広島から尾道、そしてしまなみ海道の島へ。戦後復興の建築群を出発点に、瀬戸内海の小さな宿を二泊三日で渡る編集部の旅程である。丹下健三が設計した広島平和記念資料館の大屋根を仰ぐ初日。坂の街・尾道で Studio Mumbai 設計の宿に泊まる二日目。三日目はしまなみ海道を西へ進み、生口島で塩田廻船問屋の旧邸を改修した宿へ。建築家名と開業年が明確で、室数を絞った宿のみを 3 軒選び、移動の手段と所要時間まで具体的に記す。初夏の好天期、もしくは初秋の澄んだ空気のなかで歩きたい行程である。
| Day | 宿 | エリア | 室 | 設計 |
|---|---|---|---|---|
| Day 1 | KIRO 広島 by THE SHARE HOTELS | 広島市中区 | 49 | 1990 年築の複合ビルを改修 / 田中裕之建築設計事務所 |
| Day 2 | LOG | 尾道市・千光寺山 | 6 | Studio Mumbai / Bijoy Jain (印・2018 改修) |
| Day 3 | Azumi Setoda | 尾道市・生口島瀬戸田 | 22 | 旧堀内邸 (1876 年築) を Azumi (Adrian Zecha) 主導で改修・2021 開業 |
Day 1 — 広島市内、戦後復興建築をめぐる一日
新幹線で広島駅に降り、市電または徒歩で平和記念公園へ。丹下健三設計の広島平和記念資料館は 1955 年竣工、ピロティで地表から持ち上げられた箱状のヴォリュームが原爆ドームへの軸線を結ぶ、戦後日本建築の出発点である。公園を縦断し、元安川を渡って原爆ドームを仰ぎ、中区中心部へ。本通商店街と並木通りを歩き、戦後の都市再生がどのような尺度で行われたかを観察する。夕食は流川 (ながれかわ) 界隈で広島の食材を扱う小規模店を選びたい。宿は八丁堀エリアの一軒へ。
KIRO 広島 by THE SHARE HOTELS — 広島市中区
1990 年築の複合ビルをリノベーションした 49 室。屋内プールだった空間が、いまは朝食会場を兼ねたゲストラウンジになっている。
49 室、デザイン複合ホテル。

なぜ選ばれるか
八丁堀エリアに位置する、1990 年築の複合ビルを改修したホテルである。3 階の旧屋内プールをラウンジ「THE POOLSIDE」に転用、午前中は朝食、夕方からはバー、コーヒースタンドの担い手は広島各地のバリスタが日替わりで入る。客室は 11 タイプに分かれ、シングル占有の小型から 4 名の連泊型まで設計が分散している。シェアホテルというカテゴリーの先駆けでもある運営の確かさが、初日の宿として選ぶ理由になる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、立地への評価が最も安定する。平和記念公園・原爆ドームまで徒歩 15 分以内、市電の停留所も近く、初日の市内移動を圧縮できる点が支持される。客室は機能的・洗練系の評価が中心で、純粋なラグジュアリーを求める層には向かないという声も散見される。価格と立地、建築の文脈、運営の方向性が均衡している一軒として読まれている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
広島市内の戦後建築を歩いて回りたい人、デザインホテル系の運営に慣れた旅行者、初日を機動的に過ごし二日目以降に予算を寄せたい行程 -
向かない:
純粋な高級志向 (大浴場・温泉付き・伝統旅館を希望する人)、フルサービスの接客を期待する旅行者
具体情報
- 最寄り駅: 広島電鉄「八丁堀」電停から徒歩約 6 分、JR 広島駅からタクシー約 7 分
- 平和記念公園: 徒歩 15 分
- 客室: 49 室・11 タイプ (1 名〜4 名対応)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 朝食のみ (THE POOLSIDE ラウンジ)、夕食は周辺の流川・八丁堀へ
- 開業: 2019 年 9 月 (建物は 1990 年築の複合ビルをリノベーション)
Day 2 — 広島から尾道へ、坂の街と Studio Mumbai の宿
朝、広島駅から山陽本線で東へ約 1 時間 30 分、尾道駅着。荷物を駅前のロッカーに預け、まずは商店街と海岸通りを歩く。千光寺山ロープウェイで山頂展望台に上り、坂の街の地形と尾道水道の縮尺を視覚で確認したのち、徒歩で下りながら通称・猫の細道を抜けて坂の中腹へ。LOG はその斜面に建つ。1963 年築の集合住宅をフルリノベーションした建物で、Studio Mumbai (印・ムンバイ) の Bijoy Jain による設計監修。インド国外で同事務所が手がけた初の建築でもある。
