箱根・強羅の斜面に建つ強羅花壇は、旧閑院宮別邸の敷地を継いで1948年に創業した、全42室の高級旅館である。1930年に閑院宮載仁親王が迎賓の場として構えた別邸の地に、1989年、竹山聖と荻津邦夫が率いるアモルフの設計で現在の建物が建った。約120メートルの列柱廊、崖地を段状に下る客室棟、渓側に離した離れ——高低差のある地形を回遊で解いた普請を、建築と運用の両面から読む。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。


強羅花壇 — 箱根強羅・玄関から続く柱廊、黒タイルの床と列柱が谷側のデッキに開く
PHOTO: 強羅花壇 — 公式サイトを見る →

敷地の履歴 — 別邸から旅館へ

1930年、閑院宮載仁親王が岩崎康彌から強羅の土地を譲り受け、迎賓のための別邸を建てた。ここが敷地の起点である。屋号にある「花壇」は、旧宮家が国賓や要人に自邸を開いてもてなす場を指した言葉で、載仁親王が別邸を開放するにあたり命名したものだと運営側は説明する。創業の地「強羅」と、この「花壇」を継いだ名が今に続く。

旅館としての開業は1948年。1989年に建物が全面的に建て替えられ、現在の姿になった。設計は竹山聖と荻津邦夫が率いるアモルフで、翌1990年に神奈川県建築コンクール優秀賞を受けている。1992年にはルレ・エ・シャトーへ日本で2番目に加盟した。旧閑院宮別邸の洋館は取り壊されずに敷地内へ残り、2023年からはその2階が鮨の店として使われている。保存した建物に現役の用途を与えている点が、この宿の履歴の要である。

約120メートルの列柱廊 — 高低差を動線に変える

敷地は平坦部の少ない崖地で、設計上の主題は勾配への対応にある。門をくぐると石を敷いた露路が続き、玄関へ至る。ロビー階から先に現れるのが、この宿を象徴する列柱廊である。館内案内図に「柱廊 / Pillar Corridor」と記されたこの通路は、およそ120メートルにわたって列柱を反復させ、黒く光る床タイルが奥行きを引き締める。玄関からの長い接近と柱の連続が、到着の速度を意図的に落としている。

回遊の構造はこうだ。門から露路、玄関、ロビー階の柱廊、そして階段を下り、客室棟へはエレベーターで移動する。斜面に沿って建物が段状に折り重なるため、平面図の距離と体感の距離が一致しない。水平移動と垂直移動を交互に繰り返しながら、大浴場や貸切露天風呂、離れへと辿り着く。旧閑院宮別邸とも廊下でつながり、洋館へは屋内を通って向かうことができる。


強羅花壇 — 箱根強羅・斜面に段状に下る客室棟の屋根と明星ヶ岳側の山容
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客室の階層 — 本館・離れ・別邸

館内案内図から客室を数えると、本館は1階7室、2階10室、3階8室、4階5室、5階5室の計35室。これに渓側へ散らした離れ4室(花香・残月・名月・泉心)と別邸3室(曙・暁・東雲)が加わり、合わせて42室になる。ルレ・エ・シャトーの施設情報などが41室と記すのは、2025年8月に「東雲」が加わる前の数字である。桐、楓、桂、欅、柊、榊——本館の客室には樹木の名が与えられている。

全室が畳敷きで、数寄屋造りに倣った構えを持つ。客室の入口には必ず沓脱石が据えられ、履物を脱いで石を踏み、畳へ進む段階を経るよう設えられている。ただし露天風呂は、客室露天を備えた部屋と備えないスタンダード和室とが併存する構成で、部屋種別によって湯の条件が明確に異なる。なお公式サイトは「日本で初めて客室に露天温泉を取り入れた」と自ら記すが、これは伝聞の形の記述であり、一次資料での裏付けには至っていない。

2025年8月に加わった別邸「東雲」は254平米。25畳のダイニング、11畳の寝室、12畳の広縁、8畳の茶室、5畳の書院という間取りで、ツインベッドと布団を併用し、最大6名まで泊まれる。専属の調理人が目の前で仕上げるシェフズキッチン、ドライサウナ、枯山水の石庭を俯瞰する展望石風呂を備える。石庭の奥に見えるのは、大文字焼が灯る明星ヶ岳である(公式サイトの表記は「大文字山」)。

湯と庭 — 庭屋一如という前提


強羅花壇 — 箱根強羅・深い軒の湯屋と岩組の露天風呂、庭に開く庭屋一如の構え
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泉質は弱アルカリ性単純温泉。源泉は3本を所有し、うち2本は庭園内から湧き出す。敷地の内側に湯が湧くという条件が、庭と浴場の距離を近づけている。大浴場は男女に分かれ、午前3時に入れ替わる。スチームサウナの付いた貸切露天風呂は源泉掛け流しで、40分を追加料金なしで使える。本館1階のKADAN SPAには温水プールと屋外ジャグジー、岩盤浴、ハマム、フィットネスジムが並ぶ。

建築は庭屋一如——庭と建物を一体として扱う考え方——のもとに設計されたと運営側は説明する。深い軒の湯屋が庭へ開き、岩を組んだ湯船が地面の高さに据えられる構えは、その言い分と矛盾しない。


強羅花壇 — 箱根強羅・枯山水の石庭と、竹の袖垣が並ぶ客室棟の外観
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板場の会席と、洋館の鮨

夕食は懐石で、旧宮家ゆかりの洋館を使う「懐石料理 花壇」が主舞台になる。開始は18時と19時の二部制、最終提供は19時と明示される。2泊以上の滞在にはしゃぶしゃぶ、すき焼き、和牛懐石といった別の献立が組まれ、連泊で同じ皿が繰り返されない。朝食は8時、8時30分、9時から選び、和食と洋食のいずれかを指定できる。アレルギーや苦手な食材は前日までの申し出で対応するが、当日の変更は受け付けない。この線引きの明快さは、板場の仕込みを守るための運用と読める。

