尾道・千光寺山の中腹に建つ〈LOG〉は、1963(昭和38)年築の鉄筋コンクリート集合住宅「新道アパート」を、インド・ムンバイを拠点とするスタジオ・ムンバイが客室6室の複合宿へ翻案した一棟です。設計を率いたビジョイ・ジェインにとって、これはインド国外で初めて手掛けた建築でした。2018年12月7日の開業から7年半。延床面積 約1,180㎡のうち、旅人が眠る場所は最上階の6室だけで、残りはピロティ、カフェ、ダイニング、ギャラリー、そして庭という「余白」に充てられています。宿でありながら、宿だけではない。その配分の思想を、一棟の内側から読みます。

目安価格 ¥79,000–¥87,000 / 泊(2名1室・通常期)  Media Picks Score: 91 / 100

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。


LOG — 尾道・東土堂町 · 3階の宿泊者専用ライブラリー、セージグリーンの壁と尾道水道を望む窓
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歴史と建築 — 1963年の躯体を、壊さずに開く

尾道の山手は、車の入らない坂と石段の街です。JR尾道駅から東へ歩き、千光寺へ続く参道の途中で門をくぐると、3階建ての建物が現れます。これが1963年に「新道アパート」として建てられた鉄筋コンクリート造の集合住宅で、当時としては先進的な山の手の共同住宅でした。延床面積は約1,180㎡。〈LOG〉はこの躯体をほぼそのまま引き受け、内側だけを作り替えています。

翻案を担ったのは、ビジョイ・ジェイン率いるスタジオ・ムンバイ。1995年設立、2010年の第12回ヴェネチア・ビエンナーレで特別賞を受けた設計集団で、建築家と職人が同じチームとして手を動かす制作方法で知られます。〈LOG〉は、その彼らがインド国外で初めて取り組んだ建築でした。改修は数年にわたり、設計と施工が同時に進む「Praxis(実験・検証)」という言葉のもとで、材料の試作と検証が現場で繰り返されています。

最も大きな判断は、住戸を客室に置き換えなかったことです。1・2階は住戸の壁を取り払い、海側の庭と山側の庭を貫くピロティ空間へ変えました。周囲にカフェ&バー、ダイニング、ギャラリー、ショップが配され、中庭は岩壁に映画を投影できる円形劇場のような場になっています。客室として残されたのは3階だけ。集合住宅を宿に変えるとき、普通は部屋数を最大化します。〈LOG〉はその逆を選んだ、と言えます。


LOG — 尾道・千光寺山中腹 · 1963年築の鉄筋コンクリート集合住宅「新道アパート」を転用した3階建て躯体
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素材 — 和紙、漆喰、そして色

3階の6室は、すべて約40㎡。床・壁・天井に手漉きの和紙が張られ、窓辺には縁側が設けられています。ビジョイ・ジェインの「be gentle(優しくあれ)」という言葉に沿って、繭に包まれるような感触を目指した設えで、入り口の土間、浴室、寝室、縁側というように、一室の中が緩やかに文節されています。4ベッドルームの一室は、和紙職人ハタノワタルとともに「ちぎり造り」で仕上げられ、和紙を折り重ねた照明シェードが陰影を落とします。

壁の漆喰には、敷地に元々あった土壁や瓦が再利用されています。取り壊した土がそのまま次の表層になる、という循環です。色は英国のカラーアーティスト Muirne Kate Dineen とともに検証を重ね、無数の試作から選ばれました。宿泊者専用ライブラリーの壁は、窓外の空や木々とつながるセージグリーン。ビジョイ・ジェインのムンバイの書斎を思い描いた空間です。2階のギャラリーには、4年間の検証の軌跡が素材サンプルや図面として展示されており、完成した空間より先に、その手前の過程を見ることができます。


LOG — 顔料と漆喰の色見本 · 敷地の土や解体した土壁を再利用して調色された壁の検証サンプル
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滞在の体験 — 6室と、開かれた下層階