LOG — 尾道市・千光寺山中腹
Bijoy Jain が「やわらかく包む (be gentle)」と語った 6 室。和紙と土が、躯体の硬さを溶かす。
6 室、リノベーション型ブティック宿。

なぜ選ばれるか
建物の正式名は LOG (Lantern Onomichi Garden)。1963 年に建った 3 階建ての旧・新道アパートを 2018 年に改修した。Studio Mumbai は素材と職人の手仕事を中心に置く建築事務所として知られ、ここでは漆喰、和紙、織物、染色を用いて躯体のコンクリートをやわらかく包んだ。客室は 6 室のみ、3 階の宿泊フロアからは尾道水道と向島が一望できる。カフェ・レストラン・ライブラリ・ギャラリーが同居する複合施設であり、宿泊者は同フロアのライブラリを利用できる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、建築・空間の固有性に対する評価が一貫している。料理は季節の野菜や果物を軸にした構成で、滞在全体のキュレーションを評価する声が目立つ。一方で、坂の中腹にある立地のため駅からのアクセスに最低限の覚悟が要る点、設備の規模より体験を選ぶ宿である点が、好き嫌いの分かれ目として認識されている。
向く人 / 向かない人
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向く:
建築・現代美術に関心のある旅行者、ブティック規模のキュレーションを好む人、徒歩と階段を厭わない人 -
向かない:
車椅子・大型荷物の移動を要する人 (千光寺山中腹で段差あり)、大浴場や温泉を必須とする旅程、子連れ家族旅行
具体情報
- 最寄り駅: JR 尾道駅から徒歩約 15 分 (坂・階段あり) / タクシー約 5 分
- 客室: 6 室 (3 階フロア)、定員 2 名中心
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: ダイニング (季節の野菜・果物を軸にした料理)、朝食・夕食ともに館内 (夕食は前日 15 時までの予約制)
- 設計: Studio Mumbai Architects / Bijoy Jain (印)、2018 年改修開業
- 原建物: 1963 年築・3 階建て集合住宅をリノベーション
Day 3 — しまなみ海道を西へ、生口島の旧廻船問屋へ
朝、尾道港から高速船で約 40 分、瀬戸田港着。あるいはレンタカーで因島大橋・生口橋を渡り、約 40 分。瀬戸田は江戸期から塩田と廻船で栄えた、生口島の港町である。耕三寺・平山郁夫美術館、潮聲山耕三寺の境内を歩き、午後は瀬戸田サンセットビーチへ。夕刻、しおまち商店街を抜けて Azumi Setoda へ。明治期 (1870 年代) 築の旧堀内邸を改修した宿である。
Azumi Setoda — 尾道市・生口島瀬戸田
Aman 創業者 Adrian Zecha が手がけた旅館ブランドの旗艦。1876 年築の廻船問屋邸に、22 室。
22 室、邸宅改修型旅館。

なぜ選ばれるか
Azumi は Aman リゾーツの創業者である Adrian Zecha が手がけた旅館ブランドで、Setoda はその旗艦となる一軒。1876 年に建てられた塩田廻船問屋・堀内家本邸を改修し、2021 年 3 月に開業した。木造母屋と中庭、土蔵を活かしつつ、22 の客室はモダンに再構成されている。食事は瀬戸内の魚介や野菜、柑橘を軸にした季節のコースで、特定の料理ジャンルには寄らない。器には堀内家に代々伝わるものが用いられる。同じ通りを挟んで姉妹施設の銭湯 yubune が併設され、宿泊者は無料で入浴できる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、空間構成と素材、サービスへの評価が高い水準で揃う。塩田廻船問屋という土地の歴史と、現代の旅館オペレーションが破綻なく接続している点が支持されている。価格帯は高く、瀬戸田までの移動距離 (広島市内から約 2 時間) を許容できるかどうかが選別軸として現れる。アクセスを織り込んで二泊三日の最終地点に据える設計が、編集部の推す使い方になる。
向く人 / 向かない人
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向く:
記念日のための宿を一軒選びたい人、Aman / Azumi のオペレーション哲学に関心がある層、しまなみ海道のサイクリングと組み合わせたい旅行者 -
