飛騨高山で、観光客の流れる三町の表通りを外し、本町・花川町・相生町・堀端町の裏筋に建つ上質な旅館として、編集部が選んだ5軒を紹介します。上三之町の格子が並ぶ通りは、昼には人の波で建物の輪郭が見えにくくなります。けれども宮川を一本渡り、あるいは国分寺通りから一筋入ると、質店を転用した大正の町家、茶室様式の数寄屋風客室を持つ昭和初期創業の老舗、町家の文法で組み直された新しい町宿が、生活の音のなかに静かに建っています。紅葉が城山から町へ下りてくる晩秋、日が短くなる季節は、宿の内側で過ごす時間の質がそのまま旅の質になります。創業年、文化財登録の有無、客室露天の有無、料理の担い手をひとつの表に並べ、公開レビューデータを集計した評価と重ねて順位を付けました。

# 宿 エリア 客室 目安価格 1行特徴
1 旅館 寿美吉 本町四丁目(宮川西岸) 8 ¥34–46k 大正12年築の旧質店。2024年に国の登録有形文化財
2 まち宿 壱龍 花川町 11 ¥121–179k 全11室・全室40㎡超、全室に半露天風呂
3 旅館 田邊 相生町 22 ¥65–92k 1934年創業。新館2階は数寄屋風、本館は築100年超
4 本陣平野屋 花兆庵 本町一丁目(中橋・陣屋前) 24 ¥109–145k 陣屋・中橋まで徒歩1分、個室料亭で会席
5 二人静 白雲 堀端町(城山公園入口) 20 ¥35–48k 城山の高台から市街を見下ろす純和風の20室

建物と厨房の履歴

宿 創業・建築年 文化財登録 客室露天 料理の担い手
旅館 寿美吉 旅館としての営業は戦後から。主屋は1923年築 国の登録有形文化財(建造物)2024年登録 なし(川沿いの浴室を貸切利用) 公式に記載なし(夕食は飛騨牛すきやき)
まち宿 壱龍 前身の旅館清龍は創業50年超。2024年11月改装開業 ― 全11室に半露天風呂 飛騨牛を30年扱ってきた料理長(氏名の公式記載なし)
旅館 田邊 1934年(昭和9年) 登録なし(本館は築100年超) 新館「遊墨庵」に半露天檜風呂付き客室 総料理長 笠松勲
本陣平野屋 花兆庵 公式に記載なし ― 半露天風呂付き客室あり 調理長(氏名の公式記載なし)
二人静 白雲 公式に記載なし ― 特別室に温泉露天1室・展望半露天 公式に記載なし(飛騨牛会席)
↕︎ 地図右下の角をドラッグすると高さを調整できます


※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 旅館 寿美吉 — 高山市本町四丁目(宮川西岸)

宮川の西岸、裏通りに残った大正12年築の旧質店。2024年に国の登録有形文化財となった、高山で最も「町の素顔」に近い一軒。

8室、町家造りの料理旅館。

目安価格 ¥34,000–¥46,000 / 泊 (2名1室・通常期)

旅館 寿美吉 — 高山市本町・宮川西岸 · 大正12年築の旧質店を転用した町家旅館の出格子と玄関
PHOTO: 旅館 寿美吉 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

通りに面した出格子は、上を長方形、下を正方形に組む高山特有の縦格子。玄関土間を抜けると吹抜の梁組が頭上に現れ、囲炉裏の据わる帳場へと続きます。文化遺産オンラインの記載では、主屋は1923年築の木造2階建。もとは質店の店舗兼主屋で、公式サイトは「裏通りが幸いし、料理旅館として市民に愛され長く利用されてきたことで、奇跡的に残った建物」と書きます。数寄屋の洗練ではなく、飛騨の大工が町家に注いだ実直な普請を見る宿。客室数は一桁で、夕食は飛騨牛のすきやき、朝は朴葉味噌の和定食という構成です。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建物そのものへの評価と、家族経営ならではの距離の近い応対への評価が突出しています。宮川朝市まで徒歩1分という立地も支持の厚い要素です。一方、浴室・トイレ共用の客室が多いこと、古い木造ゆえの音の伝わりやすさについては、人を選ぶ傾向が見て取れます。設備の新しさを求める旅ではなく、建物に泊まる旅として読まれている宿と言えます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 近代和風建築や町家の普請に関心がある人、朝市と古い町並みを早朝に歩きたい旅程、飾らない家族経営の宿を好む二人旅
  • 向かない: 客室内に浴室を必須とする人(風呂・トイレ付きは一部の客室のみ)、防音性やホテル並みの設備を優先する旅程、客室露天風呂を求める記念日旅

