庄内の海と山のあいだに、部屋数を絞った旅館が点在している。鶴岡の湯田川から白山島の由良、そして日本海に沈む夕陽の湯野浜へ ── 藩政期の門前と北前船の港、鳥海と月山の伏流水を背にした三つの温泉集落を編集部が縦断し、料理と建築の密度で 5 軒を選んだ。盛夏の岩牡蠣、寒鱈、桜鱒、孟宗の暦を膳に写す高級旅館の系譜を、20室前後の宿を軸に読み解く。
| # | 旅館 | 温泉地 | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 九兵衛旅館 | 湯田川 | 95 | 13 | ¥52–¥70k | 源泉かけ流し、朝夕個室会席、庄内の食材で組む湯田川の代表格 |
| 2 | 珠玉や | 湯田川 | 95 | 8 | ¥45–¥55k | 九兵衛の別館、貸切風呂 3 と 8 室の静けさに絞った小体 |
| 3 | 湯どの庵 | 湯田川 | 93 | 14 | — | 岩倉榮利設計、2025 年 7 月からアル・ケッチァーノがオーベルジュ化 |
| 4 | タカミヤ 湯の浜テラス 西洋茶寮 | 湯野浜 | 89 | 9 | — | 2006 年開業、日本海を望む丘の上のオーベルジュ、9 室のみ |
| 5 | 愉海亭みやじま | 湯野浜 | 94 | 28 | — | 波打ち際に建つ湯野浜の老舗、屋上大露天から日本海に沈む夕陽 |
| 6 | ホテル八乙女 | 由良 | 87 | 59 | — | 白山島と朱塗りの橋を正面に望む、由良海岸を代表する 1 軒 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。「—」は集計に十分なサンプル数が得られなかった宿。
1. 九兵衛旅館 — 鶴岡・湯田川温泉
開湯 1,300 年、湯田川の朝夕を庄内の膳で締める、部屋数 13 の兄。
Media Picks Score: 95 / 100 13室、旅館(禁煙全室)。
目安価格 ¥52,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯田川の集落中央に建ち、露天・金魚風呂・貸切風呂を全て源泉かけ流しでまかなう。日本源泉かけ流し温泉協会に加盟。夕食は朝夕とも個室で組み、孟宗筍、桜鱒、岩牡蠣、寒鱈、鮟鱇、ハタハタ、だだちゃ豆といった庄内の食材を月ごとに切り替える。手を掛けた料理長の献立と、13 室に抑えた運営規模が、湯田川で最も評価の集まる背景を作っている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理と接客が突出して支持されており、続いて湯そのものの質、朝食の丁寧さが読み取れる。1,000 件を超える評価数を集めながら平均が 4.8 台後半に留まる宿は東北全域でも希少で、宿主から仲居まで運営が縦に揃っている像が浮かぶ。食材の説明と器選びが評価軸として繰り返し立ち上がるのも、料理長主導の設計を映している。
向く人 / 向かない人
-
向く:
庄内の食材と地酒を軸に組む記念日、湯そのものに時間を割く一人旅、藤沢周平ゆかりの湯田川集落を歩きたい滞在 -
向かない:
観光地巡り中心で宿に戻る時間が短い旅程、洋食主体の食を望む滞在、送迎を頻繁に使う移動計画
具体情報
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約 15 分(路線バス約 30 分)
- 客室数: 13室(全室禁煙)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 朝食・夕食ともに個室会席(庄内食材の月替わり献立)
- 温泉: 湯田川源泉かけ流し、露天・金魚風呂・貸切風呂
2. 珠玉や — 鶴岡・湯田川温泉
九兵衛の別館、8 室と貸切風呂 3 に絞った湯田川で最も静かな一軒。
Media Picks Score: 95 / 100 8室、旅館(全室禁煙)。
目安価格 ¥45,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
