加賀温泉郷の三つの湯の街——山代・山中・片山津は、いずれも「総湯」と呼ぶ共同湯を中心に据えて成り立ってきた。山代は明治の湯屋を復元した二層の古総湯、山中は男湯女湯を対に建てる菊の湯、片山津は谷口吉生が柴山潟の水辺へ張り出させた総湯。共同湯を核に宿が周囲へ広がる「湯の街」の構造を、総湯建築と、その周りに湯屋を持つ宿5軒で地図の上に読み直す。盛夏の北陸、湯を街の中心へ置くという型を、建築の側から辿る旅である。
| # | 宿 | 湯の街 | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | あらや滔々庵 | 山代温泉 | 93 | 18 | ¥120–¥189k | 古総湯の目の前、湯の曲輪に建つ十八室の老舗 |
| 2 | 湖畔の宿 森本 | 片山津温泉 | 91 | 28 | ¥51–¥68k | 谷口吉生の総湯を望む柴山潟の水辺、全室湖側 |
| 3 | たちばな四季亭 | 山代温泉 | 88 | 20 | ¥84–¥126k | 明治元年創業、全館の床が桐無垢の数寄屋 |
| 4 | 花紫 | 山中温泉 | 87 | 27 | — | 鶴仙渓のほとり、円相の暖簾が迎える二十七室 |
| 5 | かがり吉祥亭 | 山中温泉 | 86 | 48 | ¥50–¥71k | こおろぎ橋にほど近い、渓谷沿いの露天を持つ湯宿 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。花紫は集計値の幅が大きいため参考価格の表示を控えています。
1. あらや滔々庵 — 加賀市 山代温泉
山代の湯の曲輪、古総湯の真向かいに十八室。共同湯を核に街が編まれた構図を、最も近くで読める一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 18室、旅館。
目安価格 ¥120,000–¥189,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
山代温泉は明治の湯屋を復元した二層の「古総湯」を中心に、円環状の「湯の曲輪」を宿と商家が囲む。あらや滔々庵はその曲輪に面して建ち、街の骨格そのものに客室を差し込む位置にある。開湯以来の湯を三つの浴場に引き、うち二つは自家源泉。大正期に北大路魯山人が長逗留し、器と書を残した宿としても知られる。総湯を街の中心へ据える北陸の型を、建築の側から確かめられる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、湯量と泉質、そして曲輪という立地への評価が一貫して高い。数寄屋の設えと器の格を静かに支持する声が目立つ一方、価格帯は明確に上位で、日常の延長ではなく機会を選ぶ滞在として語られる傾向が読み取れる。
向く人 / 向かない人
- 向く: 記念日やハレの滞在、温泉街の構造を歩いて確かめたい旅、器と美術に関心のある大人二人
- 向かない: 価格を抑えたい旅程、大浴場の規模や派手な演出を求める滞在、幼児連れで段差を避けたい家族
具体情報
- 最寄り駅: JR加賀温泉駅から車で約10分
- 客室数: 18室(湯の曲輪に面する)
- 温泉: 3つの浴場、うち2つが自家源泉
- 立地: 山代温泉『古総湯』の真向かい/湯の曲輪
- 縁の人物: 大正期に北大路魯山人が逗留
2. 湖畔の宿 森本 — 加賀市 片山津温泉
柴山潟の水際に建ち、谷口吉生設計の総湯を対岸に望む。湖と共同湯を一枚の風景として読む宿。
Media Picks Score: 91 / 100 28室、旅館。
目安価格 ¥51,000–¥68,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
片山津温泉の総湯は、谷口吉生の設計で2012年に開いた。柴山潟の水面へガラスの箱を張り出させ、浴室から湖と空をそのまま切り取る現代の湯屋建築である。湖畔の宿 森本は創業明治25年、その潟の水際に建ち、全室を湖側へ向ける。客室の露天には九谷の藍を写したような濃紺の湯船が据えられ、朝夕で七度色を変えるという柴山潟と白山を同じ視界に収める。共同湯と宿が、湖という一枚の面を共有する構図がここにある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、柴山潟に開いた眺望と客室露天への評価が突出する。白山を望む立地と静けさを支持する声が多く、料理では加賀の魚介への評価が安定している。潟に面する分、天候によって表情が大きく変わる点は滞在前提として受け止められている。
