二泊三日で八ヶ岳南麓を渡る旅は、宿そのものが目的地になる。標高八〇〇メートルの空気のなかで、建築と森が対話する三軒を一晩ずつ巡る。北杜市は別荘文化が一世紀をかけて育てた土壌の上に、近年は北川原温、永山祐子といった現代建築家の小規模リゾート宿が点在する。観光地としての清里駅や小淵沢駅の名は知られているが、これらの宿の建築言語に踏み込んだ記事はほとんどない。本稿はそこを埋める一冊として、編集部が選んだ二泊三日の動線を示す。
| Day | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ホテル キーフォレスト北杜 | 小淵沢 | 95 | 6 | ¥72–¥110k | 北川原温設計、中村キース・ヘリング美術館に隣接する 6 室のブティック |
| 2 | 八ヶ岳ホテル風か | 小淵沢 | 92 | 40 | ¥52–¥98k | 標高 1,000m に立つオールインクルーシブの中規模リゾート |
| 3 | アルソア女神の森 美ウェルネス リトリート | 小淵沢 | 93 | 20 | — | 永山祐子+竹中工務店設計、森に抱かれたウェルネス宿泊 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。女神の森ルラシュは公開販売データが十分でないため掲載していません。
Day 1 — 小淵沢へ。北川原温の建築に泊まる
東京から特急あずさで二時間二十分、小淵沢駅に降りる。駅から車で十分、中村キース・ヘリング美術館の隣にホテル キーフォレスト北杜は立つ。打ち放しコンクリートの外壁に、台形状の開口部がリズミカルに並ぶ — 縄文時代の竪穴の輪郭を、現代の素材で抽象化した造形である。チェックインを済ませたら、ヘリングの線をしばらく眺めてから宿に戻り、夜のバーに腰を落ち着ける。
1. ホテル キーフォレスト北杜 — 小淵沢
標高 1,000 メートルの森に、6 室だけ。北川原温が縄文をモチーフに設計した、北杜市で最も静かなホテル。
Media Picks Score: 95 / 100 6室、アート併設のブティックホテル。
目安価格 ¥72,000–¥110,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
建築家・北川原温の意匠は、縄文人の地表感覚を打ち放しコンクリートと御影石で翻訳する。隣接する中村キース・ヘリング美術館もまた北川原の設計であり、ホテルは美術館の延長線上にある滞在空間として構想された。6 室だけという規模、夜は宿泊客のみが入れるバー、既存樹木を残した配置 — どれも数字のためでなく、空間の密度を保つために選ばれている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、建築・アートに惹かれて泊まる層からの評価が突出して高く、客室の独立性と森の静けさへの言及が中心軸となっている。食事は朝夕ともに少人数前提のコースで、量より質を支持する声が多い。一方で、観光地的なにぎわいや子連れ前提のサービスを期待する層には向かない、という主旨の意見も少数ながら見られる。
向く人 / 向かない人
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向く:
建築・現代美術が旅の動機になる二人旅、夜の喧騒を必要としない記念日、北杜市でなく「北川原温の作品」に泊まりたい人 -
向かない:
幼児連れの家族(6 室の静けさに合わない)、観光巡りで宿は寝るだけの旅程、価格より体験量を求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR 小淵沢駅 から車で約 10 分
- 客室数: 6 室(全室異なる意匠)
- 開業: 2015年9月
- 設計: 北川原温(中村キース・ヘリング美術館と同じ建築家)
- 併設: ゲスト専用バー、隣接する中村キース・ヘリング美術館
Day 2 — 高原リゾートの中庸を体験する
朝、キーフォレストの建築から一度離れ、車で 10 分の八ヶ岳ホテル風かへ移る。標高 1,000 メートルの松林の中にある 40 室の中規模リゾートで、新築ではなく、空間設計と運営の積み重ねで評価を高めてきた宿である。1 軒目の張りつめた建築体験のあとに、もう少しゆるやかな高原の時間を入れる。オールインクルーシブの形式で、館内のレストラン、ラウンジ、ライブラリ、テラスを行き来しながら一日を過ごす。
2. 八ヶ岳ホテル風か — 小淵沢
標高 1,000 メートルの松林、40 室、オールインクルーシブ。北杜市の高原リゾートの基準値を体現する一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 40室、オールインクルーシブの中規模リゾート。
目安価格 ¥52,000–¥98,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
新築でも著名建築家設計でもない宿が、なぜ Media Picks の中規模リゾート枠で選ばれるか — 答えは「もてなしの密度」である。1,000 メートルという立地から導かれる気温差、星の見え方、松の香り、これらを運営側が読み解いた上で、館内の動線と時間の流れを設計している。客室タイプは複数あり、ロビーの星見テラス、ライブラリ、館内バーは宿泊料金に含まれる。建築の主張は控えめだが、滞在の充実度が高い。
集約レビューの傾向
公開レビューデータの集計では、運営の丁寧さと食事構成への評価が両軸で高い。スタッフが宿泊客の名前と滞在二日目の動きを把握している、という主旨の声が複数の年代から繰り返し出ている。一方で、建物そのものは新築ではないため、設備の新しさを最優先する層には合いにくいという傾向も読める。価格帯の幅が広く、季節と部屋タイプで上下する点は要事前確認。
向く人 / 向かない人
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向く:
