札幌駅から南へ徒歩十分、大通駅から地下道で直結する一画に、二〇二六年六月、地上二十六階建ての複合タワー「アーバンネット札幌リンクタワー」が竣工する。事業主は NTT 都市開発、設計は久米設計、施工は大成建設。その十七階から二十六階の上層十フロアに挿入されるのが、北海道初進出となる ハイアット セントリック 札幌(全二百十六室、うちスイート九室)。十七階のロビー床面は地表から約七十メートル、隣接する重要文化財「北海道庁旧本庁舎」の屋根越しに札幌の格子状街区と石狩湾までを横にひと続きで切り取る。本稿は宿泊レビューではなく、施工不良発覚による工期二十八か月延伸という稀有な経緯を経て組み直された設計を、空間構成・客室カテゴリ・公共建築との隣接の三層で読む一軒深掘りである。

※ 本稿の参考価格は二〇二六年六月時点での開業前公表情報および同ブランド国内既存物件の販売実績の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金。

ハイアット セントリック 札幌 — 札幌市中央区北一条西五丁目、地上二十六階建てアーバンネット札幌リンクタワーの上層十フロアに開業(提供:NTT 都市開発)
PHOTO: アーバンネット札幌リンクタワー外観(NTT 都市開発プレスリリースより) — 公式サイトを見る →

1. ハイアット セントリック 札幌 — 北海道札幌市中央区

施工延期二年が再設計の時間に転じ、二〇二六年、地表七十メートルのロビーから赤れんが庁舎を眼下に置く二百十六室が札幌中心部に開く。

Media Picks Score: 89 / 100  二百十六室(うちスイート九室)、ライフスタイルカテゴリ・アッパーアップスケール。

参考価格 ¥45,000–¥75,000 / 泊 (2名1室・通常期)

歴史と建築 — 施工延期二年が、設計を組み直す時間に変わる

敷地は札幌市中央区北一条西五丁目、北海道放送(HBC)が一九五二年から二〇一八年まで本社を構えていた一角である。テレビ塔から徒歩八分、大通公園に接し、北東側には国指定重要文化財「北海道庁旧本庁舎」(赤れんが庁舎、一八八八年竣工)が建つ。北海道の近代都市計画の起点に近い、政治・文化の象徴的な街区といってよい。

NTT 都市開発はこの跡地に、オフィス・商業・ホテル・インキュベーション施設からなる地上二十六階・地下二階の複合タワー「アーバンネット札幌リンクタワー」を計画した。設計を担うのは久米設計、施工は大成建設。当初の竣工予定は二〇二四年二月であった。

計画が一変するのは、二〇二二年である。地上十五階まで鉄骨を組み上げた段階で、施工管理に重大な不備が発覚した。鉄骨の柱と梁が七十か所で平均四ミリ・最大二十一ミリずれており、コンクリート床二百四十五か所で平均六ミリ・最大十四ミリ薄かった。原因は施工側の品質管理担当者が鉄骨精度の計測値を一部、虚偽報告していたことにある。契約および建築関連法規を満たさないと判断され、地上躯体は全解体・地下も是正対象部分を撤去のうえ、再構築されることになった。竣工は二〇二六年六月へ、二十八か月の延伸である。

建築単体としては、希少な事例である。十五階まで組まれた高層鉄骨を、商業地のなかで一度解いてやり直すという判断は、首都圏でも札幌でも前例に乏しい。延伸期間に NTT 都市開発はホテル運営方針を見直し、当初想定の客室カテゴリ構成・公共部の動線・低層部の用途を、より上層階の高度を活かす方向で組み直したと公表している。施工不良が結果として「設計を見直す時間」に転じた、稀有な経緯を持つ高層複合である。

空間構成 — ロビーを十七階に置く、垂直の組み立て

ハイアット セントリックは、ハイアット ホテルズ アンド リゾーツが二〇一五年に発表したライフスタイルブランドで、都市中心部・若年層・地域文化との連続をテーマに展開されている。日本ではすでに銀座(二〇一八年)、金沢(二〇二〇年)に進出しており、札幌は国内三軒目、北海道では初の進出となる。

このタワーで特筆すべきは、ロビーをグランドフロアではなく十七階に据えた点である。地下二階の駐車場、一階のエントランス、低層部のオフィス・商業を経て、ゲストはエレベーターで十七階のスカイロビーに上がり、そこでチェックインを受ける。床面の地表からの高さは約七十メートル。札幌の市街地は地形がほぼ平坦で、中高層ビルが格子状街区に整列するため、視線は遠方まで途切れずに通る。北側に赤れんが庁舎の銅板葺き屋根、その先に北区の市街、晴天時は石狩湾まで望める計算である。