具体情報

  • 最寄り駅: JR高山駅から徒歩15分(タクシー5分)
  • 周辺: 宮川朝市まで徒歩1分、古い町並みまで徒歩5分、高山陣屋まで徒歩7分
  • 建物: 主屋は1923年(大正12年)築、木造2階建。主屋・厨房棟・土蔵が2024年に国の登録有形文化財(建造物)に登録
  • 食事: 夕食は飛騨牛すきやき、朝食は朴葉味噌付きの和定食
  • 浴室: 宮川沿いの浴室を、施錠して家族風呂として利用できる
  • 公式料金の目安: 1泊2食付き 1名あたり 12,650円〜(2名1室利用時、税込)


2. まち宿 壱龍 — 高山市花川町

創業50年超の飛騨牛専門旅館が、1年の改修を経て全11室の町宿に。全室40㎡超、すべての客室に半露天風呂を備える。

11室、小規模の町宿。

目安価格 ¥121,000–¥179,000 / 泊 (2名1室・通常期)

まち宿 壱龍 — 高山市花川町 · 2024年11月に改装開業した全11室の町家意匠の宿、中庭の夜景
PHOTO: まち宿 壱龍 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

前身は「飛騨牛専門 旅館清龍」。1年にわたる大規模改修を経て、2024年11月2日に「まち宿 壱龍」として再開しました。客室は11室に絞り込まれ、うち6室がスイート。最大は100㎡の「天領」、75㎡の「陣屋」と、高山の地名や飛騨の人物名を冠した部屋が並びます。家具は飛騨の木工。夕食は向かいの別棟「168邸」の個室で、30年にわたり飛騨牛を扱ってきた料理長の会席を供します。大浴場を持たず、3つの貸切風呂に振り切った構成も、この規模の宿ならではの判断です。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、客室の広さと半露天風呂、別棟の個室での食事、そして飛騨牛の質への評価が一貫して高い水準にあります。ただし集計には改装前の旅館清龍時代の蓄積が含まれる点は割り引いて読む必要があります。改装後については、ラウンジで地酒と前菜が供される滞在設計や、町の中心で車を預けたまま歩ける利便性への言及が目立ちます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 記念日の二人旅、客室で湯に浸かる時間を重視する人、飛騨牛を主題に食事を組みたい旅程、車で来て町を歩きたい人
  • 向かない: 小学生以下の子ども連れ(館の方針で受け入れていない)、大浴場や露天の大風呂を望む人、築年の古い建物そのものに泊まりたい人

具体情報

  • 最寄り駅: JR高山駅から徒歩7分
  • 客室: 全11室(うちスイート6室)、全室40㎡以上・半露天風呂付き。スイートは60〜100㎡
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 夕食は別棟「168邸」の個室で飛騨牛会席(5コースから選択)
  • 温泉: 大浴場なし、貸切風呂3つ
  • 駐車場: 12台、1泊1,500円
  • 改装開業: 2024年11月2日(前身は旅館清龍)


3. 旅館 田邊 — 高山市相生町

1934年創業、高山本線の全線開通とともに製糸業から旅館へ転じた一軒。新館2階は茶室様式の数寄屋風客室。

22室、老舗の料理旅館。

目安価格 ¥65,000–¥92,000 / 泊 (2名1室・通常期)

旅館 田邊 — 高山市相生町 · 1934年創業、簾越しの光が入る本館の廊下
PHOTO: 旅館 田邊 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

創業は昭和9年(1934年)。高山本線の全線開通を機に、製糸業から旅館業へ転じたと公式サイトは記しています。1963年には司馬遼太郎が滞在し、書を残しました。本館は築100年を超え、2023年に2階の3室を神代欅の組木建具などで改装。2009年開業の新館「遊墨庵」は階ごとに意匠を変え、2階は木の風合いを生かした茶室様式の数寄屋風、3階は飛騨春慶塗の朱を取り込んだ高山風です。夕食・朝食とも客室で供され、総料理長 笠松勲の会席にA5等級の飛騨牛が一品加わります。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、部屋食での丁寧な給仕と、郷土色の濃い会席、朝食の朴葉味噌への評価が安定して高い傾向です。駅と古い町並みの中間という立地も支持されています。本館は客室ごとに間取りが異なるため、滞在の印象が部屋によって分かれやすく、改装客室と一般客室の差を事前に確かめる人ほど満足度が高いと読み取れます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 数寄屋風の客室で部屋食の会席を味わいたい人、老舗の由緒を重んじる旅、三世代での滞在(二間続きの客室あり)
  • 向かない: 遅い時刻に到着する旅程(チェックインは18時まで)、客室の浴槽に温泉を求める人(客室の風呂は沸かし湯)、洋朝食を望む人

