客室数を 6 以下に抑え、一日に迎える客を数組に限る高級宿として、編集部は伊豆高原「お宿うち山」、金沢東山「山乃尾」、西伊豆堂ヶ島「繭二梁」、由布院「月洸樹 由布院」、氷見「Hashimotoya」の 5 軒を選びました。5月に公開した同じ主題の 5 軒とは重ならない顔ぶれで、いわば第二集にあたります。読みたいのは、もてなしの手厚さではなく、小さく作るという設計判断そのものです。共用部を持たない配置、到着時刻の幅、厨房と食卓の距離。六室以下という数字が、建物と運営のどこに現れているかを、晩秋の旅程に合わせて一軒ずつ確かめます。
| # | 宿 | エリア | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | お宿うち山 | 伊豆高原(伊東市) | 6 | ¥139–¥173k | 木造二階建ての離れ六棟。到着は15:00〜18:30の三時間半に絞る |
| 2 | 山乃尾 | 金沢・東山 | 4 | ¥135–¥187k | 1890年創業の料亭。泊まれるのは離れ 4 室、最大 12 名まで |
| 3 | 繭二梁 | 西伊豆・堂ヶ島 | 6 | ¥117–¥165k | 一組に二部屋・計 150㎡。寝る棟と食べる棟を渡り廊下でつなぐ |
| 4 | 月洸樹 由布院 | 由布院 | 5 | ¥192–¥230k | 130㎡超のヴィラ 5 棟。各棟に内風呂とサウナ、夕食は客室で |
| 5 | Hashimotoya | 氷見・灘浦海岸 | 3 | ¥96–¥123k | 明治創業の料理旅館が、2024年の建て替えで 3 室に絞り直した |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. お宿うち山 — 静岡・伊豆高原
大室山のふもとに離れが六棟。迎えるのは一日六組、到着の時間幅まで設計に含めた一軒。
6室、全棟離れの温泉旅館。
目安価格 ¥139,000–¥173,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
六室という数を、建物の形そのものに置き換えた宿です。客室はすべて木造二階建ての離れで、81〜111㎡。二階に露天風呂と内風呂を重ね、伊豆七島と天城連山の側へ視線を抜いています。棟が分かれており、風呂は各棟の二つだけ。フロントロビーの席も四席に留まります。夕食は食事処、朝食は客室という振り分けも、六組だからこそ無理なく回る運びです。チェックインを15:00から18:30までに限る点に、厨房と客室係の動線を乱さないという運営の意思が表れています。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価は客室の独立性と食事の二点に集まる傾向が見て取れます。離れであること、湯が客室内で完結することへの支持が厚く、朝の土釜ごはんと鮑の餡かけという献立も宿の記憶として残りやすいようです。一方で、送迎がなく、伊豆高原駅からはタクシーが前提になります。到着時刻に幅がないことと合わせ、旅程を宿の側に寄せる必要がある一軒と言えます。
向く人 / 向かない人
- 向く: 記念日の二人旅、客室から出ずに湯と食事を完結させたい滞在、車で伊豆高原を回る旅程
- 向かない: 夕方遅くに到着する旅程(チェックインは18:30まで)、大浴場やラウンジなど共用部の充実を求める人、駅からの送迎を必要とする人
具体情報
- 最寄り駅: 伊豆急行線 伊豆高原駅からタクシーで約 8〜10 分(送迎なし)
- 客室サイズ: 81〜111 ㎡(花・月・雪の 3 タイプ、全 6 棟が二階建ての離れ)
- チェックイン: 15:00〜18:30 / アウト 〜11:00(公式サイト・電話予約は 12:00)
- 食事: 夕食は食事処の会席、朝食は客室(夕食の部屋食プランあり)
- 温泉: 全室に露天風呂と内風呂、泉質はアルカリ性単純泉
- 駐車場: 6 台以上(無料)
2. 山乃尾 — 石川・金沢東山
ひがし茶屋街を見下ろす高台の料亭。泊まれるのは離れ四室、全館で十二名までという一軒。
4室、料亭旅館。
目安価格 ¥135,000–¥187,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
山乃尾は、宿である前に料亭です。1890年創業、初代・太田多吉は北大路魯山人が「金沢の国賓」と評した数寄者で、現在の主人は五代目にあたります。宴席用の広間を複数持ちながら、宿泊に充てるのは弥生・富貴・水仙・白鷺の四室のみ。8畳から20畳までの和室が庭の中に一棟ずつ離れて建ち、全室を使っても定員は十二名です。料理を主に据え、泊まりはその延長に置く。四室という数は、板場が目の届く範囲を先に決めた結果と読めます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理と器、庭を含めた座敷の佇まいに評価が集まる傾向が見て取れます。離れ座敷のため他の客と顔を合わせにくい点も、静けさとして受け止められているようです。一方、建物は年月を経た木造で、白鷺の間のように風呂が階下にある客室もあります。設備の新しさや機能性を物差しにすると、評価が分かれる余地のある一軒です。