向かない:
短時間で複数都市を回るタイトな行程、和食・会席料理を主目的とする人 (夕食は特定の料理ジャンルに寄らない季節のコース)
具体情報
- 所在: 広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田 269 (生口島・しおまち商店街)
- アクセス: 尾道港から高速船で約 40 分、または車で尾道からしまなみ海道経由 約 40 分
- 客室: 22 室 (中庭を囲む数寄屋造りの客室。2 階建てメゾネットタイプもあり)
- 食事: 季節のコース (瀬戸内の食材・堀内家伝来の器を使用、火・水曜は夕食なし)
- 開業: 2021 年 3 月 (建物は明治期 1870 年代築の旧堀内家本邸)
- 付帯施設: 銭湯 yubune (姉妹施設、宿泊者無料)
移動と時間の組み立て
編集部が想定する標準的な所要時間と移動手段を以下に整理する。総移動約 110 km、レンタカー利用が最も柔軟だが、在来線と高速船の組み合わせでも完走できる。
- Day 1: 広島駅 → 市電「八丁堀」電停 → KIRO 広島 徒歩約 6 分。平和記念公園は徒歩 15 分圏
- Day 1 → 2 移動: 広島駅 → JR 山陽本線で尾道駅 (約 1 時間 30 分) → タクシー約 5 分または徒歩約 15 分で LOG
- Day 2 → 3 移動: 尾道港 → 瀬戸田港 高速船で約 40 分、または車で尾道からしまなみ海道経由 約 40 分
- 復路 (Day 3 → 高松/広島): 瀬戸田港 → 高速船で尾道へ戻り JR、または車で今治経由しまなみ海道→高松 (約 2 時間 30 分)
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 編集部が推すのは初夏 (5–6 月) と初秋 (9–10 月)。湿度が落ち着き、瀬戸内海の島嶼部の視程が伸びる時期である。盛夏は湿度と紫外線、真冬は瀬戸内特有の海風が体感気温を下げるため、徒歩での移動を含む本行程ではこの 2 つの時期に絞ると快適性が大きく変わる。
Q. レンタカーは必要ですか?
A. 必須ではない。Day 1–2 は広島市内・尾道市内ともに公共交通で完結し、Day 2 → 3 の生口島移動も尾道港からの高速船 (40 分) で行ける。ただし瀬戸田での島内移動、しまなみ海道の橋を渡る体験を組み込みたい場合はレンタカーまたは E-Bike が選択肢になる。Azumi Setoda は瀬戸田港から徒歩圏。
Q. 予算配分の目安は?
A. 編集部の組み方では、三日目を最も重く設定し、最終地点に旅程の重心を置く。戦後復興建築 → 改修ブティック → 明治期邸宅改修という建築の時間軸とも整合する配分である。料金は時期と客室タイプで大きく動くため、各宿の公式サイトで確認したい。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. KIRO 広島は機能的な客室で家族利用にも対応する。LOG は 6 室の小規模・段差ありで、子連れの行程としては推さない。Azumi Setoda は家族での宿泊も受け入れており、6 歳以上は大人として数え、2 階建ての客室なら 3 名まで泊まれる。
Q. 食事はどう設計されているか?
A. Day 1 (KIRO) は朝食のみ館内、夕食は流川・八丁堀の小規模店で広島の食材を扱う一軒を選ぶ。Day 2 (LOG) は朝食・夕食ともに館内 (夕食は予約制)。Day 3 (Azumi Setoda) は瀬戸内の食材による季節のコースが夕食に組み込まれる (火・水曜は夕食の提供なし)。和食を主目的とするなら、本行程は外食パートに比重を置いた構成になる。
本記事の参考情報
・日本政府観光局 (JNTO) — 広島・瀬戸内エリアの観光情報
・Wikipedia: 広島平和記念資料館 — 丹下健三設計・1955 年竣工の経緯
・Wikipedia: しまなみ海道 — 本州・四国を結ぶ橋梁群の概要
編集部から
丹下健三 (1955)、Studio Mumbai (2018 改修)、Adrian Zecha (2021 開業)。3 軒は別々の文脈に属しながら、瀬戸内海という共通の風景のもとに繋がる。戦後復興の幾何学的な建築から、現代の手仕事の建築、そして明治期の邸宅改修へ。建築の時間軸を逆行するように歩くこの行程は、それぞれの宿の意図を独立して読むのとは別の輪郭を浮かび上がらせる。次は、しまなみ海道を渡り切って高松・直島の建築軸へ続ける旅程を、編集部は構想中である。