別府湾を挟まず、山だけを継いで九州の湯を巡る二泊三日がある。由布院の鳥越から阿蘇北麓を回り込み、黒川、そして大分・熊本県境の杖立へ。海側の観光動線をあえて外し、標高と川霧のなかを車で移す夏の連泊を、各泊の宿の食と朝湯の設計まで含めて記す。梅雨明けから盛夏、内陸の温泉郷がもっとも静かに整う時期を選んだ三軒である。
| Day | 宿 | 温泉地 | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 山荘 無量塔 | 由布院 | 94 | 12 | ¥176–194k | 古民家を移した全室離れ、由布院デザイン旅館の原点 |
| 2 | 山みず木別邸 深山山荘 | 黒川温泉 | 91 | 16 | ¥72–83k | 森の奥の離れ八棟、全室に客室風呂 |
| 3 | 米屋別荘 | 杖立温泉 | 89 | 6 | — | 天保創業、月替り懐石の和風オーベルジュ |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。Media Picks Score は公開レビューデータを集計し、立地・規模・編集適合度を加味した独自指標です。
Day 1 | 由布院・鳥越 — 山荘 無量塔
由布岳の麓、鳥越の丘に十二の離れ。古民家を移した数寄屋で、由布院のデザイン旅館の原点と呼べる一軒。
Media Picks Score: 94 / 100 12室、全室離れの数寄屋旅館。
目安価格 ¥176,000–¥194,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
1992年、由布院駅から山側へ入った鳥越地区に開いた宿である。町なかの喧噪から距離を取り、各地から移した古民家を数寄屋に仕立て直して、十二の離れとして点在させた。館内には Tan’s bar、蕎麦の不生庵、チョコレートの theomurata、音の展示空間 Artegio が連なり、旅館という枠を建築とブランドの複合体へ広げた。由布院の宿がデザインで語られるようになった起点として、まず一泊目に据えたい。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価は建物と設えの完成度、そして静けさに集まる。離れごとに意匠が異なる点、由布岳を望む庭の距離感、火を扱う炉端や薪の景まで含めた空間設計への言及が目立つ。一方で、山側ゆえ徒歩での町歩きには向かず、車か送迎前提の立地であることは織り込んで臨みたい。価格帯は三軒のなかで突出しており、記念の一夜としての性格が強い。
向く人 / 向かない人
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向く:
建築と設えを旅の主目的に置く人、記念日の連泊初日に格を求める二人旅、館内の食とバーで完結させたい滞在 -
向かない:
湯布院の街を徒歩で巡りたい旅程(山側で街まで距離がある)、価格を抑えて泊数を重ねたい旅
具体情報
- 所在: 大分県由布市湯布院町川上(鳥越地区)/由布院駅から無料送迎あり
- 客室: 全12室、すべて離れ(古民家を移築した数寄屋)
- 館内: Tan’s bar、蕎麦「不生庵」、theomurata、Artegio を併設
- 開業: 1992年
- 立地: 由布院の町なかから山側へ入った静区、車移動が前提
移動 | 由布院 → 黒川温泉(車で約1時間)
由布院から水分峠を越え、やまなみハイウェイで九重の高原を南下する。標高が上がるにつれ空気が乾き、盛夏でも窓を開けたくなる。飯田高原あたりで一度車を停め、草原の広さを目に入れてから黒川へ下ると、湯の谷に着いた時の落差が効く。海側の別府湾を一度も見ないまま、山だけで大分から熊本県境へ移る一時間である。
Day 2 | 黒川温泉・満願寺 — 山みず木別邸 深山山荘
森の奥に八棟十六室。全室に客室風呂を備えた、黒川の喧噪から半歩退いた離れの別邸。
Media Picks Score: 91 / 100 16室、母屋と離れ八棟からなる別邸。
目安価格 ¥72,000–¥83,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
黒川温泉の中心から谷を少し奥へ入った森のなかにある。姉妹館・山みず木の思想を受けて生まれた別邸で、母屋と八棟十六室の離れで構成し、全室に客室風呂を備える。宿の湯に加え、姉妹館である新明館・山みず木の露天も利用できるため、黒川らしい湯めぐりを一軒に居ながら組める。無量塔の建築的な緊張感に対し、こちらは森と川音に体を預ける弛緩の一泊。連泊二日目の役割として過不足がない。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、全室に備わる客室風呂と、森に囲まれた静けさへの評価が中心を占める。離れごとに保たれる独立性、姉妹館の露天へ足を延ばせる自由度、夕食の落ち着きが繰り返し語られる。黒川の中心街からは歩ける距離ではないため、湯めぐりの外湯手形を街で使いたい向きには送迎や車の段取りが要る。静けさと引き換えの立地であることを踏まえたい。
向く人 / 向かない人