向く人 / 向かない人
- 向く: 料理を目的に金沢へ向かう二人旅、茶屋街の夜と朝を歩いて味わいたい滞在、数寄屋の座敷と庭に関心のある人
- 向かない: 一人旅(宿泊は 2 名から)、13 歳未満の子ども連れ(宿泊不可)、直前に予約を決めたい旅程(受付は 5 日前の午前まで)
具体情報
- 最寄り駅: JR 金沢駅からタクシーで約 15 分
- 客室: 宿泊は 4 室(和室 8〜20 畳、すべて離れ)、全室利用で最大 12 名
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 夕食は加賀の会席。席はすべてテーブル席
- 予約: 3 か月前から 5 日前の午前まで。宿泊は 2 名から、13 歳未満は不可
- 料金の目安(公式): 1 泊 2 食付き 1 名 平日 50,300 円〜 / 休前日 53,300 円〜(税・サービス料込)
- 創業: 1890年(明治23年)
- 駐車場: 共用 7 台(予約制ではない)
3. 繭二梁 — 静岡・西伊豆堂ヶ島
堂ヶ島の海に面して六組。一組に「眠る部屋」と「食べる部屋」の二つを割り当てる一軒。
6室、全室温泉露天付きの宿。
目安価格 ¥117,000–¥165,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
繭二梁の六室は、実際には十二の部屋でできています。一組につき、海側の「ゲストルーム」と、渡り廊下の先にある「プライベートルーム」の二部屋を用意し、合わせて150㎡。前者には専用の温泉露天風呂、後者にはダイニングテーブルが置かれ、夕食も朝食もそこで供されます。つまり食事処という共用部を作らず、各組専用の食卓を六つ持つ構成です。2018年、古民家の梁を再利用した二棟として堂ヶ島に建ちました。湯は源泉100%のかけ流しです。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、客室からの海の眺めと、食事を他の客と交わらずにとれる構成への評価が高い傾向にあります。チェックアウトが12:00と遅く、朝食後にもう一度湯に入る余裕がある点も支持につながっているようです。一方、西伊豆は鉄道が通らず、到着までの道のりが長くなります。移動時間を滞在の一部として受け取れるかどうかで、印象の分かれる一軒です。
向く人 / 向かない人
- 向く: 人と顔を合わせずに過ごしたい二人旅、海に沈む夕陽を客室で見届けたい滞在、車で伊豆半島を一周する旅程
- 向かない: 公共交通だけで短時間に着きたい人、大浴場や館内のバーなど共用部で過ごす時間を求める人、和室と布団の旅館様式を望む人
具体情報
- 立地: 堂ヶ島まで徒歩 5 分、堂ヶ島とんぼろまで車 1 分(西伊豆町仁科)
- 客室サイズ: 1 組につき 2 部屋で計 150 ㎡(ゲストルーム+プライベートルーム)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜12:00
- 食事: 夕食は和洋懐石、朝食は三段重。いずれも各組専用のプライベートルームで
- 温泉: 全 6 室に専用の温泉露天風呂、源泉 100% かけ流し
- 開業: 2018年
- その他: 貸切で使う露天ジェットバス付きの部屋「プライベートシエスタ」が 2 室、電気自動車用の普通充電器(有料)
4. 月洸樹 由布院 — 大分・由布院
由布岳の裾にヴィラが五棟。すべて130㎡を超え、湯もサウナも食卓も棟の内に収めた一軒。
5室、全棟ヴィラの温泉宿。
目安価格 ¥192,000–¥230,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
2023年12月に開いた五棟だけの宿です。朱華、白緑、瑠璃、二藍、琥珀と色の名を持つヴィラは、すべて130㎡以上。各棟に温泉の内風呂とサウナを備え、家具にはカッシーナを用いています。大浴場は作っていません。夕食は客室でのインルームダイニングで、連泊の二日目には敷地中央のレストラン棟「浅葱」のカウンター6席で寿司会席を供します。総料理長は由布院の生まれで、大分の食材を軸にした現代的な日本料理を組みます。五組に対して専任の担当者が付く体制も、この室数だから成り立つものです。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、客室の広さと設え、担当スタッフとの距離の近さに評価が集まる傾向が見て取れます。開業から日が浅く、集計の母数はまだ多くありませんが、評価の水準は高いところで揃っています。一方で、本稿の5軒では最も高い価格帯にあたり、数寄屋や古民家のような経年の味わいは持ちません。新しい建築としての完成度を求める人に向く宿です。
向く人 / 向かない人
- 向く: 広さと設備の新しさを優先する記念日の旅、客室でサウナと温泉を繰り返したい滞在、由布院駅から送迎で着きたい人
- 向かない: 畳と布団の旅館様式を求める人、湯の坪街道を歩いて回る拠点にしたい旅程(駅から車で 5 分)、価格を抑えたい旅
具体情報
- 最寄り駅: JR 由布院駅から車で 5 分(無料送迎あり)
