白馬村の中心である八方・和田野を離れ、小谷村から大町市までの北安曇野で北アルプスと向き合う宿として、編集部が選んだ 5 軒を紹介します。稜線を窓で切り取る宿、姫川の対岸から引きで眺める宿、山の形を屋根に写した宿、山の石を浴場に持ち込んだ宿。同じ山並みでも、建物の側の受け止め方は一つではありません。八方尾根の麓に並ぶデザイン宿は既報の 5 軒で扱いました。本稿はその外側、雪が来る前の十月から十一月上旬に訪ねたい範囲を、地図とともに南北に辿ります。設計者が公表されている宿は 2 軒のみで、その点も含めて書きます。
| # | ホテル | エリア | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 雨飾荘 | 小谷村・小谷温泉 | 13 | ¥44k–¥53k | 標高900m、雨飾山麓。窓の向きで山側と森側を選ぶ13室 |
| 2 | ホテル ラ ヴィーニュ 白馬 by 温故知新 | 白馬村・エコーランド | 38 | ¥74k–¥115k | 全38室を角部屋に割り、二面の窓で山を受ける2024年開業棟 |
| 3 | 白馬ハイランドホテル | 白馬村・白馬駅東の高台 | 74 | ¥23k–¥31k | 姫川の東岸から稜線全体を引きで見る、村内唯一の6階建て |
| 4 | 黒部観光ホテル | 大町市・大町温泉郷 | 89 | ¥18k–¥24k | 橙色の急勾配屋根。蛇紋岩の浴場に北アルプスの石を持ち込む |
| 5 | KANOLLY Resorts HAKUBA | 白馬村・みそら野 | 1棟 | ¥350k–¥456k | 白馬三山を三つの切妻に写した一棟。GENETO設計、1日1組 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。宿ごとに最も安い販売プランを基準としているため、食事条件は宿によって異なります。KANOLLY Resorts HAKUBA のみ一棟あたりの料金です。地図上の位置は目安です。
1. 雨飾荘 — 小谷村・小谷温泉
小谷温泉の最奥、標高900m。北アルプスを遠景に置く13室の湯宿で、編集部が白馬の喧騒の対極として選んだ一軒。
13室、山あいの小規模な温泉宿。
目安価格 ¥44,000–¥53,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
白馬村から姫川を北へ下り、さらに東の山中へ入った雨飾高原に建つ宿です。標高は900m。客室は和室5、和洋室7、洋室ツイン1の計13室で、北アルプスを望む側と森に面した側の二つの向きがあり、予約の段階で「どちらの景色に窓を開くか」を選ぶことになります。白馬の宿が稜線を正面から受け止めるのに対し、ここでは山は遠景として置かれる。その距離感が、この宿の設計上の個性と言えます。設計者名は公表されていませんが、木の質感を前に出した和モダンの内装と、広縁を残した客室構成に、建物の考え方がよく表れています。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価の中心は食事と接客、次いで露天風呂に集まっています。山菜や岩魚といった土地の食材を軸にした夕食と、毎分約240リットルの源泉をかけ流す湯への言及が厚く、目立った不満の傾向は確認できませんでした。一方で、建築や眺望そのものが評価の主役になっているわけではない点は記しておきます。景色は目的ではなく背景、という受け止め方が多い宿と読めます。
向く人 / 向かない人
- 向く: 静けさを優先する二人旅、雨飾山や鎌池を歩く山旅の前後泊、かけ流しの湯を主目的にする人
- 向かない: 冬の滞在を考えている人(例年11月中旬頃から4月頃まで冬季閉鎖)、公共交通だけで身軽に動きたい旅程(駅からバスで40分)、設計者の名で宿を選びたい人
具体情報
- 最寄り駅: JR大糸線 南小谷駅から小谷村営バスで約40分、雨飾高原バス停から徒歩 5 分
- 標高: 900 m
- 客室構成: 和室 5・和洋室 7・洋室ツイン 1(8〜12畳)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 夕食は山菜・岩魚・信州牛などの和食膳、朝食付き
