運営(スマイルズ、VIはTakram)
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 編集部が推す時期は、オリーブの収穫が進む10〜11月である。気候が安定し、醤の郷の散策も快適で、瀬戸内の海が穏やかに凪ぐ日が増える。瀬戸内国際芸術祭の会期にあたる年は豊島側が混み合うため、宿と会期の重なりを事前に確認したい。
Q. 予約のタイミングは?
A. 全室が少室数のため、いずれの宿も繁忙期は数か月前に埋まる。とくに檸檬ホテルは1日1組で半年先まで満室になることがあり、日程が決まった段階での早い問い合わせが現実的である。三都の郷も1日2組限定のため、週末と連休は同様に早い。
Q. 小豆島と豊島は同じ旅程で回れますか?
A. 回れる。豊島へは土庄港などからの航路があり、島間はフェリーと高速艇で結ばれる。ただし便数は都市部ほど多くないため、フェリーの最終便を軸に前後の宿泊地を決めると計画が崩れにくい。両島を1泊ずつの連泊で組むのが扱いやすい。
Q. アクセスは?
A. 小豆島へは高松港や岡山・新岡山港などからフェリーで渡る。島内は路線バスもあるが本数が限られ、醤の郷・三都半島・豊島の各宿はいずれも車移動を前提にすると動きやすい。豊島島内はレンタサイクルや電動自転車での移動が一般的である。
Q. 一人旅でも泊まれますか?
A. 三都の郷は一人旅からグループまで幅広く対応する。真里・海音真里は二人以上を基本とする料理旅館で、記念日など目的のある滞在に向く。檸檬ホテルは1棟貸しのため少人数での貸切利用が前提となる。
本記事の参考情報
・小豆島観光協会 — 小豆島・醤の郷の観光情報
・豊島観光ナビ — 豊島のアート・宿・交通情報
・Wikipedia: 豊島(香川県) — 島の地理・美術館の背景
編集部から
この5軒に通底するのは、規模を絞ることで土地の主題を濃く保つという姿勢である。醤の郷の醸造、堀越岬の海、三都半島の静けさ、そして豊島のアート——いずれも宿が主張するのではなく、島の文脈を室数10以下の器で受け止めている。東の醤油蔵から西のレモン畑へ、地図の上を移ろう二日か三日は、瀬戸内という海の使い方そのものを問い直す時間になるだろう。次はどの島の、どんな段丘に宿を探そうか。