客室はロビーの上、十八階から二十六階に積層する。下層フロアから上層へ向かうに従って客室タイプが上がり、最上階に九室のスイートが置かれる構成と公表されている。フロアごとに北・東・南・西の四方位を割り振り、北側列は赤れんが庁舎と石狩湾、東側列は大通公園とテレビ塔、南側列は中島公園方面、西側列は手稲山系を切り取る。市街全方位を客室カテゴリの一要素として明示的に組み込んだ、垂直の構成である。

客室カテゴリと内装 — BOND DESIGN STUDIO が読む「北海道」

内装設計は東京・調布に拠点を置くBOND DESIGN STUDIO。二〇一一年設立、シャングリ・ラ系列を含む五つ星ホテルの内装プロジェクトを国内外で手がけてきた事務所である。客室は二百十六室、うちスイート九室。標準客室・キング・ツイン・コーナースイート・プレジデンシャルといったハイアットの一般的なカテゴリ体系に、札幌の眺望軸と上層階の階高を組み合わせる構成と読み取れる。

同社が公表しているコンセプトは「北海道の歴史・文化・自然を館内に散りばめる」である。具体的な素材選定は開業まで明らかにされていないが、ハイアット セントリックブランドが地域文化との接続を看板に据えていること、内装設計者が地域材・地域工芸を含めた素材選定を国内既存物件で行ってきたことから、家具・テキスタイル・壁面のいずれかに北海道の木材(カラマツ、トドマツ、ナラ)や、アイヌ文様の翻案、開拓期煉瓦の色味の引用が現れる可能性が高い。同じ街区にある赤れんが庁舎の煉瓦色を、ロビー床あるいは公共部の壁面でどう参照するかが、内装設計の最も注目される論点の一つになる。

館内には地域食材を取り入れたレストランとバーが備わる予定で、北海道のテロワールを骨格に置く構成が想定される。

立地と公共建築との隣接 — 赤れんが庁舎と並ぶ、ということ

北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)と隣接するアーバンネット札幌リンクタワーの位置関係(NTT 都市開発資料)
PHOTO: アーバンネット札幌リンクタワー、北海道庁旧本庁舎との位置関係 — 出典:NTT 都市開発

JR 札幌駅から南へ徒歩約十分、地下鉄南北線・東西線・東豊線が交差する大通駅から地下道直結で徒歩約六分。札幌都心の二大ターミナル動線のちょうど中間に位置する。札幌の冬の徒歩移動は積雪と凍結の制約が大きく、地下道直結という条件は実務上の意味が小さくない。

本稿で強調したいのは、敷地が「赤れんが庁舎」と道路を一本挟んだ隣接地である、という事実である。一八八八年竣工、北海道開拓使時代の終わりに建てられた米国風ネオ・バロックの煉瓦建築は、北海道の近代史を体現する公共建築であり、二〇二三年から二〇二五年にかけて約三年の保存改修工事を経て二〇二五年七月に再開している。タワー側はその北一条通りを挟んだ南側に位置し、上層階の北面・東面客室の視界の主役となる。札幌中心部の他のシティホテルでは、テレビ塔・大通公園・中島公園を客室の眺望主題に据えた事例はあっても、重要文化財の屋根を眼下に置く高層客室というのは、これまで札幌に存在しなかった構成である。

新規開業がしばしば陥る「街並みからの孤立」を避けるかどうかは、低層部の用途構成と歩行者動線の解像度にかかる。低層部にはレストランと商業十区画、インキュベーション施設が入る予定であり、観光客以外の生活動線がタワーの足元を通り抜けることが計画段階から組み込まれている。タワーが街区の一角としてどれだけ自然に機能するかは、二〇二六年六月の開業以降に検証される。

集約レビューの傾向 — 開業前の参考

本稿は二〇二六年六月の開業に前後する時期に書かれたため、当該物件についての公開レビューデータは存在しない。集約レビューの傾向として参照できるのは、ハイアット セントリック銀座東京、ハイアットセントリック金沢の同ブランド国内既存二物件の公開レビューの集計傾向である。両物件に通底するのは、客室の機能性とパブリックスペースのデザイン演出に対する高い支持、レストランの地域性に対する評価の高さ、サービスの過剰でない距離感への支持である。一方で、上質志向のラグジュアリーホテル群と比較した際の「ラウンジ・スパ・コンシェルジュの専属性」については相対的に淡白との指摘が見られる。札幌物件の客室カテゴリ構成・スイート比率(四・二パーセント)はブランドの想定上限に近い水準であり、銀座・金沢よりやや上質側に振れたポジショニングと推測される。