- 温泉: 源泉かけ流し(毎分約 240 L)、男女別の内湯と露天
- 駐車場: 20 台(建物周り 12 台、近接 8 台)
- 営業期間: 例年 4 月頃〜 11 月中旬頃(冬季閉鎖)
2. ホテル ラ ヴィーニュ 白馬 by 温故知新 — 白馬村・エコーランド
全38室がすべて角部屋。二方向の窓で北アルプスを受ける平面計画を、エコーランドの入口で成立させた2024年開業のホテル。
38室、全室角部屋の中規模ホテル。
目安価格 ¥74,000–¥115,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
白馬村の飲食店街、エコーランドの入口に2024年12月に開業した一軒です。編集部が注目したのは平面の割り方で、全38室を角部屋とし、すべての客室を山側の眺望に向けています。53.96㎡のスタンダードツインから144.89㎡のスイートまで7タイプ、いずれもキッチンを備えた長期滞在型の構成です。ロビーは雪見障子を思わせる吹き抜けに、天井とフロントカウンターの木格子。上田の作家・安藤萌による県産材の作品、東御のくるみガラス、岡谷シルクの照明、松代焼の器と、内装の固有名詞がすべて信州で閉じている点も印象に残ります。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、接客と食事への評価が最も厚く、客室の清潔さ、スキー場への動きやすさが続きます。日本ワインを1,000本以上揃えるダイニングの存在が、宿の印象を決めていると読めます。弱点として挙がる傾向があるのは浴室まわりの使い勝手と価格水準で、とくに年末年始は目安価格の上限を大きく超える日が並びます。大浴場を前提にした滞在を望む人は、事前に設備を確認しておくのが確実です。
向く人 / 向かない人
- 向く: 三世代や友人同士など寝室を分けたいグループ、キッチンを使う数泊の滞在、日本ワインを目的にする人
- 向かない: 温泉大浴場を滞在の中心に置きたい人、一泊だけの短い旅程(客室の広さを使い切れない)、年末年始に予算を抑えたい人
具体情報
- 最寄り駅: JR大糸線 白馬駅からタクシーで約 5 分(要予約の送迎あり)
- 客室サイズ: 53.96〜144.89 ㎡(全 7 タイプ、全室キッチン付き)
- 客室配置: 全 38 室が角部屋・マウンテンビュー
- 食事: 館内ダイニング「LA VIGNE DINING FÛDO」、日本ワイン 1,000 本以上
- 開業: 2024 年 12 月
- 設計: アーキヴィジョン広谷スタジオ
- 言語対応: 公式サイトは日・英・韓・中(簡体/繁体)
3. 白馬ハイランドホテル — 白馬村・白馬駅東の高台
白馬村で唯一の6階建て。姫川の東の高台から、五竜岳から栂池までを一枚の横長の画面として見せる宿。
74室、村内で唯一の6階建て。
目安価格 ¥23,000–¥31,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
白馬の宿の大半は山裾、つまり稜線の足元にあります。この宿は逆で、白馬駅の東、姫川を挟んだ高台に建ち、山並み全体を引きで見る位置を取りました。村の景観条例により現在は5階建てを超える建物を新たに建てられないため、6階建てはここだけ。その高さがそのまま眺望装置になっています。エントランス正面のロビーには大きな窓と暖炉、屋上(3階部分)にはテラス、そして露天風呂は南の五竜岳から北の栂池高原までを収める横長の構図です。客室は北アルプス側と東の森側に分かれ、山が見えるのは前者のみ、と公式に明記されている点も誠実です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、食事(とくに朝食ビュッフェ)、温泉、客室からの眺望、露天風呂の順に評価が集まります。眺望が評価項目の上位に入るのは、今回の5軒のなかでこの宿だけでした。一方で、客室の古さを指摘する傾向もはっきり出ています。洋室ツインは約20㎡で、内装を見に行く宿ではありません。建物の位置と高さという、後からは手に入らない条件を買う宿、と捉えるのが適切です。
向く人 / 向かない人
