京都・東山七条に、平安時代末期の庭園遺構を敷地の中心に残したまま建てられたホテルがある。フォーシーズンズホテル京都は、平重盛の別邸「小松殿」の園地と伝わる池庭「積翠園」を約1万㎡そのまま抱え込み、その周囲に123室の客室棟を低く伏せた一軒。庭を主役に据え、建築を脇へ退かせるという判断が、平面形状から天井の厚みにまで一貫している。開業から10年を経た今、この配置がどう効いているのかを、建築の与件から読み直す。


フォーシーズンズホテル京都 — 京都市東山区 · 池庭「積翠園」の水面越しに低く伏せた客室棟と、石橋に架けた強化ガラスの橋
PHOTO: フォーシーズンズホテル京都 — 公式サイトを見る →

Media Picks Score: 95 / 100  123室(ほかにプライベートレジデンス57戸)、都市型ラグジュアリーホテル。

目安価格 ¥261,000–¥377,000 / 泊 (2名1室・通常期)

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

八百年の庭が、先に敷地にあった

順序を間違えないほうがいい。この敷地では、庭のほうが先に存在していた。

「積翠園」は約10,000㎡の池泉回遊式庭園で、そのうち約3,000㎡を池が占める。公式の記述によれば、平安時代末期の武将・平重盛(1138〜1179年)の別邸「小松殿」の園地として作庭されたと伝えられ、その根拠として、この場所が『平家物語』の記述と合致すること、近年の調査で庭園の意匠に平安末期の特徴が確認されたことが挙げられている。江戸時代に入ると元和元年(1615年)に隣接する妙法院の所有となり、「積翠亭」「積翠軒」と呼ばれていたことが尭恕法親王(1640〜1695年)の日記から判明した。元禄期に改修を受けてはいるものの、平安末期の庭園がこれだけ残る例は数えるほどしかない。

庭の様式も具体的である。池は東寄りの石橋を境に大小2つに分かれ、東側の小池が一段高い。西の大池には大島が1島、小島が1島。大島の近くには「夜泊石」と呼ばれる5つの石が一列に並ぶ。水上では1石ずつに見えるが、水底では2石が人字形に組まれているという、平安初期からの石組手法。蓬萊島へ向かった舟が夜の海に停泊する姿を表すとされ、京都では西芳寺、鹿苑寺、大覚寺の庭園にも見られる様式である。昭和期の作庭家・重森三玲は、大島が山畔に接すること、小島が池中にあること、滝の石組が山畔に組まれることに平安時代の庭園の特徴を見出し、大島の正面にあたる対岸がやや出っ張っているのは、そこに寝殿建築を設けるためだったのではないかと考察している。

現在の滝は、荒廃した石組と既存の景石を再利用し、重森の実測図と著述をもとに再現されたもの。あわせて池への地下水の供給量を見直し、供給先を滝口へ移設して水系を組み替えた。水質を保つための工事が、結果として水景を蘇らせている。庭を「保存」するのではなく、水を回して生かすという判断だった。


積翠園 — 京都市東山区 · 池を大小に分ける既存の石橋と、その上に架けられた強化ガラスの橋
PHOTO: フォーシーズンズホテル京都 — 公式サイトを見る →

池を二分する石橋は、以前からこの庭にあったもの。庭園遺構を後世に伝えるため、極力手を加えず、上に強化ガラスの橋を架けている。渡りながら足元の古い石橋を見下ろす構成で、保存と動線を同じ一点で解いた。派手な意匠ではないが、この庭に対する態度がもっとも端的に出ている場所と言える。

鍵形の平面と、消された梁

設計は久米設計。竣工は2016年、延床面積34,632㎡、地上4階・地下3階、RC造の一部S造である。

公式の設計者記述によれば、京都の歴史的景観を保全し、敷地内に残る積翠園を活かすため、行政や事業主との協議と、客室配置・平面形状の検討を重ねた末に「鍵形の平面形状」に至った。庭を避けて建物を折り曲げた、と言い換えてもいい。結果として各客室が異なる方向を向き、多様な眺望を持つことになった。庭を囲い込む閉じた回廊ではなく、庭に対して斜めに開いた面をいくつも作る配置である。