客室は3タイプ。1ベッドルーム(定員2名)はダブルサイズの布団を室の中央に据え、シャワールームにバスタブが付きます。2ベッドルーム(定員2名)は障子で仕切った小上がりのベッドスペースを左右に配置。4ベッドルーム(定員4名)はシングルの布団を左右に2組ずつ敷きます。いずれも広さは約40㎡です。西側の301・302、南側の306・307は中扉でつなぎ、客室の外に出ずに行き来できるコネクティングルームとして使えます。

食事は、熊本を拠点とする料理家・細川亜衣が監修しています。朝食は7:30から10:00(L.O. 9:30)、木漏れ日の入るダイニングで。夕食は18:00から22:00(L.O. 20:30)で、旬の野菜や魚を用いたコース。夕食は宿泊者以外も利用でき、ウォークインの場合は1名12,100円(税込)、18:00または20:00からの2時間制です。カフェ&バー「アトモスフィア」は11:00から17:00(L.O. 16:30)。なお、夕方以降のバータイムは現在休業中で、この点は訪問前に確認しておきたいところです。

庭は、カフェの開いている時間帯であれば宿泊者以外にも開かれています。南側の庭は空を遮るものがなく、坂を上る人の声や電車の音が届く。中庭は屋内と屋外がゆるやかに連続する吹き抜け。宿の内側が街の側にはみ出している、というより、街の側が建物の中まで入り込んでいる構成です。滞在中に感じる静けさは、密閉によるものではなく、この開放との落差から生まれています。


LOG — 客室 · 床・壁・天井に手漉き和紙を張り、障子越しの光で構成された約40㎡の一室
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集約レビューが映すこの宿の本質

公開レビューデータを集計すると、〈LOG〉への評価は、建築と空間の質、そして接客の距離感に集中する傾向が見て取れます。素材の手触りや光の入り方といった、写真では伝わりにくい要素への言及が比率として高い一方、設備の新しさや客室の多機能性を軸に評価する声は相対的に少ない。1963年の躯体を活かしている以上、現代のホテル基準で見れば断熱や遮音は新築に及ばず、そこを許容できるかで印象が分かれます。

もうひとつ、坂と石段という立地が評価を二分します。門まで車は入れず、駅から歩けば15分の上り。荷物が多い旅程では負担になりますが、その負担を経てたどり着く場所であることが、この宿の体験の一部を構成してもいる。集約された傾向は、〈LOG〉が万人向けの快適さではなく、特定の価値観に強く応える一軒であることを示しています。

立地と周辺

住所は広島県尾道市東土堂町11-12。千光寺へ続く石段の途中で、車では門前まで入れません。この場所が選ばれた理由として、せとうちアーキツーリズム振興委員会の解説は、志賀直哉が『暗夜行路』を構想した旧居と同じ高さに位置する視点を挙げています。志賀が見たであろう尾道と、ビジョイ・ジェインを惹きつけた小津安二郎『東京物語』の風景。その追体験が計画の拠り所となり、海側と山側をつなぐことに力が注がれました。旧居は徒歩圏にあり、千光寺、天寧寺三重塔、猫の細道といった山手の見どころも同じ斜面に連なります。2025年の「ひろしま国際建築祭」では、〈LOG〉自体が展示会場のひとつになりました。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    建築・素材そのものを目的に旅程を組む人、尾道の山手を歩いて過ごしたい二人旅、和紙や左官の仕事を静かに見たい滞在、連泊で一つの場所に留まる旅
  • 向かない:
    12歳以下の子ども連れ(滞在は13歳以上から)、大きな荷物での移動を避けたい旅程(門前まで車が入れず駅から徒歩15分の上り坂)、車での旅(専用駐車場なし)、夕方以降のバー利用を目的とする滞在(バータイムは現在休業中)

