鳥海山を北に、日本海を西に置いた庄内の平野には、性格の異なる三つの湯がある。城下・鶴岡の奥座敷として酒井家の湯治場だった内陸の湯田川、砂丘の際で夕日に向かって湯を張る湯野浜、そして北前船の記憶を残す由良の漁港。この稿では、その庄内三湯の系譜を背に、室数二十以下を基本に選んだ高級旅館 5軒を取り上げる。出羽三山の門前という土地柄、料理長が引くのは岩牡蠣や寒鱈の暦であり、膳の中心はいつも庄内の地物である。盛夏なら、旬を迎えた岩牡蠣がその指標になる。

# 旅館 エリア Score 客室 目安価格 1行特徴
1 九兵衛旅館 湯田川温泉 93 13 ¥52–70k 源泉かけ流しと個室食、湯田川の料理旅館
2 珠玉や 湯田川温泉 92 8 ¥45–55k 三つの貸切風呂を持つ全8室の古民家旅館
3 海辺のお宿一久 湯野浜温泉 89 19 ¥48–66k 全室オーシャンビュー、夕日百選の海に向く宿
4 愉海亭みやじま 湯野浜温泉 88 28 ¥44–57k 波打ち際に建ち、屋上に展望大露天を持つ
5 つかさや旅館 湯田川温泉 87 10 ¥40–58k 江戸期から続く十代の宿、山伏ポークと孟宗の膳
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 九兵衛旅館 — 鶴岡・湯田川温泉

開湯千三百年の古湯に、全13室。源泉かけ流しと個室の膳を軸に据えた、湯田川で編集部が真っ先に名を挙げる料理旅館。

Media Picks Score: 93 / 100  13室、料理旅館。

目安価格 ¥52,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)


九兵衛旅館 — 鶴岡・湯田川温泉 · 開湯千三百年の源泉かけ流しを持つ全13室の料理旅館
PHOTO: 九兵衛旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

白鷺が傷を癒したという伝承を持つ湯田川の湯を、加水も循環もなく源泉のまま引く。理由の一つはこの湯の扱いにある。二つ目は、朝夕とも個室で供する庄内の膳で、孟宗の筍から寒鱈まで、暦のものを主役に据える設計が通っている。三つ目は全13室という規模。手が届く距離に運営が保たれ、静けさが崩れない。派手な演出ではなく、湯と食と間合いで押す一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、湯の質と料理への評価が高い水準で揃うのが特徴と言える。特に個室での夕食と、地の食材を丁寧に扱う献立への言及が繰り返し見られる。規模の小ささゆえの目配りを支持する声も多い。一方で、館は現代的な大型施設とは性格が異なり、簡素を旨とする構えである点は、事前に理解しておきたいところだと感じられる。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 湯と食を旅の中心に置く二人旅、記念日、庄内の食材と源泉かけ流しを静かに味わいたい人
  • 向かない: 大浴場の規模や館内施設の多さを求める旅程、繁華な温泉街の賑わいを期待する滞在

具体情報

  • 立地: JR鶴岡駅から車で約15分(路線バス約25分)、庄内空港から車で約30分
  • 客室: 全13室・禁煙
  • 湯: 湯田川温泉、源泉かけ流し(露天・貸切風呂あり)
  • 食事: 朝食・夕食ともに個室、庄内の地物を主にした献立
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00


2. 珠玉や — 鶴岡・湯田川温泉

古民家の間取りを残した全8室に、貸切風呂を三つ。九兵衛の別館でありながら、湯田川でもっとも私的な時間を組める一軒。

Media Picks Score: 92 / 100  8室、旅館。

目安価格 ¥45,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)


珠玉や — 鶴岡・湯田川温泉 · 三つの貸切風呂を備えた全8室の古民家旅館
PHOTO: 珠玉や — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

同じ湯田川の湯を引きながら、本館の九兵衛とは性格を分けている点をまず推したい。八室という最小規模に、無料の貸切風呂を三つ設け、源泉かけ流しの湯を人目を気にせず使える設計にした。二つ目は古民家の風情を残した室内で、ぬくもりのある間取りが小さな宿の距離感と噛み合う。三つ目は食事をダイニングでまとめる構成で、少数だからこそ供せる密度がある。本館と別館、対照的な二軒を同じ谷で選べること自体が、この宿を推す理由になる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、貸切風呂を核とした過ごし方への満足と、少室数ならではの静けさへの評価が目立つ。料理の質を本館と同等の水準で語る声も見られる。プライベート性を重んじる滞在に向く一方、大浴場での湯めぐりを主目的とする人には、貸切中心という設計が合うかどうかを先に見極めておきたいと感じられる。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 貸切風呂で人目を避けたい二人旅、古民家の設えを好む人、静けさを最優先する滞在
  • 向かない: 広い大浴場や露天の開放感を求める旅程、館内施設の充実を重視する滞在

