壁に穿たれた窓ではなく、天井に開けた穴から光を採る——その発想で設計された宿を、夏至前後の京都から3軒選んだ。隣家や擁壁に視線を塞がれた都市・斜面の敷地で、上方からの採光は明るさだけを室内に落とし、外の雑然を切り落とす。乳白ガラスで直射をやわらげ、時刻とともに位置の動く光の帯を床に引き、光井戸を介して下階へ間接光を導く。陰翳や横からの間接光を主題にした既出の稿とは別の系譜、すなわち「採光の方向」そのものを、断面の発想から読むエッセイである。

宿 エリア Score 室数 目安価格 採光の手
MOGANA 京都・中京区 93 23 ¥50–¥70k 光井戸状の吹抜けと格子越しの拡散光
THE HIRAMATSU 京都 京都・中京区室町 91 29 ¥92–¥169k 空中に浮かぶ箱庭=庭を光井戸へ転じる
THE JUNEI HOTEL 京都 京都・東山区 90 11 ¥66–¥122k 「風・光・煌めき」と屋上の観月の庭

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。Media Picks Score は公開レビューデータを集計し、立地・設備・編集適合度を加味した編集部の指標です。

採光の方向という主題

横からの光は、必ず外の景色を連れてくる。向かいの建物、駐車場の白い擁壁、電線。だから視線を切りたい敷地ほど、設計者は窓を諦め、天井を割る。トップライトは真上から差すぶん、同じ面積の側窓のおよそ三倍の光を室内に落とすと言われる。問題は光の強さではなく、扱いだ。直射のまま落とせば夏の客室は灼ける。そこで乳白ガラスで拡散し、深い光井戸の壁に何度も反射させて減衰させ、やわらかい面光源に変えてから床へ届ける。断面図を見れば、その宿が光をどう「下ろしているか」が読める。以下の3軒は、いずれも京都の限られた間口の敷地で、上方の光を別々の手つきで扱っている。夏至前後、南中高度が一年で最も高いこの季節は、その設計の意図が床の最も深いところまで届く時季でもある。

1. MOGANA — 京都・中京区

二条城ほど近く、安藤忠雄門下・山口隆が「鰻の寝床」を再構築した23室。上方から落ちる拡散光が空間の主役である。

Media Picks Score: 93 / 100  23室、デザインホテル。

目安価格 ¥50,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)


MOGANA — 京都・中京区 · 上方の光井戸から落ちる拡散光が床の生け花を照らす共用空間
PHOTO: MOGANA — 公式サイトを見る →

設計は山口隆。1998年に京都で完成させた庫裏「Glass Temple」で知られる建築家で、地中に埋めた本体の天井だけをガラスのトップライトとして地上に出し、堂内へ上方から光を導いた作品である。その思考はこの宿にも通う。京町家固有の細長い敷地——「鰻の寝床」を、38メートルに及ぶ格子の通路として再構築し、日本瓦の色に染めた格子越しに、直射ではない木漏れ日状の光を内部へ落とす。照明のパネルをランダムに重ね、光をいったん拡散させてから空間に放つ手つきは、自然光のトップライトを人工光で翻訳したものと読める。黒御影石の床と背面採光の壁龕が、上から来る光を低い位置で受け止め、時刻によって陰影の重心が動く。形容を重ねるより、断面の発想がそのまま体験になっている一軒と言える。


2. THE HIRAMATSU 京都 — 京都・中京区室町

明治期の京町家を解体し、使える建材を残して再構築した29室。客室に「空中に浮かぶ箱庭」を据え、庭を光井戸へ転じた一軒。

Media Picks Score: 91 / 100  29室、町家リノベーションの美食ホテル。

目安価格 ¥92,000–¥169,000 / 泊 (2名1室・通常期)


THE HIRAMATSU 京都 — 京都・中京区室町 · 京町家を再構築した美食ホテルのしつらえ
PHOTO: THE HIRAMATSU 京都 — 公式サイトを見る →

町家は本来、奥へ進むほど暗くなる。その弱点を、京都の住居は坪庭で補ってきた。庭は鑑賞のためだけでなく、光と風を内部へ引き込む装置だったからである。この宿は明治期の町家を一度解体し、使える建材を残して組み直す過程で、その伝統的な採光装置を現代の手つきで増幅した。石灯籠のある小さな坪庭、松の庭、奥の竹林の庭——光源となる庭を段階的に配し、一部の客室には「空中に浮かぶ箱庭」と呼ぶ吊られた小さな庭を設える。床に置かず、視線より上に庭を浮かせることで、光は上方から降りるように室内へ入る。これは平面の坪庭を断面方向へ起こし、光井戸に転じる操作と読める。庭から落ちる光を相手に、京懐石の時間が流れる構成で、採光と食を同じ設計言語で扱った点に編集部は注目している。