- 向く: 山並みを端から端まで眺めたい人、湯と景色を同時に取りたい人、白馬駅を起点に車なしで動く旅程
- 向かない: 客室の新しさや広さを重視する人(ツインは約20㎡)、東の森側の客室で山を期待する人(山は見えない)、静かな個人宿を求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR大糸線 白馬駅から無料送迎で約 3 分(徒歩 約 15 分)
- 客室サイズ: 洋室ツイン 約 20 ㎡ / 和洋室・ファミリールーム 約 40 ㎡
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 朝夕ともビュッフェ
- 温泉: 自家源泉「白馬姫川温泉」(泉温 49.4℃、毎分 130 L)、宿泊者専用の「わらび平の湯」と、日帰り入浴も受け入れる「天神の湯」
- 建物: 6 階建て、屋上テラスあり
- 駐車場: あり(高さ制限なし)
4. 黒部観光ホテル — 大町市・大町温泉郷
橙色の急勾配屋根にドーマー窓。大町温泉郷で最も長い歴史を持ち、北アルプスの蛇紋岩を浴場の素材に使うホテル。
89室、本館と別館からなる大型温泉ホテル。
目安価格 ¥18,000–¥24,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
立山黒部アルペンルートの長野側、大町温泉郷で最も歴史のあるホテルです。外観は橙色の急勾配屋根に三角のドーマー窓が並び、妻面にはハーフティンバー風の意匠。雪を落とす屋根の角度をそのまま建物の顔にした、山岳観光の時代の造形と言えます。編集部が選んだ理由はもう一つ、素材にあります。大浴場「石の湯」は、湯に濡れると緑に変わる北アルプスの蛇紋岩で組まれ、対になる「木の湯」は檜。山を眺める対象としてではなく、石として館内に持ち込んでいるわけです。眺望は最上階5階の和室が担い、高層階から稜線を望みます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、夕食ビュッフェと飲み放題、朝食、大浴場への評価が厚く、価格に対する納得感を挙げる傾向も目立ちます。弱点は客室の古さで、これは一定の割合で繰り返し指摘されています。接客や料理の質については評価が割れる面もありました。静かに建築を味わう宿というより、アルペンルートの前泊地として大人数を受け止める器であり、その前提で屋根と石を見に行くのが正しい付き合い方だと感じられます。
向く人 / 向かない人
- 向く: 黒部ダム・アルペンルートの前後泊、蛇紋岩と檜という浴場の素材に関心がある人、食事を量と種類で選びたいグループ
- 向かない: 新しい内装の客室を求める人、少人数で静かに過ごしたい記念日の旅、コース仕立ての夕食を望む人(夕食は90分制ビュッフェ)
具体情報
- 最寄り駅: JR大糸線 信濃大町駅から路線バスで約 15 分
- 車: 長野自動車道 安曇野 IC から約 40 分 / 扇沢駅まで約 20 分
- 客室: 和室 8・10・12 畳、次の間付き(8+6 畳、10+6 畳)、最上階 5 階和室
- 食事: 夕食は和洋 70 種類以上のビュッフェ(90 分制・飲み放題付き)、朝食ビュッフェ
- 温泉: 葛温泉と新源泉の混合泉(泉温 62.8℃、加水・循環あり)、露天・乾式サウナ・水風呂
- 駐車場: 無料
5. KANOLLY Resorts HAKUBA — 白馬村・みそら野
白馬三山と合掌造りを三つの急勾配の切妻に置き換えた一棟。建築として語るなら、今回の5軒で最も明快な一軒。
1日1組、3寝室の一棟(延べ約400㎡)。
目安価格 ¥350,000–¥456,000 / 泊 (2名利用・一棟)

なぜ選ばれるか
みそら野の森に建つ、1日1組だけの一棟です。設計はGENETO。外観は公式に「白馬三山と合掌造りからイメージした」と説明されており、三つの急勾配の切妻が並ぶ姿は、背後の稜線をそのまま縮尺を変えて地上に置いたように見えます。寝室の名もSHIRO(白)、YARI(鑓)、SHAKU(杓)と、白馬岳・白馬鑓ヶ岳・杓子岳から一字ずつ。雪を落とす屋根の角度を意匠の主題にし、材は長野県産材と国産材に限る。山を窓で切り取るのではなく、形と素材で引き受けるという方法です。約1,000㎡の庭と、森を望む露天温泉が付きます。