具体情報

  • 立地: JR鶴岡駅から車で約15分、九兵衛旅館の別館として湯田川温泉内に位置
  • 客室: 全8室・禁煙
  • 湯: 三つの無料貸切風呂、源泉かけ流し
  • 食事: ダイニングにて庄内の食材を用いた料理
  • チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜11:00


3. 海辺のお宿一久 — 鶴岡・湯野浜温泉

1943年創業、全19室すべてが日本海を向く。夕日百選の海に正対して湯を張る、湯野浜の海際の宿。

Media Picks Score: 89 / 100  19室、旅館。

目安価格 ¥48,000–¥66,000 / 泊 (2名1室・通常期)


海辺のお宿一久 — 鶴岡・湯野浜温泉 · 全室オーシャンビュー、日本海の夕日に面した19室の宿
PHOTO: 海辺のお宿一久 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯田川の内陸に対し、こちらは海に振り切った一軒である。まず全19室すべてが日本海を向き、夕日百選に数えられる湯野浜の落日に正対する構えを持つ。二つ目は湯で、湯野浜の源泉を100%かけ流しにし、海の匂いのなかで露天に浸かれる。三つ目は膳の地物で、庄内沖の海の幸を軸に据える。大型施設が並ぶ湯野浜のなかで、規模を抑えて海との距離だけで勝負する姿勢が、この宿を選ぶ理由になる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、全室から望む海と夕日への評価が突出して高い。海を望む露天と、庄内沖の魚を用いた料理への言及も多く見られる。裸足でくつろげる館の空気を支持する声もある。海辺という立地ゆえ、季節や天候で海の表情が大きく変わる点は、静穏な湖畔的滞在を求める人にとっては留意点になると感じられる。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 海と夕日を旅の主題にしたい人、庄内沖の魚を味わいたい旅、砂丘と海辺の散策を楽しむ滞在
  • 向かない: 山あいの静けさを求める旅程、大規模な温泉テーマ施設を望む滞在

具体情報

  • 立地: JR鶴岡駅から車で約20分、庄内空港から車で約15分、湯野浜温泉の海側
  • 客室: 全19室・全室オーシャンビュー
  • 湯: 湯野浜温泉、源泉100%かけ流し、海を望む露天
  • 食事: 庄内沖の海の幸を中心とした料理
  • 創業: 1943年(昭和18年)


4. 愉海亭みやじま — 鶴岡・湯野浜温泉

波打ち際に、海へ張り出すように建つ。屋上の180度パノラマ大露天から、日本海に沈む夕日に浸かれる一軒。

Media Picks Score: 88 / 100  28室、旅館。

目安価格 ¥44,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)


愉海亭みやじま — 鶴岡・湯野浜温泉 · 波打ち際に建ち屋上に展望大露天を持つ28室の宿
PHOTO: 愉海亭みやじま — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯野浜のなかでも、波打ち際に建つ立地が際立つ一軒である。まず屋上に設けた180度の展望大露天が核で、日本海に沈む夕日を眺めながら湯に浸かる時間を用意している。二つ目は全室オーシャンビューという徹底で、客室のユニットバスまで源泉100%かけ流しにする。三つ目は膳で、庄内産と日本海庄内沖の海の幸、山形牛を季節に合わせて組む。「夕日にもっとも近い宿」を掲げるだけの立地の強さが、選定の決め手になる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、屋上大露天からの眺望と、海に沈む夕日への評価が高く揃う。全室オーシャンビューという設計への満足も明確に見て取れる。料理の季節感を挙げる声も多い。二十八室と本稿のなかでは規模がやや大きく、静寂を最優先する滞在では、時間帯によって共用部の賑わいを感じる場面もある点は見込んでおきたいところである。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 屋上露天と夕日を目的にした旅、海の眺望を最優先する滞在、山形牛と海の幸を両方味わいたい人
  • 向かない: 極小規模の宿にこだわる旅程、山あいの湯治的な静けさを求める滞在

具体情報

  • 立地: JR鶴岡駅から車で約20分、庄内空港から車で約15分、湯野浜の波打ち際
  • 客室: 全28室・全室オーシャンビュー
  • 湯: 屋上に180度パノラマの展望大露天、客室のユニットバスも源泉100%かけ流し
  • 食事: 庄内産・日本海庄内沖の海の幸、山形牛を用いた季節の料理
  • 特徴: 湯野浜で唯一、海に浮かぶように建つ波打ち際の立地


5. つかさや旅館 — 鶴岡・湯田川温泉

江戸期から宿を営み、当代で十代目。湯田川の伝統野菜と山伏ポーク、日本海の魚を膳に引く全10室の老舗。

Media Picks Score: 87 / 100  10室、旅館。

目安価格 ¥40,000–¥58,000 / 泊 (2名1室・通常期)


