軽井沢を離山・千ヶ滝・追分の順に二泊三日で渡るなら、雲場池のほとりの「ふふ 旧軽井沢 静養の森」、千ヶ滝の「SHISHI-IWA HOUSE」、追分の「haluta hotelli still」の三軒を軸に組む旅程を編集部は推します。旧軽銀座の賑わいには深入りせず、標高1,256mの溶岩ドーム・離山の裾を西へ回り込み、1918年に開発が始まった千ヶ滝別荘地、中山道の宿場だった追分へ。アントニン・レーモンドの木造教会から、坂茂と西沢立衛の宿、北欧の断熱思想で再生されたドライブインまで、別荘地の設計史をおよそ九十年ぶん辿る行程です。狙うのは葉が落ちて建物の輪郭が見える1月後半から2月。移動は軽井沢駅でのレンタカーかタクシーが前提になります。
| 泊 | ホテル | エリア | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1泊目 | ふふ 旧軽井沢 静養の森 | 離山東麓・雲場池 | 20 | ¥162–¥275k | 全室に暖炉と温泉、59〜113㎡のスイートのみ |
| 2泊目 | SHISHI-IWA HOUSE | 千ヶ滝 | 23 | ¥69–¥86k | 坂茂の No.01・No.02 と西沢立衛の No.03 が同じ通りに並ぶ |
| 延泊・差し替え | haluta hotelli still | 追分 | 3 | ¥48–¥64k | ドライブインを断熱改修、北欧ヴィンテージ家具で設えた全3室 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。ふふ 旧軽井沢 静養の森と SHISHI-IWA HOUSE は2027年1月中旬〜2月末の宿泊分、haluta hotelli still は同時期の販売が確認できなかったため2026年10月〜2027年1月初旬の宿泊分から算出しています。食事条件は宿ごとに異なります。
Day 1 — 軽井沢駅から聖パウロ教会、雲場池へ。離山の東麓に泊まる
東京から北陸新幹線で約70分。軽井沢駅で車を借り、最初に向かうのは旧軽井沢の軽井沢聖パウロカトリック教会です。アントニン・レーモンドの設計で1935年に献堂された木造の小堂。急勾配の三角屋根と尖塔、堂内に現しになった鋏状の小屋組は、のちに軽井沢で繰り返される「木で組む別荘建築」の起点として見ておきたい一棟です。礼拝や挙式の最中は入堂できません。
ここから西へ。六本辻を抜けて雲場池へ出ると、正面に平らな頂の離山が現れます。標高1,256m、浅間山の側火山として生まれた溶岩ドームで、その形からテーブルマウンテンとも呼ばれる山。冬は雲場池の水面が凍り、落葉した唐松の間から別荘の屋根勾配がよく見えます。離山公園の旧近衛文麿別荘(市村記念館)は11月16日から3月31日まで冬期休館のため、この季節は外観を眺めるにとどめる。一泊目は、その雲場池のほとりに建つ全20室の宿です。
1. ふふ 旧軽井沢 静養の森 — 軽井沢町軽井沢・雲場池
雲場池のほとり、離山の東麓に全20室。全室に暖炉と温泉を備え、冬の軽井沢を室内から味わう設計の一軒。
20室、全室スイート仕様のスモールラグジュアリー。
目安価格 ¥162,000–¥275,000 / 泊 (2名1室・1月中旬〜2月)

なぜ選ばれるか
2023年12月24日開業。客室は59㎡から113㎡までの4タイプで、すべてに床暖房、炎の見える暖炉、単純弱放射能温泉を引いた内風呂が備わります。内装の基調はウォールナット。床には絨毯を敷き込み、窓は森の側へ大きく取る。夏の避暑ではなく、冬に籠もることを前提に熱源を重ねた構成が、この旅程の一泊目に据えた理由です。夕食と朝食はレストランのカウンターや個室で供され、日本料理のほか鉄板焼の席も選べます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理への評価が最も厚く、次いでスタッフの応対、客室のつくり、温泉、客室の広さの順に支持が集まっています。一方で少数ながら価格面への指摘があり、価格に見合うかどうかは食事と客室で過ごす時間をどれだけ取れるかに左右されると読み取れます。開業から3年に満たず件数はまだ多くないため、スコアは抑えめに出ています。