具体情報

  • 住所: 北海道札幌市中央区北一条西五丁目(旧 HBC 本社跡地)
  • 最寄り駅: JR 札幌駅から徒歩約十分、地下鉄大通駅から地下道直結徒歩約六分
  • 客室数: 二百十六室(うちスイート九室、スイート比率約四・二パーセント)
  • 占有フロア: アーバンネット札幌リンクタワー一階および十七階〜二十六階(上層十フロア)
  • ロビー位置: 十七階(床面地表約七十メートル)
  • 主要施設: オールデイダイニング、バー、フィットネス、マルチファンクションスペース
  • 竣工: 二〇二六年六月(当初予定二〇二四年二月、施工不良判明により二十八か月延伸)
  • 事業主: NTT 都市開発 / 設計: 久米設計 / 施工: 大成建設 / 内装: BOND DESIGN STUDIO / 運営: NTT 都市開発ホテルマネジメント
  • 総支配人: 瀧村勇毅

こんな旅人に

  • 向く:
    札幌中心部での出張・観光双方を一拠点で済ませたい上質志向の旅程、近代建築(赤れんが庁舎・札幌時計台・北大)と街区を高層から俯瞰したい建築・都市計画関心層、地下道直結という冬季の移動条件を重視する旅
  • 向かない:
    温泉と一体の山岳・道東リゾート滞在を求める旅、低層・分棟型・少室数のヴィラスタイルを求める旅、開業直後の運営練度よりも長年の運営蓄積を優先する人

編集部から — 高層に挿入する、ということ

札幌中心部のホテル市場は、二〇二〇年前後から、外資・国内ラグジュアリー双方が新規参入を続けている。そのなかで本稿が取り上げたのは、ハイアットの北海道初進出という稀少性に加え、施工不良発覚と二年の延伸を経て組み直された設計プロセスそのものへの関心からである。札幌の高層ホテル市場は、近年「ロビーを高層階に置く」「公共建築を眼下に置く」事例が複数現れているが、ハイアット セントリック 札幌は北一条通りを挟んで赤れんが庁舎の屋根を視界の主役に据えるという、立地特有の構成を持つ。二〇二六年六月の開業後、内装設計が公表素材選定にどこまで踏み込むか、低層部の歩行者動線が街区にどう接続するか、そしてスイート比率を反映した客室カテゴリ運用が長期でどう機能するか。本稿の主題は開業前夜の「読み」であり、開業後一年の運営蓄積を経て、改めて検証したい一軒である。

よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 札幌は四季の差が大きく、ホテルの体験軸も季節で変わる。十七階以上の高層客室から市街と石狩湾を見渡す視覚的体験を重視するなら、空気の澄んだ十月下旬から十一月上旬、または積雪が深まる一月下旬から二月上旬。開業初年は二〇二六年六月から夏季にかけてとなるため、編集部としては緑が街区を覆う夏期、または初冬の落葉と初雪が街並みを線で描く十一月初旬を推す。

Q. アクセスは?

A. JR 札幌駅から南へ徒歩約十分。地下鉄大通駅から地下道直結で徒歩約六分。新千歳空港から札幌駅まで快速エアポートで約三十七分。海外からの旅程ではアジア各都市からの直行便が新千歳に発着しており、空港から地下道直結までを最短二時間以内に組める。

Q. 周辺の建築・観光資源は?

A. 道路を一本挟んだ北東に北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎、国指定重要文化財、二〇二五年改修再開)、徒歩四分に札幌時計台、徒歩八分に大通公園とさっぽろテレビ塔、徒歩十分に北海道立近代美術館。徒歩圏に道庁・市役所・札幌市資料館(旧札幌控訴院)といった近代官庁建築が集積する一画である。

Q. 工事中の経緯について教えてください

A. 二〇二一年十月着工、二〇二二年に地上十五階まで組み上げた段階で施工管理上の不備が発覚し、地上躯体を全解体・再構築。事業主・設計・施工の三者体制は当初と同じで継続。当初竣工予定二〇二四年二月から二十八か月の延伸を経て、二〇二六年六月竣工予定。延伸期間にホテル運営方針の見直しも行われている。

本記事の参考情報

NTT 都市開発 アーバンネット札幌リンクタワー物件情報 — 建築概要・延床面積・開業時期
NTT 都市開発 二〇二六年五月十二日プレスリリース — 総支配人就任・運営計画
Hyatt Centric Sapporo 公式サイト — ブランドコンセプト・客室カテゴリ
BOND DESIGN STUDIO 公式サイト — 内装設計事務所プロフィール
Wikipedia: 北海道庁旧本庁舎 — 隣接重要文化財の沿革

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