具体情報

  • 所在地: 広島県尾道市東土堂町11-12
  • 最寄り駅: JR尾道駅から徒歩15分(タクシー5分)/JR新尾道駅からタクシー15分
  • 客室: 6室(すべて3階)/1ベッドルーム・2ベッドルーム・4ベッドルームの3タイプ、いずれも約40㎡
  • チェックイン: 15:00–20:00 / アウト 〜11:00
  • 食事: 朝食 7:30–10:00(L.O. 9:30)/夕食 18:00–22:00(L.O. 20:30、宿泊者以外も利用可)。監修は料理家・細川亜衣
  • 建物: 1963年築、RC造3階建て。延床面積 約1,180㎡
  • 開業: 2018年12月7日(設計:スタジオ・ムンバイ/ビジョイ・ジェイン)
  • 年齢制限: 滞在は13歳以上
  • 駐車場: 専用駐車場なし(近隣駐車場を利用)
  • 運営: ツネイシ ランド&シー株式会社

Media Picks Score

91 / 100 — 公開レビューデータの集計に、編集部による主題適合度を加えた composite です。建築的価値(インド国外初のスタジオ・ムンバイ作品、1963年躯体の転用)と、素材の一貫性(和紙・漆喰・顔料)で高く評価しました。減点要因は、13歳以上という年齢制限、専用駐車場の不在、坂上という到達性、そして夕方以降のバータイムが現在休業中である点です。6室という規模ゆえ、日程の自由度も高くはありません。

よくある質問

Q. 建築目的で訪れる場合、宿泊しないと見られない範囲はどこですか?

A. 1階のショップとダイニング、2階のカフェ&バー、そして庭は宿泊者以外にも開かれています。一方、3階の客室階と宿泊者専用ライブラリー、および2階のギャラリー(9:00–18:00)は宿泊者のみ。スタジオ・ムンバイとの4年間の検証記録である素材サンプルや図面を見るなら、宿泊が前提になります。

Q. 子ども連れでも滞在できますか?

A. 〈LOG〉の滞在は13歳以上からです。同じ運営による尾道の町家タイプ「せとうち 湊のやど 島居邸洋館」は13歳未満も滞在できるため、家族での旅程ならそちらが選択肢になります。

Q. 車で行けますか?

A. 門前まで車は入れません。専用駐車場もないため、近隣の駐車場に停めて歩くことになります。山陽自動車道 尾道IC・福山西ICからは車で15分ですが、最後は石段を上る前提で荷物を組むのが現実的です。

Q. 夕食だけの利用はできますか?

A. できます。ウォークインの夕食は1名12,100円(税込)、18:00または20:00からの2時間制で、希望日の2か月前から前日12:00まで受け付けています。年齢は13歳以上が対象です。

Q. 訪れる時期で印象は変わりますか?

A. 庭を持つ宿なので、季節の差が大きく出ます。和紙と漆喰の壁は光の質を素直に映すため、日射しの柔らかい春と秋は室内の色が最も落ち着いて見える時期。冬は1963年の躯体ゆえに新築ホテルほどの断熱は期待できず、暖かい装いで臨むほうが快適です。

本記事の参考情報

LOG 公式サイト — 客室・食事・アクセス・営業時間
ツネイシ ランド&シー株式会社 — 運営者によるプロジェクト概要
SETOUCHI ARCHI-TOURISM — 建築的背景と計画の経緯
ひろしま国際建築祭2025 — 展示会場としての紹介

編集部から

宿を評価するとき、私たちはつい客室数と設備の充実度を数えてしまいます。〈LOG〉はその物差しが通用しない一軒です。延床の大半を人が泊まらない場所に割き、6室しか売らない。効率で見れば非合理な配分ですが、その非合理が、坂の街に開かれた公共の場をつくり、結果として泊まる側の体験を厚くしています。集合住宅の躯体を残すという判断も同じ性質のもので、壊してから建てるより手間がかかる方法を、あえて選んでいる。手をかけることそのものが空間に残る、というスタジオ・ムンバイの主張は、和紙の継ぎ目や漆喰のむらとして、いまも3階の6室に見えています。転用という手法が全国の旧建築に広がるいま、〈LOG〉が示した配分の思想は、どこまで一般解になり得るのでしょうか。

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