もうひとつ、数字で読める判断がある。この地区には建物の高さ制限があり、限られた総高のなかで4層を積む必要があった。そこで地上部の階高を3,150mmとし、275mm厚のフラットスラブを採用して梁型のない空間をつくり、客室の天井高を最大限確保している。梁を消すという構造上の選択が、そのまま室内の広がりに直結する。低く伏せた外観と、内部の天井の高さは、同じ制約から出てきた一対の答えだった。この計画は Hospitality Design Award を受けている。


フォーシーズンズホテル京都 — 東山区妙法院前側町 · 和傘の骨組みを翻案した車寄せの屋根、夜景
PHOTO: フォーシーズンズホテル京都 — 公式サイトを見る →

和傘を骨組みに翻案した車寄せ

南棟・北棟エントランスの車寄せは、光井純&アソシエーツ建築設計事務所(Pelli Clarke & Partners Japan)が設計している。

モチーフは和傘。同事務所の記述では、和傘は日本の技術による工芸品であり、繊細な骨組による構成であるとし、車寄せもまた工芸品のような細い骨組とした。傘を重ねてできた屋根が大きな空間を分節し、訪れた人を包み込む迎えの場をつくる。構造体は鉄骨と木材による仕上げで、天井は傘の放射状の骨を木材で細やかに表現している。屋根形状は京都市の風致地区の基準に従って設えられた。

大屋根を一枚で架けず、複数の傘に分けて掛け合わせる。この分節が、車寄せという本来は大味になりがちな部位のスケールを、人の身体に近い寸法へ落としている。夜、下から見上げたときの木の放射が最も効く。

庭に正対する123室

客室は123室。ほかにプライベートレジデンス57戸があり、建物全体では180室という構成になる。インテリアはハーシュ・ベドナー・アソシエイツが手がけた。

広さの取り方が明快である。もっとも標準的なデラックスルームで49〜53㎡。庭に面するプレミアヘリテージガーデンルームは52〜53㎡で、床から天井までの大きな窓が積翠園に正対する。1ベッドルームプレミアヘリテージガーデンスイートは98〜103㎡。最大の2ベッドルームプレジデンシャルスイートは245㎡で、4階に位置し、10㎡のバルコニーを持つ。吉祥文様や西陣織など、伝統工芸の調度を配した室である。


フォーシーズンズホテル京都 客室 — 京都市東山区 · 襖絵と障子の意匠、大開口の先に積翠園の樹林が広がる
PHOTO: フォーシーズンズホテル京都 — 公式サイトを見る →

意匠面では、和紙の照明、襖、ベッドサイドに四季の風景を描いた襖絵といった要素が入る。ただし全体としては直線的で抑制の効いた構成で、和の意匠を貼り付けるというより、柱割りと建具の割付で和を出す方向に振れている。梁型を消した天井がここで効き、49㎡台の室でも圧迫が出ない。

数寄屋の茶室「楓樹」と「積翠亭」

ガラスの橋を渡り、石畳の小路を進んだ先に、数寄屋造りの茶室が建つ。設計は京都出身の建築家・山本良介。主に京都産の檜を用い、釘を使わずに建てられている。床は京都伏見の深草の土を使った叩き土間で、天井の木組みと番傘の照明が空間の性格を決めている。


フォーシーズンズホテル京都 茶室 — 京都市東山区 · 京都産檜の木組み天井と番傘を模した照明、ガラス越しに池庭を望む
PHOTO: フォーシーズンズホテル京都 — 公式サイトを見る →

内部は「楓樹」と「積翠亭」という2つの空間で構成される。楓樹はラウンジで、名はホテルに隣接する妙法院門跡門主僧侶であった菅原信海氏による。日中は抹茶とオリジナルの和菓子、夕暮れからは日本酒とシャンパンを供するバーへ表情を変える。日本酒には、京丹後のオーガニック米を原料に、杜氏・行待佳樹氏が金剛童子山の伏流水で仕込んだ竹野酒造醸造のホテルオリジナルがある。積翠亭のほうは、茶人を招いての茶道体験にあてられる空間である。