集約レビューの傾向
1日1組という形式上、公開レビューの件数がごく限られており、集約して傾向を述べられるだけの母数がありません。Media Picks Score が5軒中で最も低いのはこのためで、宿の質が低いという意味ではないことを明記しておきます。編集部としては、建築関連の国際的な賞の受賞歴と、公式に開示されている仕様(93㎡の主寝室、90㎡のLDK、35㎡の露天温泉室)を判断材料にしました。価格は一棟単位で、他の4軒とは桁が一つ異なります。
向く人 / 向かない人
- 向く: 建築そのものを目的に泊まる人、家族や少人数のグループでの貸切(定員 6 名まで)、人と顔を合わせずに過ごしたい滞在
- 向かない: 二人だけの一泊で費用を抑えたい人(価格は一棟単位)、館内レストランやバーを巡りたい人(食事は提携店によるインスイート)、評価の蓄積を見て選びたい人
具体情報
- アクセス: JR長野駅から無料送迎あり
- 構成: 3 寝室 + LDK、延べ約 400 ㎡(SHIRO 93 ㎡ / YARI 50 ㎡ / SHAKU 45 ㎡ / LDK 90 ㎡)
- 定員: 1 日 1 組、2〜6 名
- 温泉: 森を望む露天温泉(35 ㎡、庭に面した 1 階)
- 食事: 提携レストランによるインスイートサービス、専用キッチンあり
- 庭: 約 1,000 ㎡
- 設計・竣工: GENETO / 2022 年
よくある質問
Q. 訪れる時期はいつがよいですか?
A. 稜線に新雪が載り、麓に紅葉が残る十月中旬から十一月上旬を編集部は推します。雨飾荘は例年十一月中旬頃に冬季閉鎖に入るため、小谷まで含めて巡るならこの時期が最後の機会です。残雪と新緑が重なる五月下旬から六月も、山の輪郭がよく見えます。
Q. 予約のタイミングは?
A. 白馬村の 2 軒は年末年始と一月から二月の週末に価格が大きく上がり、年末は通常期の目安を大きく上回る日が並びます。冬に泊まるなら早めに日程を固めるのが確実です。1 日 1 組の KANOLLY Resorts HAKUBA は、日付を先に押さえる前提で考えてください。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 白馬ハイランドホテルには約 40 ㎡のファミリールームが 1 階にあり、ユニバーサルデザインの客室と、段差を抑えた浴場を備えます。ホテル ラ ヴィーニュ 白馬は寝室が分かれたスイートとキッチンを備え、数泊の家族滞在に向きます。雨飾荘は静けさを求める客層が中心です。
Q. アクセスは?
A. 鉄道は JR 大糸線が軸で、白馬駅・南小谷駅・信濃大町駅がそれぞれの最寄りです。東京からは北陸新幹線の長野駅で特急バスに乗り継ぐ経路が一般的。小谷温泉と大町温泉郷は南北に離れており、5 軒を一度に巡るより、一泊ごとに拠点を移す旅程が現実的です。
Q. 設計者が分かる宿はどれですか?
A. 設計者が明らかなのは、GENETO による KANOLLY Resorts HAKUBA と、アーキヴィジョン広谷スタジオが設計したホテル ラ ヴィーニュ 白馬の 2 軒です。他の 3 軒は設計者名が公表されておらず、本稿では立地、階数、平面の割り方、素材といった、建物から直接読み取れる事実に絞って記述しています。
本記事の参考情報
・白馬村 公式サイト — 白馬村の観光・交通情報
・小谷村 公式サイト — 小谷温泉・雨飾高原の情報
・Wikipedia: 白馬三山 — 白馬岳・杓子岳・白馬鑓ヶ岳の地理
編集部から
5 軒を並べて分かるのは、北アルプスを「建築に取り込む」方法が、大開口だけではないということです。雨飾荘は山を遠景に退かせ、ラ ヴィーニュは角部屋という平面で二面から受け、ハイランドホテルは対岸の高さで稜線全体を一枚に収める。黒部観光ホテルは蛇紋岩を浴場に敷き、KANOLLY は山の形そのものを屋根に写しました。設計者の名が公表されているのは 2 軒だけですが、名前がなくても建物は土地への態度を語ります。雪が来れば、屋根の角度と軒の出はまた別の意味を帯びるはずです。次に読むなら、南の安曇野から上高地へ下る道筋でしょうか。あるいは同じ稜線の裏側、富山の側から山を見る宿でしょうか。