ニセコ・倶知安で建築家や設計事務所の仕事を体験できる宿として、編集部が選んだ 5 軒を紹介します。羊蹄山とニセコアンヌプリに挟まれたこの一帯は、冬の積雪が 3 m を超える豪雪地です。深い雪の中に何を建てるのか。屋根と庇の扱い、窓の高さ、雪原に向けて開くか閉じるかという判断に、設計者ごとの違いがはっきり表れます。今回は花園の森に離れを散らした旅館、斜面に床レベルをずらして積んだ温泉ホテル、樹木調査から配置を決めたリザーブ、窓台を縁側に見立てたレジデンス、隈研吾が樹皮付きのナラ材で改修したタワーを並べました。粉雪と建築の対比がもっとも際立つのは晩冬から初春で、その時期に泊まる計画なら秋のうちに宿を決めておくのが現実的です。

# ホテル エリア 客室 目安価格 設計 / 1行特徴
1 坐忘林 倶知安町 花園 15 ¥208–¥292k 中山眞琴(建築)/ ショウヤ・グリッグ(内装)。原生林の中に15室の離れと自家源泉の湯
2 山翠ニセコ 倶知安町 ひらふ 53 ¥43–¥77k 中山眞琴アーキテクツ。斜面に床レベルをずらし、石庭の中庭が6層を縦に貫く
3 東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ ニセコ町 東山 50 ¥74–¥140k 清水建設 設計本部。既存樹木を調査したうえで配置を決め、地上4階に抑えた低層リザーブ
4 雪ニセコ 倶知安町 ひらふ 190 ¥44–¥88k W-Architects(建築)/ FIELD FOUR DESIGN OFFICE(客室)。窓台デイベッドを縁側に見立てる
5 ワン・ニセコ・リゾート・タワーズ ニセコ町 モイワ 105 ¥22–¥43k 隈研吾建築都市設計事務所が2012年に改修。軒から本棚まで樹皮付きのナラ材を使う
↕︎ 地図右下の角をドラッグすると高さを調整できます


※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 坐忘林 — 倶知安町 花園

花園の原生林に、自家源泉の内湯と露天を備えた離れが 15 室。雪の森で静けさを味わう、北海道でも数少ない建築主導の旅館です。

15室、離れ形式の旅館。

目安価格 ¥208,000–¥292,000 / 泊 (2名1室・通常期)


坐忘林 — 倶知安町花園 · 雪原の森に低く伸びる離れ棟と、朝日を背にした羊蹄山の俯瞰
PHOTO: 坐忘林 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建築は札幌を拠点とする中山眞琴、内装はニセコに長く暮らすショウヤ・グリッグ。二人で「禅」を軸にまとめた宿です。理由は三つあります。まず、上空から見ると分かるとおり、棟は森の中に低く水平に伸び、雪原に対して目立たない構えを取っていること。次に、15 室すべてに自家源泉の内湯と露天があり、滞在が客室の中で完結すること。そして、北海道の食材を懐石の形式に組み直した「北懐石」の夕食です。建築、湯、食の考え方が一本の線でつながっている点で、今回の 5 軒の筆頭に置きました。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価は満点に近い水準で安定しており、件数も小規模旅館としては十分にあります。高く評価されているのは、客室の露天風呂と森の静けさ、そして夕食の構成です。建物と周囲の景色の関係に触れた感想が多い点に、この宿の性格がよく出ています。一方、価格帯の高さや、駅から車移動が前提となる立地は、泊まる前に理解しておきたい条件として挙がる傾向があります。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    建築と食を目的に一泊を組む大人二人の旅、雪の季節に客室で過ごす時間を長く取りたい人、日本旅館の形式を現代的な解釈で体験したい海外からの旅行者
  • 向かない:
    スキー場へ歩いて出たい人(ゲレンデから離れた森の中にある)、予算を抑えたい旅程、にぎやかな館内施設を求める家族旅