つかさや旅館 — 鶴岡・湯田川温泉 · 江戸期から続く老舗、山伏ポークと孟宗の郷土料理を供する宿
PHOTO: つかさや旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

江戸時代から続き、当代で十代を数える。この時間の厚みがまず選定の背景にある。二つ目は膳の設計で、湯田川に伝わる伝統野菜を中心に、日本海の魚と地の山伏ポークを組み合わせ、朝食には湯田川産のつや姫を炊きたてで出す。土地の食材を素直に並べる姿勢が一貫している。三つ目は全10室という規模と貸切風呂で、老舗でありながら気負いのない距離感を保つ。湯田川の古湯を、構えすぎずに味わいたい人に向く一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、郷土色のある料理と、地の米・野菜を用いた朝食への評価が安定して高い。老舗ながら肩肘の張らない接遇を挙げる声も多く見られる。館は歴史ある建物ゆえ、最新設備の充実を第一に求める滞在よりも、土地の食と湯を素直に楽しむ旅程に向くと感じられる。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 郷土料理と地の米を楽しみたい旅、老舗の空気を好む人、構えすぎない湯田川の滞在
  • 向かない: 新築同様の設備を重視する旅程、広い大浴場や多彩な館内施設を求める滞在

具体情報

  • 立地: JR鶴岡駅から車で約15分(路線バス約25分)、湯田川温泉内
  • 客室: 全10室
  • 湯: 湯田川温泉、貸切風呂あり
  • 食事: 夕食は湯田川の伝統野菜・日本海の魚・山伏ポーク、朝食は湯田川産つや姫
  • 歴史: 江戸期創業、当代で十代目


よくある質問

Q. 訪れるならどの季節が良いですか?

A. 庄内は食の暦がはっきりした土地である。編集部が推す時季の一つは盛夏で、由良や鼠ヶ関で揚がる岩牡蠣が膳に載る。冬は寒鱈(どんがら汁)と雪見の湯、春は孟宗の筍と、季節ごとに主役が入れ替わる。海の眺めを軸にするなら夕日の伸びる初夏から秋が、雪見と鍋を目当てにするなら厳冬期が向く。

Q. 予約はどのくらい前に取るべきですか?

A. いずれも室数が10〜28室と小さく、休前日や連休、夕日の美しい季節の週末は早くから埋まりやすい。目安として1〜2か月前を一つの基準としたい。岩牡蠣や寒鱈など食材が主題になる時季は、料理付きプランから先に満室となる傾向がある。

Q. 湯田川温泉と湯野浜温泉は、どう選び分ければよいですか?

A. 内陸の湯田川は、城下・鶴岡の奥座敷にあたる静かな谷で、貸切風呂と山の膳、源泉かけ流しが主題になる。海際の湯野浜は、砂丘の際で全室オーシャンビューと夕日を楽しむ滞在に向く。静けさと料理なら湯田川、海と眺望なら湯野浜、と土地の性格で選ぶのが分かりやすい。

Q. アクセスはどうなりますか?

A. 玄関口はJR鶴岡駅と庄内空港。湯田川温泉へは鶴岡駅から車で約15分、湯野浜温泉へは約20分。庄内空港からは湯野浜が車で約15分と近く、湯田川へも約30分でつく。羽田からの空路と、上越新幹線・特急いなほ経由の鉄路のいずれからも入れる。

Q. 一人でも泊まれますか?

A. 小規模宿が中心のため、一人泊の受け入れは時季やプランにより異なる。源泉かけ流しと料理を静かに味わう一人旅には湯田川の各館が向くが、可否と料金は各宿の公式サイトで確認したい。

本記事の参考情報

つるおか観光ナビ(鶴岡市観光連盟) — 湯田川・湯野浜・由良など鶴岡エリアの観光情報
Wikipedia: 湯田川温泉 — 開湯伝承と庄内藩の湯治場としての歴史
Wikipedia: 湯野浜温泉 — 日本海に面した砂丘の温泉地の地理と歴史

編集部から

庄内三湯を一度に語ろうとすると、性格の違いがかえって際立つ。内陸・湯田川の貸切風呂と山の膳、海際・湯野浜の全室オーシャンビューと夕日。そして、この稿では宿の主役にはならなかったが、北前船の記憶を残す由良の漁港が、盛夏の岩牡蠣という形で膳に顔を出す。鳥海山と日本海のあいだという庄内の地勢は、海と山の両方に手を伸ばせる位置にあり、その恵みがそのまま料理長の暦になる。5軒に通底するのは、規模を追わず、湯と地物で押すという選択だと言える。次に庄内を旅するなら、あなたは山の湯と海の湯、どちらから入るだろうか。

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