向く人 / 向かない人
- 向く: 冬の軽井沢で客室に籠もる時間を主にしたい二人旅、温泉と暖炉の両方を客室に求める人、雲場池や旧軽井沢を徒歩で歩きたい旅程
- 向かない: 別棟・離れ形式を条件にする人(客室は1〜2階建ての棟内)、共用の大浴場を主目的にする人(温泉は各客室の内風呂が基本)、宿泊費を抑えて建築巡りに予算を回したい旅
具体情報
- 最寄り駅: JR軽井沢駅からタクシー約5分。旧軽井沢銀座へ徒歩約15分
- 客室サイズ: 59〜113㎡(スタイリッシュスイート 59〜62㎡、ふふラグジュアリープレミアムスイート 113㎡)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食・朝食ともレストラン(日本料理・鉄板焼、カウンターまたは個室)
- 温泉: 単純弱放射能温泉、全20室に内風呂
- 駐車場: 15台(屋外)、宿泊者無料
- 開業: 2023年12月24日
Day 2 — 離山を西へ回り、千ヶ滝別荘地の森へ
二日目は離山の南を国道18号で西へ進み、中軽井沢から国道146号を北へ上がります。千ヶ滝は、堤康次郎が1918年(大正7年)に開発へ着手した別荘地。旧軽井沢の外国人避暑地とは成り立ちが異なり、区画を整えて分譲する近代の別荘地経営がここから始まりました。吉村順三が1962年に建てた自邸「軽井沢の山荘」は、コンクリートの箱の上に木造の居室を載せた戦後山荘の代表作として知られますが、個人所有で公開されていません。この旅程では、設計思想を踏まえたうえで、見学できる建築を拾っていきます。
千ヶ滝で冬も立ち寄りやすいのは、ケンドリック・ケロッグ設計の石の教会 内村鑑三記念堂。石とガラスのアーチが連なる堂内は、挙式のない時間帯に見学できます。菊竹清訓が設計し1981年に開館したセゾン現代美術館は、約2年の改修を経て2026年6月に再開したばかり。冬期の開館日は公式の案内で確かめておきたい。原広司設計の田崎美術館は開館が春の連休から11月初旬までで、冬は休館です。日が傾く前に、同じ千ヶ滝の森に建つ宿へ入ります。
2. SHISHI-IWA HOUSE — 軽井沢町長倉・千ヶ滝
千ヶ滝の森に、坂茂の二棟と西沢立衛の一棟。プリツカー賞建築家二人の宿泊建築を、同じ通りで歩き比べられる宿。
23室(SSH No.01・No.02 の計)、建築主導のリトリート。ほかに SSH No.03 が10室とヴィラ1棟。
目安価格 ¥69,000–¥86,000 / 泊 (2名1室・1月中旬〜2月)

なぜ選ばれるか
構成は三棟。2018年の SSH No.01(11室)と2022年の No.02(12室)が坂茂、2023年の No.03(10室とヴィラ1棟)が西沢立衛の設計です。No.01 は杉の架構がうねるように森を縫う木造、No.03 は黒い板張りの小さな棟を中庭でつなぎ、内装にヒノキを多用して畳の間も設ける。No.02 の上階にはレストラン「SHOLA」、テラス、バーが集まり、No.01 と No.02 の宿泊者は両棟の施設を行き来できます。各館にはプライベートコレクションの美術作品が掛かり、2026年9月発表のミシュランキーでは3年連続で1キーを得ました。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、スタッフの応対と料理への評価が並んで高く、客室の静けさ、森のなかという立地への支持が続きます。指摘として現れるのは価格と客室の広さ。建築を主題にした宿であり、面積あたりの割安感を求める滞在とは軸が異なることが読み取れます。編集部は建築の密度と土地の文脈を重く見て、三軒のなかで最も高いスコアを付けました。
向く人 / 向かない人
- 向く: 建築を目的に宿を選ぶ人、坂茂と西沢立衛の設計を一度の滞在で見比べたい人、静かな館内で読書と食事に時間を使う二人旅
- 向かない: 広い客室を優先する人(客室面積への指摘が一定数ある)、宿で過ごす時間が短い観光中心の旅程、幼い子ども連れで賑やかに過ごしたい家族