具体情報

  • 最寄り駅: JR倶知安駅から車で約15分(事前連絡で駅への無料送迎あり)
  • 空港から: 新千歳空港から車で約2時間
  • 客室: 独立した離れ15室(和室・洋室)。全室に自家源泉の内湯と露天風呂
  • 食事: 夕食は北海道の食材による「北懐石」
  • 設計: 建築 中山眞琴 / 内装 ショウヤ・グリッグ
  • 開業: 2015年
  • 駐車場: 敷地内にあり


2. 山翠ニセコ — 倶知安町 ひらふ

坐忘林と同じ中山眞琴の設計。斜面に床レベルをずらして積み、石庭の中庭を 6 層の吹き抜けで貫いた、ひらふ上部の温泉ホテルです。

53室、スタジオからペントハウスまでそろうホテル・コンドミニアム。

目安価格 ¥43,000–¥77,000 / 泊 (2名1室・通常期)


山翠ニセコ — 倶知安町ひらふ · 窓の高さとバルコニーの位置を少しずつ変えた、地上6階のダークトーンの外観
PHOTO: 山翠ニセコ — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

森の離れという形式で答えた坐忘林に対して、同じ建築家がリゾート街の中層建築で出した答えが山翠です。両方を見比べられる点に、この一軒を選んだ価値があります。見どころは三つ。斜面に沿って床レベルを段々にずらし、造成を抑えたこと。石庭のある中庭が地上 6 層の吹き抜けとなり、各階に光を落としていること。そして、型枠の跡を残したコンクリートと、窓の高さを低く抑えて重心を下げた室内のつくりです。IDA DESIGN AWARDS 2021 特別賞、MUSE Hotel Awards 2022 ゴールドを受賞しています。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価は高い水準にまとまっています。好意的な声が集まるのは、大浴場の設計と、ゲレンデ近くの立地、キッチン付きで長く滞在しやすい客室構成です。館内のダイニングの質に触れた感想も目立ちます。コンドミニアム形式のため、ホテルほど細かなサービスを求める人と、自由度を好む人とで満足の度合いが分かれる傾向も見られます。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    スキーと建築の両方を旅の目的にする人、キッチン付きの客室で数泊する大人のグループ、同じ建築家の作品を坐忘林と見比べたい人
  • 向かない:
    旅館らしい部屋食や上げ膳据え膳を期待する人(コンドミニアム形式)、繁華街の喧騒から完全に離れたい人(ひらふの街に近い)

具体情報

  • 所在地: 倶知安町ニセコひらふ1条4丁目(アッパーヒラフ・ビレッジ)
  • 空港から: 新千歳空港から約110 km
  • 客室サイズ: 25〜315 ㎡(スタジオ 25〜45 ㎡、ペントハウス 200・315 ㎡は客室内に温泉付き)
  • 食事: 館内に鮨(札幌「すし宮川」系列)とオールデイダイニングなど
  • 設計: 中山眞琴アーキテクツ(地下1階・地上6階)
  • 竣工: 2020年


3. 東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ — ニセコ町 東山

既存の樹木を一本ずつ調べてから配置を決めた、地上 4 階・50 室のリザーブ。積雪 3 m を前提に、構成を最小限に絞っています。

50室、ラグジュアリーホテル。

目安価格 ¥74,000–¥140,000 / 泊 (2名1室・通常期)


東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ — ニセコ町東山 · 白樺林を背にした地上4階の低層棟と、灯りのともる低層部
PHOTO: 東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

設計は清水建設の設計本部、インテリアは Duoz、照明は遠藤香織。国際ブランドの最上位格の宿でありながら、建築の組み立ては意外なほど控えめです。この宿を選んだ理由は三つあります。既存樹木の調査に基づいて配置と床高を調整し、掘削残土を出さない計画としたこと。3 m を超える積雪を前提に、構成とディテールを最小限に絞ったこと。そして、外装のひだと金属の見切りが、夕暮れにゲレンデから戻る人の目印となる光と影をつくっていること。羊蹄山を望むビューバスも、この建築の主題の延長にあります。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価は高い水準で安定しています。羊蹄山への眺望、客室の浴室、少人数の宿らしい行き届いた運営を評価する声が中心です。館内のダイニングやラウンジも好意的に受け止められています。一方で、価格帯の高さに見合うかどうかは季節によって評価が揺れ、特に冬の繁忙期は予約の取りにくさが話題に上る傾向があります。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    国際ブランドの運営品質を前提に建築も楽しみたい人、記念日の旅、ニセコビレッジのゲレンデを中心に滑る人
  • 向かない:
    ひらふの飲食店街に毎晩歩いて出たい人(エリアが離れている)、自炊で長期滞在したい人(キッチンを前提としないホテル形式)