九兵衛旅館の別館として運営される 8 室の小体。3 つの貸切風呂を予約制ではなく空いていれば随時使える運用にしていて、湯田川源泉を独占できる時間が確保される。夕食は九兵衛の料理長系譜を引く献立を、こちらも個室で組む。14:00 チェックイン・11:00 アウトの遅めタイムラインは、湯に長く浸かるための設計。
集約レビューの傾向
集約レビューは客室の静けさと湯の独占感、料理の完成度を三本柱として拾える。九兵衛と比べて部屋数がさらに絞られている分、宿主との距離が近いという感想が繰り返される傾向がある。特別な日を静かに過ごしたい層からの支持が厚く、一人旅の受け入れにも柔軟な運営姿勢が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
湯を独占したいカップル、料理と湯の両方に時間を割く一人旅、大人数の団体客と距離を置きたい滞在 -
向かない:
多世代・大家族での宿泊、洋室主体の滞在を望む旅、湯田川以外の観光地に頻繁に出る旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約 15 分
- 客室数: 8室(全室禁煙)
- チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 朝夕個室会席、九兵衛の料理長系譜
- 温泉: 湯田川源泉かけ流し、貸切風呂 3
3. 湯どの庵 — 鶴岡・湯田川温泉
インテリアデザイナー故・岩倉榮利設計、2025 年夏にアル・ケッチァーノがオーベルジュとして再稼働。
Media Picks Score: 93 / 100 14室、オーベルジュ「風呂夢」(2025 年 7 月 24 日リブランド開業)。

なぜ選ばれるか
2001 年、インテリアデザイナー岩倉榮利の設計で改築された「湯どの庵」を、庄内の在来野菜を軸に据えた奥田政行率いるアル・ケッチァーノが 2025 年 7 月に譲受、オーベルジュ「風呂夢」として再稼働した。木の台座に布団を敷く独特の意匠、大正時代の面影を残す空間はそのまま、料理と器を全面的にアル・ケッチァーノ流に切り替えている。庄内の食と現代デザインの両方を軸にした滞在を組みたい層に、まず候補として挙げたい 1 軒。
集約レビューの傾向
リブランド前の集約レビューは、意匠と部屋の造作、湯田川源泉の湯質を軸に評価が集まっていた。書道家・海老原露巌の書と、プロヴァイオリン奏者・大迫淳英の作曲による館内音楽を新オーナーが加えており、視覚と聴覚に手を入れた再定義が進んでいる。奥田カラーの入り方が滞在体験にどう反映されるかは、稼働後の集約データが揃うのを待つ段階。
向く人 / 向かない人
-
向く:
現代デザインと在来野菜のガストロノミーを軸に組む滞在、アル・ケッチァーノの本店とセットで庄内を歩きたい旅、アートと食を同じ軸で組む記念日 -
向かない:
伝統的な会席の様式を絶対視する滞在、湯治型の連泊で静けさを最優先にする旅、幼児連れの家族利用
具体情報
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約 15 分
- 客室数: 14室
- 設計: 岩倉榮利(2001 年改築、意匠を継承)
- 運営: アル・ケッチァーノ(2025 年 7 月 24 日、オーベルジュ「風呂夢」として再稼働)
- 食事: 庄内在来野菜を軸としたイタリア料理(奥田政行監修)
4. タカミヤ 湯の浜テラス 西洋茶寮 — 鶴岡・湯野浜温泉
湯野浜の丘に建つ、庄内では希少な 9 室のみのオーベルジュ。
Media Picks Score: 89 / 100 9室、オーベルジュ(2006 年開業)。

なぜ選ばれるか