3. THE JUNEI HOTEL 京都 — 京都・東山区

東山に佇む全11室。「風・光・煌めき」を主題に据え、屋上には月を望むための庭を持つ。光を上から扱う宿である。

Media Picks Score: 90 / 100  11室、スモールラグジュアリーホテル。

目安価格 ¥66,000–¥122,000 / 泊 (2名1室・通常期)


THE JUNEI HOTEL 京都 — 京都・東山区 · 屋上の観月の庭から望む月と空のコンセプトビジュアル
PHOTO: THE JUNEI HOTEL 京都 — 公式サイトを見る →

三軒のうち、上方の光を最も主題化して名づけているのがこの宿だ。客室のテーマは「風・光・煌めき」。陽の光で染め上げる「夢香路(ゆめこうろ)」の布が、時刻と角度で色を変えながら室内に揺れる。光を建材ではなく素材の側から扱う、という独特の姿勢である。そして屋上には、月を眺めるためだけに設けた庭がある。昼の太陽光だけでなく、夜の月光まで採光の対象に含めるこの構えは、光を上から受け取るという発想を一日のサイクル全体へ広げたものだ。坪庭に面した信楽焼の浴槽で湯に浸かりながら、季節と時間で表情を変える庭の明るさを受け取る——光の向きと量を、過剰な装飾を避けて静かに設計した一軒として、編集部はこの宿を3軒目に選んだ。Condé Nast Traveler の2025年読者投票で国内ホテル上位に入った実績も、その姿勢への評価と読める。


本稿で触れた宿

  • MOGANA: 京都市中京区・23室。設計=山口隆。格子越しの拡散光と光井戸状の吹抜けで上方採光を扱う。目安 ¥50,000–¥70,000。
  • THE HIRAMATSU 京都: 京都市中京区室町・29室。明治期町家を再構築。「空中に浮かぶ箱庭」で庭を光井戸に転じる。目安 ¥92,000–¥169,000。
  • THE JUNEI HOTEL 京都: 京都市東山区・11室。「風・光・煌めき」を主題に、屋上に観月の庭。目安 ¥66,000–¥122,000。

よくある質問

Q. 上方からの採光が最も映える時季はいつですか?

A. 夏至前後です。太陽の南中高度が一年で最も高くなり、トップライトや光井戸から落ちる光が床の最も深いところまで届きます。直射が強すぎる正午を避け、午前の斜めの光を狙うと、光の帯の動きが読みやすいと編集部は考えています。

Q. 天窓のある客室は夏に暑くなりませんか?

A. 本稿の3軒はいずれも直射をそのまま落とす設計ではなく、乳白ガラスや格子、深い光井戸で光を拡散・減衰させてから室内に導いています。明るさは確保しつつ熱負荷を抑える方向で設計されているため、夏でも光の質を楽しめます。

Q. 3軒はどう選び分ければよいですか?

A. 設計者の思想で建築を読むなら MOGANA、庭と食を一つの軸で味わうなら THE HIRAMATSU 京都、少室数の静けさと観月の時間を求めるなら THE JUNEI HOTEL 京都が旅程に合います。いずれも京都市内で、徒歩や短いタクシー移動で巡れる範囲にあります。

Q. 海外からの旅行者でも快適に過ごせますか?

A. 3軒とも少〜中規模のラグジュアリー宿で、京都市中心部に位置します。THE JUNEI HOTEL 京都は Condé Nast Traveler の読者投票で国内上位に入るなど、訪日層からの評価も高い傾向が公開レビューデータの集計から見て取れます。

編集部から

採光の方向を主題に据えると、京都の限られた敷地がむしろ設計の見せ場に変わる。横が塞がっているなら上を割る——その一手から、格子の拡散光、浮かぶ庭、観月の庭という三者三様の解が生まれた。いずれも形容を重ねず、断面の論理がそのまま滞在の体験になっている。次は、同じ採光でも「横からの間接光」と「陰翳の設計」を主題にした稿で、別系譜の宿を読み解きたい。あなたなら、上から落ちる光と、横から差し込む光、どちらの部屋で夏至の朝を迎えたいだろうか。

本記事の参考情報

Wikipedia: 山口隆(建築家) — Glass Temple ほか採光設計の背景
Wikipedia: 陰翳礼讃 — 日本建築における光と陰の思想

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