具体情報
- 最寄り駅: JR軽井沢駅からタクシー約10分(公式案内)。東京駅から新幹線で約65分
- 棟構成: SSH No.01 11室 / No.02 12室(坂茂)、No.03 10室+ヴィラ1棟(西沢立衛)
- 開業: 2018年 No.01 / 2022年 No.02 / 2023年 No.03
- 食事: No.02 上階のレストラン「SHOLA」。地元食材によるジャパニーズ・フレンチ、宿泊者以外も利用可
- 館内: ライブラリー、ヒノキの湯船のバスハウス、ティールーム、バー
- 受付: No.01・No.02 の宿泊者は No.02 の2階、No.03 は同館のレセプション
- 留意点: No.03 は宿泊者のみ利用でき、貸切など利用条件が設けられている
Day 3 — 千ヶ滝から追分へ。宿場の分岐点で旅を閉じる、あるいは延ばす
三日目は千ヶ滝を下り、国道18号を西へ。追分は中山道20番目の宿場で、北国街道との分岐点「分去れ」が今も道の股に残ります。旧軽井沢が宣教師の避暑地、千ヶ滝が資本による分譲地だとすれば、追分は街道の宿場に文学者が居着いた土地。堀辰雄文学記念館と追分宿郷土館はいずれも9時から17時の開館で水曜休み、冬も開いています(郷土館は12月28日〜1月4日休館)。宿場の通りは短く、車を置いて歩いても一時間ほどで往復できます。
二泊三日ならここで軽井沢駅へ戻り、車を返して帰路に就く。もう一泊延ばせる、あるいは一泊目か二泊目を差し替えたい場合に編集部が推すのが、追分の国道沿いに建つ全3室の宿です。新築でも保存でもなく、放置されていた建物の躯体を残して性能から作り直すという、別荘地の次の設計課題に対する一つの回答がここにあります。
3. haluta hotelli still — 軽井沢町追分
20年閉じていた追分のドライブインを、躯体だけ残して再生した全3室。断熱と北欧ヴィンテージ家具で冬に向き合う一軒。
3室、常駐スタッフを置かないプライベートホテル。
目安価格 ¥48,000–¥64,000 / 泊 (2名1室・10月〜1月初旬)

なぜ選ばれるか
運営は、2000年から北欧のヴィンテージ家具を扱ってきた haluta。2021年に引き継いだ建物を躯体のみ残して改修し、2023年9月1日に宿として開きました。外壁と内壁の間にはデンマークの冬を前提にした断熱材ロックウールを充填。壁は信州産シリカライムの左官、床は米松、浴槽はヒノキ。71.3㎡のグランドルーム、59.8㎡のステューディオ、33.4㎡に専有テラス32.6㎡が付くテラスの3室で、家具はすべてヴィンテージです。暖房を強めるのではなく、熱を逃がさない外皮で冬を越すという考え方が、この旅程の締めくくりにふさわしい。
集約レビューの傾向
開業から日が浅く、客室も3室のため、公開レビューデータの蓄積はまだ傾向を読める量に達していません。Media Picks Score が三軒で最も低いのは評価が低いからではなく、件数の少なさを算出式がそのまま反映した結果です。編集部の加点は、追分という立地と改修設計の独自性に対するもの。数字よりも、設備と運営方針が自分の旅に合うかどうかで判断したい宿です。
向く人 / 向かない人
- 向く: キッチン付きの客室で暮らすように過ごしたい二人旅、北欧家具と素材の仕上げに関心がある人、静かな環境で仕事や読書をしたい滞在
- 向かない: 12歳未満の子ども連れ(宿泊は12歳以上)、常駐スタッフによる応対や夕食の提供を求める人、客室にテレビを必要とする人
具体情報
- 最寄り駅: しなの鉄道 信濃追分駅からタクシー約5分。軽井沢中心部から車で約15分
- 客室サイズ: 33.4〜71.3㎡(全3室、各室2名まで)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 朝食は haluta のベーカリーのパン。各室にキッチンとダイニングを備える
- 設備: 全室にバスタブ、Wi-Fi。テレビと内線電話は置かない。全館禁煙
- 開業: 2023年9月1日(建物の改修完了は2021年)