具体情報

  • 所在地: ニセコ町字曽我(ニセコビレッジ)
  • 空港から: 新千歳空港から約114 km(季節運行のシャトルあり)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜12:00
  • 食事: オールデイダイニング「Yukibana」、鮨「Sushi Nagi」、ラウンジ「Ume Lounge」
  • 設計: 清水建設 設計本部(地上4階・地下1階、RC造)/ インテリア Duoz / 照明 遠藤香織
  • 開業: 2020年12月


4. 雪ニセコ — 倶知安町 ひらふ

窓台に沿って続くデイベッドを縁側に見立て、羊蹄山を水平に切り取る。「雪月花」を主題に据えた、190 室のレジデンスホテルです。

190室、ホテル・レジデンス。

目安価格 ¥44,000–¥88,000 / 泊 (2名1室・通常期)


雪ニセコ — 倶知安町ひらふ · 窓台に沿って続くデイベッドと木の天井、大開口の先に羊蹄山を望むスイートのリビング
PHOTO: 雪ニセコ — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建築は W-Architects、客室デザインは FIELD FOUR DESIGN OFFICE。「海外からの旅行者に向けた、現代の日本のデザイン」という課題に対して、装飾ではなく姿勢で答えた点を評価しました。理由は三つです。視線の高さを下げた水平基調の構成で、日本の室内らしいくつろぎをつくっていること。窓台と一体のデイベッドが縁側の役割を担い、内と外の中間に居場所を生んでいること。そして客室の多くが羊蹄山側に向き、眺めを設計の軸にしていること。規模は大きくても、客室に入ると建物の大きさを感じにくいつくりです。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、件数・評価ともに厚く、安定した支持が確認できます。客室の広さと眺望、ゲレンデへの近さ、館内の飲食店の充実が評価の中心です。家族やグループでの長めの滞在に向くという受け止めも多く見られます。規模が大きいぶん、繁忙期の共用部の混雑に触れる声が一定数ある点は、静けさを優先する人は意識しておきたいところです。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    三世代やグループでの数泊、館内で飲食を完結させたい人、窓辺で羊蹄山を眺める時間を主役にしたい人
  • 向かない:
    小さな宿の親密さを求める人(190室の規模)、繁忙期に静かな共用部を期待する人

具体情報

  • 所在地: 倶知安町ニセコひらふ1条2丁目
  • 客室サイズ: 41〜324 ㎡(スタジオ 41〜66 ㎡、4ベッドルーム・ペントハウス 324 ㎡)
  • 食事: 館内に「Tempura Araki」、鮨カウンター、オールデイダイニング、ラーメン「AFURI」など
  • 設計: W-Architects(建築)/ FIELD FOUR DESIGN OFFICE(客室)
  • 竣工: 2022年
  • アクセス: JR倶知安駅・各スキーエリアへのシャトルあり


5. ワン・ニセコ・リゾート・タワーズ — ニセコ町 モイワ

モイワ山麓のタワーを、隈研吾が樹皮付きのナラ材で包み直した改修作。今回の 5 軒で最も手の届く価格帯で、隈建築に泊まれます。

105室、全室キッチン付きのスイート型リゾートホテル。

目安価格 ¥22,000–¥43,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ワン・ニセコ・リゾート・タワーズ — ニセコ町 · 雪に覆われたモイワ山とニセコアンヌプリ連峰の麓に建つ2棟のタワー
PHOTO: ワン・ニセコ・リゾート・タワーズ — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