名湯一門高見屋グループが 2006 年に湯野浜海岸を見下ろす丘に開いた、庄内では希少なオーベルジュ。9 室すべてが日本海を望み、夕食はイタリアン/フレンチのコースを主軸にする和洋折衷の設計。共用部にはクラシック風呂、ジャクジー、岩盤浴を配し、湯野浜源泉と現代的な浴設備を並列に置く構成。20 年近くを経ても客室規模を増やさず 9 室に留めている運営姿勢が、記事のテーマである小規模高級旅館の系譜に合致する。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、日本海に沈む夕陽への評価、コース料理の完成度、部屋数を絞ったことで得られる静けさが繰り返し立ち上がる。湯野浜温泉の他の旅館と比べて、洋の空間演出を軸に据えている点が独自軸として評価されている。デザイン・食を軸に組む夫婦旅の受け皿として、湯野浜での差別化ポジションを確立している像が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
洋のガストロノミーと温泉の両方を軸に組む夫婦旅、日本海に沈む夕陽を目的にした滞在、9 室規模の距離感を求める滞在 -
向かない:
伝統的な会席料理を最優先にする滞在、大浴場の規模感を重視する旅、3 名以上の同室利用
具体情報
- 最寄り駅: JR鶴岡駅・庄内空港からアクセス(鶴岡駅から庄内交通バス湯野浜温泉方面利用可)
- 客室数: 9室(全室オーシャンビュー)
- 開業: 2006 年(名湯一門高見屋グループ)
- 食事: イタリアン/フレンチコース(夕食)
- 温泉・共用: 湯野浜源泉、クラシック風呂・ジャクジー・岩盤浴
5. 愉海亭みやじま — 鶴岡・湯野浜温泉
湯野浜で唯一、波打ち際に海に浮かぶように建つ 28 室の旅館。
Media Picks Score: 94 / 100 28室、旅館(全室オーシャンビュー、源泉かけ流し)。

なぜ選ばれるか
湯野浜温泉のなかで唯一、波打ち際に建ち海に浮かぶような立地。屋上に 180 度パノラマの展望大露天風呂を持ち、大浴場は水平線までまっすぐ海を望む構成。全 28 室がオーシャンビューで、客室ユニットバスまで湯野浜源泉 100% かけ流し。「山形県で一番 夕日に近い宿」を公式に掲げる立地の強さは、庄内でも代替が効かない。
集約レビューの傾向
2,000 件を超える集約レビューは、夕陽と海の眺望、屋上大露天からの日没体験、そして海鮮を軸とした夕食への評価が支配的。老舗として長期にわたる高い評価を維持しており、大人数の受け入れ規模を持ちながら平均 4.4 台後半を保っている点は、運営の分厚さを示している。海の眺望を「体験の主役」に置きたい層への安定した選択肢。
向く人 / 向かない人
-
向く:
日本海に沈む夕陽を体験の中心に据える滞在、屋上大露天を目当てにした宿泊、3 世代の家族旅で会食を伴う旅程 -
向かない:
10 室以下の隠れ宿を求める滞在、湯治型の連泊で静けさを絶対視する旅、洋室主体の滞在を望む旅
具体情報
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約 25 分(庄内空港から車で約 20 分)
- 客室数: 28室(全室オーシャンビュー、和・洋・和洋の 3 タイプ)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 温泉: 湯野浜源泉かけ流し(屋上展望大露天・水平線を望む大浴場・客室ユニットバスまで源泉)
- 食事: 庄内浜の海鮮を軸とした会席
6. ホテル八乙女 — 鶴岡・由良温泉
白山島と朱塗りの橋を正面に、日本の夕陽百選・由良海岸を象徴する海辺の旅館。
Media Picks Score: 87 / 100 59室、旅館(自家源泉、和室・洋室・和洋室 併設)。

なぜ選ばれるか
由良海岸を象徴する白山島と朱塗りの橋を正面に望む、日本海側に立つ由良温泉の代表格。日本の夕陽百選・日本の渚百選・快水浴場 88 選に選ばれた海岸線と、地下から湧く自家源泉「遊楽源泉」を軸に、庄内浜の海鮮を膳に組む。59 室と本記事のなかでは最大規模だが、由良においては小規模高級旅館の候補が限定的であり、白山島の眺望を宿から取り込む点で他に代替の効かない立地を持っている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、白山島の眺望、日没時の景色、庄内浜の海鮮を核とした夕食への評価が支配的。1,700 件を超える集約レビュー数は由良温泉のなかで突出しており、大規模運営を維持しながら景観の一貫性を保っている像が読み取れる。眺望を優先する層と、庄内の海の幸を主目的に据える層の 2 軸で支持が集まる傾向がある。