向く人 / 向かない人
- 向く: 水辺の眺望を主目的にする旅、客室露天でこもりたい二人、現代建築の総湯に足を運びたい人
- 向かない: 温泉街の賑わいや街歩きを重視する旅程、山あいの静寂を求める滞在、眺望より歴史的意匠を優先する人
具体情報
- 最寄り駅: JR加賀温泉駅から車で約10分
- 客室数: 28室(全室が柴山潟側)
- 創業: 明治25年(1892年)
- 眺望: 柴山潟越しに白山を望む
- 近隣の建築: 谷口吉生設計『片山津温泉総湯』(2012年)を対岸に
3. たちばな四季亭 — 加賀市 山代温泉
明治元年創業、湯の曲輪に建つ二十室。全館の床を桐の無垢で通した、素足のための数寄屋。
Media Picks Score: 88 / 100 20室、旅館。
目安価格 ¥84,000–¥126,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
たちばな四季亭は、あらや滔々庵と同じく山代の湯の曲輪に面して建つ、明治元年創業の宿である。特色は全館の床を天然無垢の桐で通したこと——玄関から客室、廊下に至るまで素足で歩ける柔らかな踏み心地を、建物全体の設計思想に据えている。薬王院や服部神社の四季を借景に取り込む客室は数寄屋の系譜にあり、湯は1300年湧き続ける山代の源泉から引く。古総湯を核とする曲輪の構造を、あらやとは異なる素材の側から体験できる一軒だ。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、桐の床の感触と館内の静けさ、数寄屋の設えへの評価が高い。曲輪という中心的立地と、月替わりの懐石への支持が安定している。規模を抑えた宿ゆえの落ち着きが繰り返し語られる一方、賑やかさを求める滞在には向かないという見方も見られる。
向く人 / 向かない人
- 向く: 素足で過ごす和の設えを味わいたい旅、静けさを優先する二人、山代の街を歩いて回りたい人
- 向かない: 大規模な湯めぐりや館内施設の多さを求める滞在、価格を抑えたい旅程、洋室中心を望む人
具体情報
- 最寄り駅: JR加賀温泉駅から車で約10分
- 客室数: 20室
- 創業: 明治元年(1868年)
- 特色: 全館の床が天然無垢の桐敷き
- 立地: 山代温泉の湯の曲輪に面する
4. 花紫 — 加賀市 山中温泉
鶴仙渓のほとり、円相を染めた暖簾が迎える二十七室。山中の総湯・菊の湯へ歩いて向かえる宿。
Media Picks Score: 87 / 100 27室、旅館。

なぜ選ばれるか
山中温泉の総湯『菊の湯』は、男湯と女湯を道を挟んで対に建てる珍しい構えを持つ。女湯棟の二階には芸能の舞台『山中座』が載り、共同湯が街の文化装置を兼ねる。花紫はその菊の湯から歩いて向かえる距離、鶴仙渓に沿って建つ二十七室の数寄屋風の宿である。円相を白く染め抜いた暖簾と、渓谷へ開く客室が特徴で、約50種から選ぶアラカルト懐石を供する。共同湯を街の中心に据える山中の構図を、渓のほとりから確かめられる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、鶴仙渓の眺めと客室の設え、献立を選べる食の自由度への評価が高い。落ち着いた接客と静けさを支持する声が多く、規模を抑えた宿としての満足が語られる。渓谷沿いゆえ客室により眺望差がある点は、滞在の前提として受け止められている。
向く人 / 向かない人
- 向く: 渓谷の眺めと静けさを求める二人、食の選択肢を重視する旅、山中の総湯まで歩きたい人
- 向かない: 大浴場の規模を重視する滞在、街なかの利便を優先する旅程、幼児連れで広い動線を求める家族
具体情報
- 最寄り駅: JR加賀温泉駅から車で約20分
- 客室数: 27室
- 立地: 鶴仙渓のほとり/総湯『菊の湯』へ徒歩圏
- 食事: 約50種から選ぶアラカルト懐石