具体情報

  • 最寄り駅: JR高山駅から徒歩約7分(タクシー約3分)
  • 客室サイズ: 改装客室 40.5〜51.5㎡(櫻・橘・桂)
  • チェックイン: 15:00〜18:00 / アウト 7:00〜10:00
  • 食事: 夕食・朝食とも部屋食(人数・プランにより個室食事処)
  • 温泉: 大浴場2カ所(檜・岩の内湯は天然温泉、信楽焼露天は沸かし湯)
  • 駐車場: 18台・無料(1室1台、要予約)
  • 創業: 1934年(昭和9年)


4. 本陣平野屋 花兆庵 — 高山市本町一丁目(中橋・陣屋前)

高山陣屋と赤い中橋まで徒歩1分。24室に70人のスタッフを配し、夕食は客室か個室料亭で供する町なかの高級旅館。

24室、都市型の高級旅館。

目安価格 ¥109,000–¥145,000 / 泊 (2名1室・通常期)

本陣平野屋 花兆庵 — 高山市本町一丁目 · 高山陣屋と中橋に近い24室の旅館、夕景の外観
PHOTO: 本陣平野屋 花兆庵 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

立地は5軒のなかで最も観光の中心に近く、陣屋前の朝市へも徒歩1分です。公式サイトは24室に70人のスタッフを配する体制を明記し、駅やバスセンターへの送迎、車の預かりまで館側が引き受けます。客室は18タイプ。2018年と2021年、2023年12月に段階的な改装が重ねられ、半露天風呂付きの客室やスイートが加わりました。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、接客の細やかさと個室での食事、立地の利便性に関する評価が厚く、なかでも会席の完成度への言及が目立ちます。一方で、町の中心にあるぶん窓からの眺めや静けさの印象は客室によって差が出やすく、改装後の客室を指定した滞在ほど評価が安定する傾向が見て取れます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 初めての高山で陣屋・朝市・三町を徒歩で回りたい人、給仕の手厚い旅館らしい滞在を望む人、赤ちゃん連れの家族(専用プランあり)
  • 向かない: 建物の古さや普請そのものを目的にする人、町の喧騒から離れた環境を優先する旅程、客室数一桁の小宿の距離感を望む人

具体情報

  • 最寄り駅: JR高山駅から徒歩10分(車3分、駅・バスセンターへの無料送迎あり)
  • 客室: 24室・18タイプ(半露天風呂付き客室、スイートを含む)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 夕食は客室または個室料亭、朝食は個室食事処(和・洋から選択)
  • 駐車場: 50台・無料(チェックイン前・アウト後も預かり)


5. 二人静 白雲 — 高山市堀端町(城山公園入口)

城山公園の入口、坂の途中に門を構える20室。古い町並みまで徒歩5分、町の屋根並みを見下ろす高台の純和風旅館。

20室、高台の純和風旅館。

目安価格 ¥35,000–¥48,000 / 泊 (2名1室・通常期)

二人静 白雲 — 高山市堀端町・城山公園入口 · 森に面した特別室の温泉露天風呂
PHOTO: 二人静 白雲 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

5軒のうち唯一、町の外縁の高台に建つ宿です。所在地は堀端町、城山公園の入口。木造の純和風の館で、客室はすべて造りが異なり、多くの部屋が町側に開いています。特別室のうち1室は館内で唯一温泉を引いた露天風呂付きで、森に面しています。ほかに町並みを一望する展望半露天の客室も。夕食は飛騨牛を主題にした会席で、個室または広間で供されます。駅から離れる代わりに、夕暮れから夜景へと移る町を部屋から眺める時間が手に入ります。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、客室と展望テラスからの眺め、飛騨牛の会席、城山側の静けさへの評価が高い傾向です。坂の途中にある立地は、徒歩での移動や駐車の面で人を選ぶ要素として挙がります。客室ごとの差が大きいため、特別室か一般客室かで印象が分かれやすい宿と言えます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 町を見下ろす眺望と静けさを両立したい人、城山公園の紅葉と合わせて歩く晩秋の旅程、飛騨牛会席を5軒のなかでは抑えた価格帯で組みたい人
  • 向かない: 駅から歩いて入りたい人(徒歩15〜20分・坂道)、乳幼児連れ(ベビー用品の用意なし)、全室温泉の客室風呂を求める人