積翠園の茶室 — 京都市東山区 · 池のほとりに建つ数寄屋造りの茶室と、水面に枝を垂らす柳
PHOTO: フォーシーズンズホテル京都 — 公式サイトを見る →

数寄屋を庭の畔に一棟だけ置くという構成は、本館との対比で効く。RC造4階建ての客室棟に対し、こちらは木造の小屋。同じ敷地で二つの尺度を併走させ、その間を庭が繋ぐ。ホテル建築としては珍しく、主屋より小屋のほうが記憶に残る配置になっている。

食と、地下二階の水

ダイニングは、レストラン2軒にラウンジ1軒、バー1軒という編成。江戸前鮨の「鮨 銀座おのでら フォーシーズンズホテル京都店」は、400年の歴史を持つ日本産の檜による鮨カウンターを備え、備前焼や清水焼を使う。「エンバ・キョウト・グリル」は自家熟成のステーキと炭火焼を出すグリルで、朝食からディナーまでを担う。バー「SEY」は、開業10周年を記念して「ザ・ラウンジ&バー」を洗練された居酒屋コンセプトへ刷新したもの。

水回りは地下に集まる。地下2階に全長20m・水深1mの室内プール、ジャグジー2つ、温浴と冷浴の入浴施設、サウナ(男性はミスト、女性はドライ)。営業は7:00から21:00まで。スパは禅の「円相」から着想した空間で、10:00〜21:00(最終入店20:00)。フィットネスセンターは24時間。

集約レビューが映すもの

公開レビューデータを集計すると、この宿の評価は接客に関する言及がもっとも多く、かつ肯定側に強く偏る。次いで価格に対する納得感、食事の質、客室の広さが続く。庭を望む眺望と、スパ・プールを含む施設群への言及も一定量を占めており、「庭のある都市ホテル」という設計意図が、滞在の印象としてもそのまま受け取られていることが読み取れる。

一方で、静粛性と客室の新しさについては、他項目に比べて否定側の言及がわずかに混じる。開業から10年が経過した建物であり、市街に近い立地でもある。とはいえ全体の傾向としては、項目を問わず肯定が圧倒する分布で、価格帯の高さに対する不満が目立たない点が特徴的である。支払う額と受け取る体験の釣り合いについて、利用者側の評価が割れていない。

東山七条という結節点

立地は京都市東山区妙法院前側町445-3。隣接するのが妙法院、道を挟んで智積院、そして三十三間堂と京都国立博物館が徒歩圏という一角である。観光の中心である祇園・清水からは少し南へ外れ、その分だけ夜が静かになる。

交通は、京阪本線「七条駅」から徒歩約13分。市バス206番・208番で「東山七条」下車なら徒歩約3分。JR京都駅からはタクシーで約7分、距離にして1.5kmで、京都駅に近い高級ホテルとしては例外的に庭を持つ立地と言える。関西国際空港からは車で90分、列車で75分。

ひとつ注意しておきたい実務的な点がある。ホテル正面の豊国廟参道(別称・女坂)は、月曜から土曜の8:00〜9:00の間、登録車輌以外の通行が禁止されている(日曜・祝日は対象外)。この時間帯に車やタクシーで出発・到着する場合は事前連絡が必要で、バレーパーキングも一時停止となり、東大路通り沿いのレジデンスエントランスからの案内に切り替わる。朝の移動を組む際は、ここを織り込んでおきたい。

具体情報

フォーシーズンズホテル京都 — 建築・客室・施設の主要諸元(公式サイトおよび設計者公表資料による)
項目 内容
所在地 京都市東山区妙法院前側町445-3
開業 2016年(竣工2016年)
客室数 123室(ほかにプライベートレジデンス57戸、建物全体で180室)
客室面積 デラックスルーム 49〜53㎡ / プレミアヘリテージガーデンルーム 52〜53㎡ / 1ベッドルームプレミアヘリテージガーデンスイート 98〜103㎡ / 2ベッドルームプレジデンシャルスイート 245㎡(バルコニー10㎡・4階)
建築 設計 久米設計/延床面積 34,632㎡/地上4階・地下3階/RC造一部S造/鍵形の平面形状
車寄せ 光井純&アソシエーツ建築設計事務所(Pelli Clarke & Partners Japan)設計、和傘モチーフ
インテリア ハーシュ・ベドナー・アソシエイツ
庭園 池庭「積翠園」約10,000㎡(うち池 約3,000㎡)、池泉回遊式
飲食 レストラン2軒(鮨 銀座おのでら/エンバ・キョウト・グリル)、ティーラウンジ「楓樹」、バー「SEY」、ルームサービス24時間
プール 地下2階、全長20m・水深1m、ジャグジー2、入浴施設(温浴・冷浴)、7:00〜21:00
スパ 10:00〜21:00(最終入店20:00)、16歳以上。フィットネスセンターは24時間
アクセス 京阪本線「七条駅」徒歩約13分/市バス「東山七条」下車 徒歩約3分/JR京都駅からタクシー約7分(1.5km)
駐車場 バレーパーキング(有料)、宿泊は1泊1台5,000円