- 近隣の建築: 男湯女湯を対に建てる総湯『菊の湯』
5. かがり吉祥亭 — 加賀市 山中温泉
こおろぎ橋にほど近い渓谷沿いの四十八室。鶴仙渓の水音を露天で聞く、山中の湯宿。
Media Picks Score: 86 / 100 48室、旅館。
目安価格 ¥50,000–¥71,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
かがり吉祥亭は、山中温泉の名勝・こおろぎ橋にほど近いこおろぎ町に建つ、48室の湯宿である。鶴仙渓の渓流沿いに露天を配し、渓谷美と水音を湯から味わう構えを持つ。総湯『菊の湯』を中心に、あやとりはし・こおろぎ橋・鶴仙渓遊歩道が渓に沿って点在する山中の街を、渓側から歩き始めるのに向いた位置にある。三湯のなかでは規模を持ちつつ、渓谷という自然の骨格に沿って湯を配置した一軒だ。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、渓谷沿いの露天と料理、こおろぎ橋への近さへの評価が高い。加賀の魚介や地の食材への満足が安定し、家族や複数人での滞在にも向くという見方が多い。規模のある宿ゆえの動線や賑わいは、静寂最優先の旅には合わないという声も見られる。
向く人 / 向かない人
- 向く: 渓谷沿いの露天を求める旅、こおろぎ橋や遊歩道を歩きたい人、複数人・家族での滞在
- 向かない: 極小規模の静けさを求める二人、湯の曲輪のような街の中心に泊まりたい人、眺望より意匠を優先する滞在
具体情報
- 最寄り駅: JR加賀温泉駅から車で約20分
- 客室数: 48室
- 立地: こおろぎ橋にほど近いこおろぎ町/鶴仙渓沿い
- 温泉: 鶴仙渓を望む渓谷沿いの露天
- 周辺: あやとりはし・鶴仙渓遊歩道が徒歩圏
よくある質問
Q. 三湯の「総湯」はそれぞれどう違いますか?
A. 山代の古総湯は明治の湯屋を復元した二層建築で、九谷焼のタイルとステンドグラスが特徴です。山中の菊の湯は男湯と女湯を道を挟んで対に建て、女湯棟の二階に舞台『山中座』を載せます。片山津の総湯は谷口吉生の設計で2012年開業、柴山潟の水面へ張り出すガラス建築です。いずれも宿泊者以外も利用できる共同湯で、街の中心に据えられています。
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 加賀温泉郷は通年で楽しめますが、編集部が推すのは新緑から盛夏にかけての時期です。山中の鶴仙渓や片山津の柴山潟は水景が最も冴え、日没の色も長く残ります。冬は蟹を目当てにした滞在が中心となり、価格帯も上がる傾向があります。
Q. 予約のタイミングは?
A. 小規模の宿ほど週末と連休が早く埋まります。あらや滔々庵やたちばな四季亭のような二十室前後の宿は、記念日利用が集中する時期は数か月前から動きます。蟹シーズンの冬も同様に早めの計画が向きます。
Q. アクセスは?
A. 北陸新幹線・JR加賀温泉駅が三湯共通の玄関口です。山代温泉・片山津温泉へは車で約10分、山中温泉へは約20分。多くの宿が駅からの送迎に対応します。金沢駅からはJRで約25〜30分です。
Q. 三湯を1泊でどこまで回れますか?
A. 宿泊は1か所でも、日中の湯めぐりで三湯の総湯を巡ることは可能です。山代・片山津は近接し、山中は渓谷側にやや離れます。地図で位置関係を掴んでから、拠点とする湯の街を決めると動きやすくなります。
本記事の参考情報
・加賀温泉郷 公式観光サイト(TABIMATI) — 三湯のエリア情報
・Wikipedia: 加賀温泉郷 — 三湯の歴史と地理の背景
・加賀市 — 行政・地域情報
編集部から
五軒に通底するのは、湯を街の中心へ据えるという北陸の温泉町の型である。山代は古総湯を囲む求心的な曲輪、片山津は柴山潟の水辺、山中は鶴仙渓の渓谷——共同湯の据え方が、そのまま街の骨格と宿の配置を決めてきた。総湯という一点を地図に置き、そこから宿を線で結ぶと、三つの湯の街がそれぞれ別の設計思想で「湯の街」を成立させていることが見えてくる。次は、共同湯を持つ別の温泉地——別府・鉄輪の地獄と湯けむり、あるいは野沢温泉の十三の外湯を、同じ視点で地図に重ねてみたい。あなたの街の湯は、どこを中心に据えているだろうか。