向く人 / 向かない人
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向く:
白山島と夕陽を宿から体験したい滞在、庄内浜の海鮮を軸にした食事、鶴岡・酒田を巡る観光の拠点として使う旅 -
向かない:
10 室規模の隠れ宿的な静けさを最優先にする滞在、湯田川のような集落型温泉地を歩きたい旅、洋のガストロノミー主体の食を望む旅
具体情報
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約 25 分(庄内空港から車で約 30 分)
- 客室数: 59室(和室・洋室・和洋室)
- 眺望: 白山島・朱塗り橋、日本の夕陽百選・日本の渚百選・快水浴場 88 選
- 温泉: 自家源泉「遊楽源泉」、展望大浴場・露天風呂
- 食事: 庄内浜海鮮の会席
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 庄内の食材暦を軸に見ると、6 月末〜 8 月の岩牡蠣期と、1 月〜 2 月の寒鱈期が二大ハイシーズン。編集部が推す時期は、岩牡蠣・孟宗の名残り・だだちゃ豆の初期が重なる 7 月中旬〜下旬、および寒鱈のどんがら汁が最も膳に乗る 1 月下旬〜 2 月上旬。夕陽の視認率が高いのは春秋の乾いた季節。
Q. 予約のタイミングは?
A. 湯田川の九兵衛・珠玉やは 8 室・13 室の小規模で、盛夏・年末年始・GW は 2〜3 ヶ月前に埋まる傾向がある。湯どの庵は 2025 年 7 月にリブランドで再稼働したため、当面は稼働状況をこまめに確認するとよい。湯野浜・由良は大型連休を除けば 1 ヶ月前でも取れる週末が残ることが多い。
Q. 交通アクセスは?
A. 玄関口は JR 鶴岡駅(羽越本線・山形新幹線+いなほで東京から約 4 時間)と庄内空港(羽田から 1 時間)。湯田川・湯野浜・由良のいずれも駅・空港から車で 15〜40 分の圏内で、レンタカーがあると 3 温泉を連泊で回れる。列車主体なら鶴岡駅から路線バスとタクシーの併用。
Q. 一人旅の受け入れは?
A. 湯田川の 3 軒(九兵衛・珠玉や・湯どの庵)は歴史的に一人旅を積極的に受け入れており、個室会席の設計上、他の宿泊客と食卓を共有しない運用ができる。湯野浜・由良の宿は 2 名利用が中心のため、一人旅料金の設定と部屋タイプは公式サイトで事前確認を推奨。
Q. インバウンド客の利用は?
A. 庄内エリアは羽黒山・月山・湯殿山の出羽三山文化とセットで訪日リピーター層に浸透しつつあるが、湯田川の 3 軒は英語対応の可否に個別差がある。ホテル八乙女・愉海亭みやじまは規模が大きい分、多言語対応の運用に余裕がある傾向。インバウンドの単独旅で選ぶなら、湯野浜・由良側の宿を軸に、湯田川は昼の温泉集落散策で組み合わせる旅程が組みやすい。
本記事の参考情報
・つるおか観光ナビ — 鶴岡市の観光公式情報
・やまがたへの旅(山形県公式観光サイト) — 庄内地方の広域情報
・由良温泉観光協会 — 由良温泉・白山島の詳細
編集部から
庄内は「北前船の港・出羽三山の門前・鳥海と月山の伏流水」という三つの与件が同じ市内で交わる稀有な土地で、それが宿の性格として湯田川・湯野浜・由良の三点に落ち着いている。湯田川は集落型で 8〜14 室の会席と源泉かけ流し、湯野浜は日本海に沈む夕陽を主役に置いた大型・小型が並存、由良は白山島の眺望を宿から取り込む。同じ庄内で、三つの温泉地はいずれも別種の滞在体験を差し出す。次に読むなら、庄内の在来野菜と食のガストロノミー、あるいは出羽三山の宿坊系譜を組んだ稿を予定している。