よくある質問

Q. 積翠園はどの季節に見るのが良いですか?

A. 池泉回遊式の庭なので通年で表情が変わりますが、水面の面積が大きい分、新緑と紅葉の反射がもっとも効きます。盛夏は樹冠が深く、水面に落ちる影が濃くなる時期です。編集部が推すのは、人出が落ち着き水の澄む晩秋から初冬。

Q. 宿泊しなくても庭や茶室に入れますか?

A. 茶室「積翠亭」での茶道体験は宿泊者限定の設定で、予約は2週間前までに申し出る必要があります。スパとプールは日帰り利用が可能です。庭単体の一般公開は行われていないため、庭を目的にするなら宿泊か館内施設の利用が前提になります。

Q. 子ども連れでも泊まれますか?

A. 泊まることができます。デラックスルームは大人3名まで、または大人と小人の組み合わせに対応し、ベビーシッターの手配、ベビーベッド、ベッドガード、お子様向けバスローブなどが用意されています。ただしプールは16歳未満が大人同伴、スパのトリートメントとサウナは16歳以上という年齢制限があります。

Q. 京都駅からのアクセスは?

A. タクシーで約7分、距離は1.5kmです。市バス206番・208番で「東山七条」下車、徒歩約3分でも到達できます。ただし正面の女坂は月曜から土曜の8:00〜9:00が車輌通行規制の対象となるため、その時間帯の発着は事前に連絡しておくのが確実です。

Q. 客室は庭に面した部屋を選べますか?

A. プレミアヘリテージガーデンルーム(52〜53㎡)と1ベッドルームプレミアヘリテージガーデンスイート(98〜103㎡)が庭に正対する客室です。鍵形の平面により各室の向きが異なるため、同じ「ガーデン」の名を持つ室でも見える範囲は一様ではありません。

本記事の参考情報

フォーシーズンズホテル京都「池庭 積翠園」 — 庭園の由緒・様式・作庭史
久米設計 プロジェクト「フォーシーズンズホテル京都」 — 平面形状・階高・構造の設計意図
光井純&アソシエーツ建築設計事務所「フォーシーズンズホテル & ホテルレジデンス京都・車寄せ」 — 車寄せの設計思想

編集部から

庭を持つ都市ホテルは珍しくない。珍しいのは、庭のほうが八百年前から在り、建築がその外周に回り込んだという順序である。鍵形に折れた平面も、梁を消して稼いだ天井高も、庭に触れないための操作の副産物として出てきた。制約を美点へ反転させた例として、開業から10年を経てなお読み応えがある一軒。

次に気になるのは、同じ東山という斜面で、庭や地形にどう向き合った宿があるかという点だろう。華頂山の傾斜に伏せた数寄屋、鷹峯の山裾に散らされたパビリオン。京都という都市は、宿の配置図そのものが土地の読み方の記録になっている。

次に読むなら

佳水園を一棟で読む — 華頂山の斜面に村野藤吾が伏せた入母屋、40㎡を70㎡へ継いだ数寄屋別館
アマン京都 — 西賀茂、ケリー・ヒルが鷹峯の山裾に置いた26棟のパビリオン配置を読む
MUNI KYOTO — 嵐山・渡月橋北詰、安田幸一が桂川に正対して置いた21室を一棟で読む
京都・東山から左京、土壁の塗りを残す数寄屋宿 5軒 — 中塗り・上塗り・大津磨き