- 客室サイズ: 全 5 棟が 130 ㎡以上(瑠璃は 137 ㎡)、1 棟最大 4 名
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食は客室でのインルームダイニング(創作会席)。連泊 2 日目の夕食はレストラン棟「浅葱」のカウンター 6 席で寿司会席
- 温泉: 各棟に内風呂とサウナ、泉質はアルカリ性単純温泉。大浴場はなし
- 開業: 2023年12月
- 駐車場: 5 台
5. Hashimotoya — 富山・氷見
明治から続く氷見の料理旅館が、建て替えで選んだのは三室。能登半島の付け根、海の前の一軒。
3室、料理旅館を前身とするオーベルジュ。
目安価格 ¥96,000–¥123,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
本稿の主題にもっとも直接に答える宿です。氷見市の最北、石川県七尾市との境に近い中田で110年余り続いた料理旅館が、2024年8月に新築で再始動しました。その際、大広間をなくし、客室を三室まで減らしています。四代目の主人は料理人でもあり、一階のダイニングは厨房に隣接。出来上がった皿がそのまま卓に届く距離です。客室は約31㎡のツインで、全室が富山湾に面します。テレビも時計も置かず、虻が島越しの立山連峰を正面に据えました。
集約レビューの傾向
2024年の建て替え後は、集計の対象となる公開レビューデータがまだ薄く、Media Picks Score は控えめに算出しています。確認できる範囲では、氷見の魚を軸にした料理と、海に向いた客室の静けさに評価が集まる傾向です。なお、温泉ではなく、大浴場もありません。浴室は各客室のコンパクトなもので、湯を主目的にする旅とは方向が異なります。料理と眺めのために泊まる宿と捉えるのが適切です。
向く人 / 向かない人
- 向く: 氷見の魚を目的にした二人旅、テレビのない客室で海を眺めて過ごしたい滞在、能登方面へ車で抜ける旅程の一泊
- 向かない: 温泉や大浴場を求める人(温泉ではない)、小学生以下の子ども連れ(宿泊は中学生以上)、一人旅(予約は 2 名から)
具体情報
- 最寄り駅: JR 氷見線 氷見駅から車で約 20 分。バス停「中田」から徒歩 2 分
- 車: 能越自動車道 灘浦 IC から 5 分
- 客室サイズ: 約 31 ㎡(全 3 室、セミダブル 2 台のツイン洋室、定員 2〜4 名)
- チェックイン: 15:00〜(18:00 を過ぎる場合は事前連絡)/ アウト 〜10:00
- 食事: 夕食・朝食とも 1 階ダイニング(厨房に隣接)
- 創業 / 建て替え: 明治創業、2024年8月に新築で再始動
よくある質問
Q. 訪ねる時期はいつが合いますか?
A. 編集部が推すのは晩秋から初冬です。伊豆高原では大室山の茅が枯れ色に変わり、金沢では十一月に蟹の季節が始まり、氷見では寒ブリの時期へ向かいます。日没が早く、客室の湯と夕食のあいだの時間が長くなる季節でもあります。
Q. 予約はいつ頃から動けばよいですか?
A. 一日に 3〜6 組しか受けないため、週末と連休は早い段階で埋まります。山乃尾は 3 か月前から 5 日前の午前までという受付期間を明示しています。他の宿も日程が決まった時点で空室を確かめるのが確実です。
Q. 子ども連れでも泊まれますか?
A. 宿によって線引きが異なります。山乃尾は 13 歳未満、Hashimotoya は小学生以下の宿泊を受けていません。お宿うち山は子ども料金の設定があり、中学生未満を伴う場合は部屋食になります。月洸樹 由布院は年齢の制限を設けていません。
Q. 車がなくても行けますか?
A. 山乃尾は金沢駅からタクシーで約 15 分、月洸樹 由布院は由布院駅から無料送迎があり、鉄道だけで組めます。お宿うち山は伊豆高原駅からタクシー、Hashimotoya は氷見駅から車で約 20 分。繭二梁のある西伊豆は鉄道が通らず、車かバスが前提です。
Q. 大浴場のある宿はありますか?
A. 本稿の 5 軒は、湯を客室の側に置く宿が中心です。お宿うち山は客室の露天風呂と内風呂のみで、月洸樹 由布院と Hashimotoya も大浴場を設けていません。繭二梁は全室に温泉の露天風呂が付きます。Hashimotoya は温泉ではない点に留意が必要です。
本記事の参考情報
・伊東観光協会 — 伊豆高原・大室山周辺の観光情報
・金沢市観光協会 — ひがし茶屋街・東山の観光情報
・氷見市観光協会 — 氷見・灘浦海岸の観光情報
編集部から
5 軒に通底するのは、足し算ではなく引き算で宿の輪郭を決めていることです。大浴場を作らず、湯を客室に収める。食事処を客ごとに分ける、あるいは厨房の隣に置く。到着の時間や予約の締切を狭く取る。いずれも客の自由を少し削る選択ですが、その分だけ板場と客室係の注意が一組に集まります。離れ六棟のうち山と、建て替えで三室に絞った Hashimotoya とでは、建築の形はまるで違います。それでも「誰の目が、どこまで届くか」を先に決めたという点で、同じ設計と言えます。室数という数字の次に、宿は何を削ることで自分の形を定めるのか。次はその視点から、共用部を持たない宿を読んでみたいと考えています。