中規模リゾートの動線とおもてなしを好む二人旅、3 世代の家族旅行、館内で一日を完結させたい人 -
向かない:
新築のデザインホテルを優先する人、館内コンテンツより外出主体の旅程、密度の濃い建築体験を 2 連泊で求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR 小淵沢駅 から車で約 10 分(送迎要予約)
- 標高: 約 1,000 メートル
- 客室数: 40 室(複数タイプ)
- 食事: オールインクルーシブ(朝食・夕食・館内バー含む)
- 館内設備: ライブラリ、ラウンジ、星見テラス、館内バー
Day 3 — 永山祐子の森で、旅を閉じる
三日目、車で 10 分のアルソア女神の森へ移る。建築家・永山祐子と竹中工務店の協働による複合施設で、文化ホール、ガーデン、ウェルネスリトリート、ネイチャーオーガニックファームが森のなかに配置されている。宿泊するのは「美ウェルネスリトリート(旧称:ルラシュ)」、20 室のホリスティック宿泊棟である。1 軒目の建築体験、2 軒目の高原リゾート体験のあとに、身体を整えて旅を閉じる動線を組んだ。
3. アルソア女神の森 美ウェルネス リトリート — 小淵沢
永山祐子+竹中工務店が森に設計した、20 室のホリスティック宿。建築・食・ウェルネスが一体になった三日目を組める一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 20室、複合施設併設のウェルネスリトリート。
目安価格は公開販売価格データが十分でないため掲載していない。プログラムにより変動。

なぜ選ばれるか
永山祐子は近年、ドバイ万博日本館や東急歌舞伎町タワー、大阪・関西万博のパビリオン群などを手がけ、自然光と素材の透過性を扱う建築家として国際的な評価を持つ。女神の森セントラルガーデンはその彼女と竹中工務店の協働プロジェクトで、地下 1 階・地上 2 階建ての S 造+ RC 造、延床 5,385 ㎡という規模を、森のなかに溶け込ませる設計で実現している。ウェルネスリトリート棟はこの複合施設の宿泊機能で、スパ、ダイニング、ホリスティックプログラムを内包する。
集約レビューの傾向
公開レビューデータは件数が限られるものの、ウェルネスプログラムの質と森の静けさへの評価が中心となっている。リトリート目的の滞在が多く、観光ベースの宿泊比率は低い。施設全体が会員制的な運営に近い側面があり、プログラム参加を前提とした宿泊が主流である点は事前確認が必要となる。
向く人 / 向かない人
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向く:
建築(特に永山祐子)への関心が高い人、ウェルネスを旅の主軸にする層、複合施設内で完結する滞在を望む人 -
向かない:
観光巡り中心で宿は寝るだけの旅程、定型的なホテルサービスを求める人、宿泊プランが選びにくいと感じる層
具体情報
- 最寄り駅: JR 小淵沢駅 から車で約 10 分
- 客室数: 20 室
- 設計: 永山祐子建築設計(デザインアーキテクト)+竹中工務店(設計施工)
- 規模: S 造+ RC 造、地下 1 階・地上 2 階、延床 5,385 ㎡
- 併設: シンフォニアガーデン(文化ホール)、スパ、ダイニング、オーガニックファーム
動線と季節の補足
3 軒はすべて小淵沢駅から車で 10 分圏内に集中している。レンタカーが望ましいが、各宿の送迎を組み合わせれば駅起点でも回せる。チェックアウト後の昼は中村キース・ヘリング美術館か清里駅周辺の散策に当て、最終日は小淵沢駅 17:00 台の特急で東京方面に戻れば、無理のない 3 日間になる。標高ゆえに朝夕は冷えるため、6 月でも薄手のアウターを 1 枚。
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 編集部が推す時期は梅雨入り前の 6 月初旬と、紅葉前の 10 月中旬。標高 1,000 メートル前後のため夏でも夜は涼しく、湿度が低い時期に空気のクリアさが際立つ。冬季は積雪と路面凍結の制約があり、移動は要事前確認。
Q. 3 軒それぞれの予約タイミングは?
A. キーフォレスト北杜は 6 室のため週末・連休は数か月前に埋まる傾向。風かは部屋タイプ次第で 1 か月前でも可能性あり。女神の森は通年でプログラム連動の予約形式で、時期によって受付窓口が異なるため公式サイトで確認したい。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 3 軒のうちキーフォレスト北杜は規模と建築意匠から子連れ向きではない。風かは部屋タイプにより家族滞在が可能。女神の森はプログラム性が高く、子連れより大人のリトリート利用が中心。
Q. アクセスは?
A. JR 中央本線 小淵沢駅が起点。新宿駅から特急あずさで約 2 時間 20 分。3 軒すべて駅から車で約 10 分圏内、各宿の送迎は事前予約が前提となる宿が多い。
Q. 食事は宿泊料金に含まれますか?
A. 風かは朝食・夕食・館内バーがオールインクルーシブで含まれる。キーフォレスト北杜は朝夕の料理コースを別料金で組むのが基本。女神の森はプログラム内容により異なるため、予約時に確認する。
本記事の参考情報
・北杜市観光協会 — 北杜市内のエリア観光情報
・北杜市公式サイト — 自治体情報・市内アクセス
・中村キース・ヘリング美術館 — Day 1 で訪れたい美術館(北川原温設計)
編集部から
八ヶ岳南麓は、別荘文化の蓄積の上に近年の建築家による小規模リゾートが点在する稀有な土壌である。本稿で紹介した 3 軒は、北川原温・永山祐子という現代建築の二人に、運営と空間設計の積み上げで評価を高めた風かを挟む構成にした。観光地としての清里駅周辺は今や駅前の華やかさを離れているが、現代建築の旅としての北杜市はむしろこれから読み直されるべきエリアと言える。次回は、隈研吾が長野県側で手がけた山岳建築宿の系譜を、軽井沢を入口に書く予定である。