具体情報

  • 最寄り駅: JR高山駅からタクシー約5分、徒歩15〜20分(15〜18時は駅への迎えあり)
  • 客室: 20室(檜風呂・陶器風呂付き。特別室に温泉露天1室、展望半露天あり)
  • チェックイン: 15:00〜18:00 / アウト 〜10:00
  • 食事: 夕食は個室または大広間で飛騨牛会席、朝食は広間でお膳の和食
  • 周辺: 古い町並みまで徒歩5分
  • 駐車場: あり・無料(坂道の駐車)


よくある質問

Q. 晩秋の飛騨高山を訪れるなら、いつが適していますか?

A. 市街の紅葉は例年10月下旬から11月上旬が中心で、城山公園から色づきが町へ下りてきます。10月9・10日の秋の高山祭の前後は宿が早く埋まり価格も上がるため、祭りを外すなら11月の平日を編集部は推します。12月に入ると降雪の可能性があり、車ではスタッドレスタイヤが前提になります。

Q. 予約はどのくらい前から動けばよいですか?

A. 小規模な宿ほど紅葉期の週末は早く埋まります。客室数が一桁の旅館 寿美吉や、全11室のまち宿 壱龍は、紅葉期の土曜泊なら2〜3カ月前の確保が現実的です。キャンセル規定は宿ごとに異なり、旅館 田邊は4日前から30%がかかります。

Q. 子ども連れでも泊まれますか?

A. 宿により方針が分かれます。まち宿 壱龍は小学生以下を受け入れておらず、旅館 田邊も改装客室は小学生以下不可です。本陣平野屋 花兆庵は赤ちゃん連れ向けのプランを用意し、旅館 寿美吉は年齢別の子ども料金を設けています。

Q. 高山駅からのアクセスは?

A. JR高山駅から徒歩圏は、まち宿 壱龍(7分)、旅館 田邊(約7分)、本陣平野屋 花兆庵(10分)、旅館 寿美吉(15分)。二人静 白雲は坂の上にあり、タクシーで約5分、15〜18時は駅までの迎えがあります。名古屋からは特急ひだで約2時間20〜30分です。

Q. 海外からの旅行者も泊まりやすいですか?

A. 旅館 寿美吉、まち宿 壱龍、旅館 田邊、本陣平野屋 花兆庵はいずれも英語の公式ページを持ち、二人静 白雲は英・中・韓の翻訳表示に対応しています。町家や数寄屋の空間そのものを体験したい訪日客には、建物の由緒がはっきりした寿美吉と田邊が向いています。

本記事の参考情報

・文化遺産オンライン: 寿美吉旅館主屋(旧住質店店舗兼主屋) — 建築年・構造・登録年月日
・飛騨高山旅ガイド(飛騨高山観光公式サイト) — エリアの観光情報
・Wikipedia: 高山市三町伝統的建造物群保存地区 — 保存地区の範囲と歴史
・Wikipedia: 数寄屋造 — 数寄屋普請の基礎知識

編集部から

5軒に共通するのは、三町の表通りから半歩外れた場所に建ち、町の日常の音を窓の外に残していることです。大正の質店をそのまま使い続けた寿美吉、昭和初期の老舗に数寄屋風の新館を足した田邊、町家の文法を新しい寸法で組み直した壱龍。建物の時間の流れ方がそれぞれ違うことは、比較表の創業年と文化財の欄を並べると見えてきます。晩秋の高山は、朝市の立つ7時台と、観光客が引いた夕方の2つの時間帯に、裏通りの表情が最も濃くなります。宿の選択は、その2つの時間をどこで迎えるかの選択でもあります。次に訪ねるなら、同じ飛騨の奥、白川郷や奥飛騨の湯宿をどう読むか。あなたなら、どの時間を宿の内側で過ごしますか。

次に読むなら