2023年に旧閑院宮別邸の2階へ入った「鮨かだん」は、歴史的建造物を食の場に転用した例である。保存するだけでなく、客が日常的に足を踏み入れる用途を与えた点で踏み込んでいる。

Media Picks Score — 92 / 100

Media Picks Score: 92 / 100  42室、高級旅館。

目安価格 ¥179,000–¥274,000 / 泊 (2名1室・通常期)

公開レビューデータを集計すると、評価は建築と接遇に厚く積み上がっている。到着から客室までの道のり——柱廊を歩き、段差を下り、案内されて部屋に入るまでの一連——を滞在の中心的な体験として語る傾向が強い。食事の評価も高い位置で安定する一方、開始時刻が二部制で最終提供が19時である点、部屋種別で露天風呂の有無が分かれる点は、期待と実際が食い違いうる箇所として残る。館内の移動に階段とエレベーターの乗り継ぎが伴うことも、評価の分かれ目に現れる。スコアは立地と建築の固有性、運営の一貫性、高価格帯における体験の密度を勘案した合成値である。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    近代和風建築や数寄屋の普請を目的に泊まる旅、記念日に一室の格を優先する二人旅、館内で完結させて外出を前提としない滞在、連泊で献立の変化を求める旅程
  • 向かない:
    完全なバリアフリーを要する滞在(対応客室の用意がない)、乳幼児連れで大浴場やプールを使いたい家族(おむつが取れていない場合は利用不可)、19時以降に到着する旅程、価格を抑えたい旅

具体情報

  • 所在地: 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300
  • 客室: 計42室(本館35室 / 離れ4室 / 別邸3室)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 創業: 1948年(敷地は1930年築の旧閑院宮別邸を継ぐ)/現建物は1989年改築
  • 設計: 竹山聖・荻津邦夫(アモルフ)/1990年 神奈川県建築コンクール優秀賞
  • 泉質: 弱アルカリ性単純温泉、自家源泉3本(うち2本は庭園内から湧出)
  • 食事: 夕食は懐石(18:00 / 19:00 開始、最終提供19:00)、朝食は和食・洋食から選択(8:00 / 8:30 / 9:00)
  • 駐車場: 30台、バレー駐車。宿泊者専用のテスラ製充電スタンド1機を無料で利用可
  • 送迎: 強羅駅などへ送迎あり(到着後に電話)。タクシーは小田原駅から¥6,000〜、箱根湯本駅から¥4,360〜
  • その他: 全館禁煙、全客室Wi-Fi、ベビーベッド等の貸出あり、完全バリアフリー客室はなし

よくある質問

Q. 最寄り駅からのアクセスは?

A. 箱根登山鉄道の強羅駅が最寄りで、到着後に電話をすると送迎車が向かう。車の場合は小田原西インターチェンジから国道1号線を経由し、強羅入口から県道723号線に入る。タクシーは小田原駅から¥6,000〜、箱根湯本駅から¥4,360〜が目安。駐車場は30台分あり、到着後はエントランスで係が車を預かるバレー方式になっている。

Q. 客室は何室あり、どのような種類か?

A. 館内案内図で数えると計42室。内訳は本館35室、渓側の離れ4室、別邸3室である。別邸「東雲」は2025年8月に加わった254平米の客室で、茶室と書院を含み最大6名まで泊まれる。客室露天風呂を備える部屋と、備えないスタンダード和室が併存するため、湯の条件は部屋種別で確認しておきたい。

Q. 子ども連れでも泊まれるか?

A. 宿泊に年齢制限はなく、12歳以下には子供向けの料理が出る。浴衣や雪駄、子供用歯ブラシのほか、ベビーベッド、ベビーチェア、子供用便座、温度調節のできる電気ケトルなどの貸出もある。ただし、おむつが取れていない子どもは大浴場とプールを利用できない。数に限りのある貸出品は早めの申し出が要る。

Q. 大浴場と貸切風呂はどう使えるか?

A. 大浴場は男女に分かれ、午前3時に入れ替わるため、滞在中に両方を経験できる。スチームサウナ付きの貸切露天風呂は源泉掛け流しで、40分を追加料金なしで使える。このほか岩盤浴、ハマム、屋外ジャグジーを併設した屋内温水プール、フィットネスジムが本館1階のKADAN SPAに揃う。

Q. 訪れる時期はいつが良いか?

A. 通年で成立する宿だが、建築を目的にするなら緑の濃い晩夏から、渓が色づく晩秋にかけてが読みどころが多い。毎年8月16日には明星ヶ岳で箱根強羅温泉大文字焼が行われ、2026年は第105回として19時30分に点火された。夏休みと紅葉期は価格帯が上振れしやすく、目安価格の上限側に寄る傾向がある。

本記事の参考情報

強羅花壇 箱根 公式サイト — 客室・施設・館内案内図・FAQ
箱根強羅観光協会 — 強羅エリアの観光情報と大文字焼
Wikipedia: 強羅花壇 — 沿革と設計者に関する背景

編集部から

強羅花壇を一棟として読むと、判断の軸が二つ見えてくる。ひとつは、旧閑院宮別邸を壊さずに残し、鮨の店という現役の用途を与えたこと。もうひとつは、崖地という不利な条件を、約120メートルの列柱廊という反復で正面から引き受けたことである。どちらも敷地の履歴と地形を消さずに設計へ通した判断だと言える。次は、同じ斜面という条件に別の解を出した宿を並べて読んでみたい。段々に折り重なる木造は、平地の旅館と何を交換しているのだろうか。

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