新築ではなく改修である点が、この一軒の面白さです。隈研吾建築都市設計事務所は 2012 年、硬く冷たい印象だったコンクリートのタワーに、樹皮を残したナラ材を重ねました。材は外の軒から、エントランス、館内の壁、ライブラリーの本棚まで連続します。理由は三つあります。既存建物を素材の置き換えで読み替える隈の手法が、小さな予算の中で明快に表れていること。105 室すべてがキッチンとバルコニー付きのスイートで、滞在の自由度が高いこと。そして、モイワの静かな山麓に位置していることです。建築を目的に、価格を抑えて泊まれる選択肢として加えました。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、件数が非常に多く、評価は中上位で安定しています。客室の広さとキッチンの使い勝手、温泉、コストに対する満足度が支持の中心です。家族やグループでの利用も目立ちます。一方、館内設備の年季や、ひらふ中心部までの移動に車かシャトルが必要な点に触れる声もあり、建築は入口まわりと共用部で味わうものと考えておくと期待とずれません。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    隈研吾の素材の使い方を実地で見たい人、自炊を交えた長期滞在、モイワやアンヌプリで静かに滑りたい人
  • 向かない:
    全館が新しい意匠でまとまった宿を期待する人(隈の手が入ったのは入口・共用部と一部客室)、ひらふの夜を徒歩で楽しみたい人

具体情報

  • 最寄り駅: JR倶知安駅から無料シャトル(予約制・季節運行)
  • 空港から: 新千歳空港から車で約2時間
  • 客室: 105室すべてキッチン・バルコニー付きのスイート(畳コーナー付きタイプあり)
  • 食事: 館内レストラン「Tura」
  • 設計: 改修設計 隈研吾建築都市設計事務所(2012年)


よくある質問

Q. 建築を見るなら、どの季節が合いますか?

A. 編集部が推すのは、晩冬から初春の 2〜3 月です。深い雪が地形を消し、建物の輪郭と素材の色が最もはっきり見えます。紅葉期の 10 月は、坐忘林の露天や山翠の大浴場で、湯面に映る色の変化を楽しめます。

Q. 予約のタイミングは?

A. 12〜3 月のスキーシーズンは海外からの予約が早く入り、年末年始と 2 月は特に早い時期から埋まる傾向があります。坐忘林のように客室の少ない宿は、秋のうちに日程を決めておくと選択肢が残ります。ハイシーズンは価格も大きく上がります。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 家族で泊まるなら、キッチン付きで寝室を分けられる雪ニセコ、山翠ニセコ、ワン・ニセコが扱いやすい選択です。坐忘林は静けさを前提にした大人向けの宿なので、年齢の条件は事前に公式サイトで確認してください。

Q. アクセスは?

A. 新千歳空港から車で約 2 時間、札幌から JR(小樽乗り換え)で倶知安駅まで約 2 時間です。倶知安駅からは各宿の送迎やシャトルを使います。5 軒は地図の中心から半径およそ 5 km に収まり、ひらふの 2 軒以外は車での移動が前提です。

Q. 大樹町の MEMU EARTH HOTEL は泊まれますか?

A. 十勝・大樹町で隈研吾の実験住宅「メーム」などに泊まれた MEMU EARTH HOTEL は、2022 年 11 月末にホテル事業を終えています。そのため本記事の対象からは外しました。

本記事の参考情報

・Kengo Kuma and Associates: One Niseko — ワン・ニセコ改修の設計解説
・シミズの設計本部: 東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ — 設計者・規模・積雪への対応
・MUSE Hotel Awards: Sansui Niseko — 山翠ニセコの設計概要
・FIELD FOUR DESIGN OFFICE: 雪ニセコ 客室 — 雪ニセコのデザインクレジット
・Wikipedia: 倶知安町 — 地理・気候の背景

編集部から

5 軒に共通するのは、雪をどう扱うかが設計の出発点になっていることです。森に低く伸びる坐忘林、斜面に段を刻む山翠、樹木調査から配置を決めたリザーブ、窓台を縁側に変えた雪ニセコ、既存の塔に木の肌をまとわせたワン・ニセコ。同じ羊蹄山を前にしても、答えはこれだけ違います。ひらふでは、日建設計による MUWA NISEKO のように切妻屋根を寄せ集めた新しい建築も増えています。次に雪の季節を選ぶとき、滑る場所の前に、どの建築の窓から羊蹄山を見るかで宿を決めてみてはどうでしょうか。

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