よくある質問
Q. この旅程に向く季節はいつですか?
A. 建物の配置と輪郭を見るなら、落葉後の1月後半から2月が向きます。宿の料金も夏や紅葉期より落ち着く傾向です。ただし千住博美術館(12月26日〜2月末)、田崎美術館、市村記念館は冬期休館のため、内部を見たい建築が多い場合は初夏から秋に組み直すのが現実的です。
Q. 冬の移動手段は車とタクシーのどちらがよいですか?
A. 三つのエリアを一日ずつ回るなら、軽井沢駅でのレンタカーが動きやすい。1月から2月は路面が凍結するため、スタッドレスタイヤ装着車を指定してください。雪道に慣れていなければ、駅と宿の間はタクシーを使い、エリア内は歩く組み方でも成立します。
Q. 予約はどのくらい前に取るべきですか?
A. 三軒とも3〜23室と小規模で、週末は早く埋まります。冬の平日は比較的取りやすい時期ですが、haluta hotelli still は3室のみのため、日程が決まった時点で先に押さえておきたい。同宿の冬期分は発売時期を公式サイトで確認してください。
Q. 吉村順三の山荘は見学できますか?
A. 1962年竣工の「軽井沢の山荘」は個人所有で、公開されていません。吉村の設計を軽井沢で見るなら、アトリエ山荘を囲むように建つ旧軽井沢の脇田美術館が手がかりになります。開館期間と山荘の公開日は年により異なるため、事前の確認が要ります。
Q. 子ども連れでも泊まれますか?
A. haluta hotelli still は12歳以上が対象です。ふふ 旧軽井沢 静養の森には定員4名のスイートがあります。SHISHI-IWA HOUSE を含め、子どもの受け入れ条件は予約時に各宿へ確かめておくと確実です。
本記事の参考情報
・軽井沢町公式ホームページ: 追分宿郷土館 — 開館期間と追分宿の資料
・軽井沢町公式ホームページ: 旧近衛文麿別荘(市村記念館) — 離山公園内の別荘建築と冬期休館
・Wikipedia: 追分宿 — 中山道と北国街道の分岐点としての歴史
編集部から
三軒に通底するのは、森に対して建物をどう小さく見せるかという問いです。ふふは20室を低層に抑えて雲場池の樹間に沈め、SHISHI-IWA HOUSE は三棟に分けて千ヶ滝の区画の作法に従い、haluta hotelli still は新しく建てずに既存の躯体を引き継ぎました。レーモンドの教会から数えて九十年余り、軽井沢の設計は「木で建てる」から「どう残すか」へ主題を移しつつあります。冬の三日間は、その変化を建物の外側から読むのに適した季節です。次に歩くなら、浅間山の反対側、御代田や小諸へ下る街道筋でしょうか。それとも同じ道を、葉の茂る季節にもう一度辿るでしょうか。