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向く:
客室風呂で人目を気にせず湯に浸かりたい二人旅、森の静けさを優先する滞在、姉妹館の露天まで湯を巡りたい人 -
向かない:
黒川の湯めぐり手形で街の外湯を歩いて回りたい旅程、中心街の食べ歩きを主目的にする旅
具体情報
- 所在: 熊本県阿蘇郡南小国町満願寺(黒川温泉)
- 客室: 全16室、母屋+離れ八棟。全室に客室風呂
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 湯めぐり: 姉妹館・新明館/山みず木の露天風呂も利用可
- 立地: 黒川中心街から谷を奥へ入った森のなか、車移動が前提
移動 | 黒川温泉 → 杖立温泉(車で約20分)
黒川から県道を北西へ下ると、二十分ほどで大分・熊本県境の杖立に着く。標高が下がるにつれ谷は深く狭くなり、川沿いに旅館が石垣のように積み上がる古い湯町の姿が現れる。前二泊の整えられた宿とは風景の密度が違う。ここは温泉地の古層——洗練よりも湯けむりと歳月の匂いが勝つ土地で、連泊の終わりを締める。
Day 3 | 杖立温泉・小国 — 米屋別荘
天保十四年創業、杖立の谷に六室。料亭仕込みの月替り懐石を核にした和風オーベルジュ。
Media Picks Score: 89 / 100 6室、和風オーベルジュ。
目安価格は集計に足るデータが揃わず、本稿では公表を控える。少室数ゆえ料金は時季と献立で動く。

なぜ選ばれるか
創業は天保十四年、杖立温泉街の川沿いに構える老舗である。七代目が掲げる看板は「和風オーベルジュ」。料亭で培った技を軸に、素材を絞り込んだ月替りの懐石を六室だけの規模で供する。前二泊の格式や設えの完成度とは異なる価値——食を中心に据えた小体な運営と、蒸し湯を含む湯——で、連泊の締めにふさわしい。派手さではなく、皿と湯の密度で記憶に残る一軒として推したい。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価は月替り懐石の完成度と、六室という小さな規模ゆえの目の届いた運営に集中する。杖立らしい蒸し湯や露天への言及、川に面した古い温泉街の風情を含めて滞在を評価する声が多い。設備の新しさや広さを最優先する向きには、老舗ゆえの年季を受け止める姿勢が要る。食と湯を主目的に据えるほど満足が深まる宿である。
向く人 / 向かない人
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向く:
夕食を旅の中心に置く人、少室数の静かな運営を好む二人旅、古い湯町の風情ごと味わいたい滞在 -
向かない:
最新の設備や広い客室を最優先する旅、大浴場の規模や派手な演出を求める旅程
具体情報
- 所在: 熊本県阿蘇郡小国町下城(杖立温泉)
- 客室: 全6室(小規模の和風オーベルジュ)
- 食事: 料亭仕込みの月替り懐石
- 湯: 杖立の蒸し湯・岩組の露天
- 創業: 天保14年(1843年)
よくある質問
Q. 三軒を車で継ぐのに要る運転時間は?
A. 由布院から黒川まで約1時間、黒川から杖立まで約20分が目安です。いずれも山道が主で、別府湾など海側は通りません。三日目に杖立から福岡・大分方面へ抜ける場合も高原と峠越えが中心になるため、朝発が動きやすいです。
Q. 予約はどれくらい前から動くべきですか?
A. いずれも客室数が6〜16室と少なく、とりわけ無量塔と深山山荘は連休や盛夏の週末が早く埋まります。連泊の日程が定まった段階で、まず初日と中日を押さえるのが動きやすい順です。米屋別荘は少室数ゆえ献立と時季で条件が動くため、直接の問い合わせが確実です。
Q. 夏に泊まる利点は?
A. 内陸の高原地形が生む朝晩の涼が最大の利点です。標高が上がる九重・黒川では盛夏でも空気が乾き、日が落ちた後の湯が心地よく感じられます。杖立は谷が深く、川霧と湯けむりの重なる薄暮の時間帯が編集部の推す刻限です。
Q. 車がなくても巡れますか?
A. 三軒とも山側の立地で、公共交通のみでの周遊は現実的ではありません。レンタカー、もしくは宿ごとの送迎条件を事前に確認したうえでの車移動を前提に組むのが無理のない旅程です。
Q. 三軒で価格帯が大きく違うのはなぜですか?
A. 宿の格と規模、食のかたちが異なるためです。全室離れの数寄屋である無量塔、全室客室風呂の別邸である深山山荘、六室の和風オーベルジュである米屋別荘は、それぞれ提供する体験の設計が違います。連泊で価格の高低差を意図的に組み込むことで、洗練から古層へと下る道行きそのものを味わえます。
本記事の参考情報
・Wikipedia: 杖立温泉 — 大分・熊本県境の温泉地の歴史・地理
・Wikipedia: 黒川温泉 — 景観づくりと外湯めぐりの背景
・黒川温泉観光旅館協同組合 — 黒川温泉エリアの公式観光情報
編集部から
三軒に通底するのは、海を経ずに山だけで湯を継ぐという編集の軸である。由布院の数寄屋で建築の緊張を味わい、黒川の森で湯そのものへ弛緩し、杖立の谷で食と歳月の密度に沈む——洗練から古層へと標高を下るこの順路は、別府湾側の華やかな動線とは別の九州を見せる。梅雨明けから盛夏、内陸がもっとも涼やかに整う時期に、あなたなら三日目の杖立をどんな夕暮れで締めるだろうか。